第10話――エピローグ

 彼女は陵の家を出ると、ある場所に辿り着き、立ち止まった。遠くで黒いコートを着た男が、彼女の視線に気づいてこちら側を向いた。しかし、男はすぐ施設の奥へと歩いて行った。彼女は家に帰る振りをして、陵の跡をつけていた。残念な結果になってしまった。おそらく何かを伝えたくて、ここまで来たというのに。組織に入る彼を、迎え入れる覚悟は出来ているというのに、彼女は氷峰駈瑠という男に挨拶する事すら出来なかった。一歩前に足を踏み込んで、施設の中へ入ってしまおうかとも考えた。だがそんな勇気は持ち合わせていなかった。


「何してんだろ……あたし……」

 ――今日はもう帰ろう……。


 施設の正門を通り過ぎた時、俺はふと歩みを止め、後ろに振り向いた。

「君も会いに来たのかい……」

 俺は儚げにそう呟いて、あの男が待っている施設の奥へと進んだ。

 彼女との付き合いは、あの男と会った後も続いていた。

 氷峰駈瑠は何かに取り憑かれたように、自ら撒いた種の後始末を続けているそうだ。


 その末路は、この施設で試行されることに繋がっていた。

 彼もまた闇に魅入られた者の一人であると、氷峰駈瑠はこの俺に言った。





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闇に魅入られた者の行方《陵莞爾―過去篇―》 メラミ @nyk-norose-nolife

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