一種の中二病な公爵令息が泣かされて恋に落ちる

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どんでん返し

私は人との交流が大嫌いだ。私はなまじ頭がよかったから他の子供と過ごすのが苦痛だった。頭が悪くて話が通じないのだ。家庭教師から政治や歴史の話を聞いている方がよほど有意義だ。


(他の人よりも心の成長が早いのだろう、そのうち周りも追い付いて来るだろう)


家庭教師は私にそのように言う。


子どもたちは菓子が美しく積まれたテーブルの近くで交流しているようだった。喉が渇いていたので、そのテーブルに近づいた。他の子供に気づかれないように。


「ヴィランドル様!」


最悪だ。先日うちに来た子爵家の令嬢のエカテリーナが挨拶もなしに私に抱きついた。


私は馬鹿たちとの交流に引きずり混んだバカを見た。エカテリーナは私の恨みがましい顔にヘラヘラしたアホみたいな顔をしている。




「エカテリーナ様、非常識です!挨拶もせずに男性にいきなり抱きつくなんて!」


急に現れた伯爵令嬢のソフィアが毅然とした態度で言い放った。


少し不満そうな顔をして離れたエカテリーナは一歩下がりドレスの裾を少し摘んで淑女の礼をして見せた。




「申し訳ございませんでした。ヴィランドル様を驚かせてしまったようで...久しぶりにお会い出来て嬉しい気持ちが溢れてしまいましたために、挨拶が遅れてしまいました。」


ふわりと顔を上げた彼女の顔は心底申し訳がないという風に眉を下げ、謝るのにぴったりの顔を貼り付けていて、さっきの不満そうな顔はどこに行ったのかと思った。


「ソフィア様、そこまで強く言わなくても良いでしょう?エカテリーナ様が可哀想ですわ。」


どこからかそんな声が聞こえ、他の子息子女達も少し言い方がきついのではと、ソフィアを見とがめた。



「ヴィーラ様行きましょう」


子息子女の言葉に耐えかねたのかソフィアはテーブルから二人分の紅茶をとり、颯爽と薔薇園の迷路のような入口へと歩き出した。私はエカテリーナの誘いを振り切りついて行った。その方が大人数と交流しなくても良さそうだったから。




噴水のあるところまで来て、ソフィアはちらりとこちらを見る。


「あの者達は頭が悪いんですわ。」


私と同じ考えだ。それからソフィアは貴族についての自分の考えを述べた。ずっと文句を言っていた。

お茶会なんかよりも勉強の方が楽しいだの、話の内容に中身がなくて非生産的でつまらないだの、男女が共に活躍できる社会だの、私に同意を求めてきた。私も大いに同意した。


私と同じような考え方をする人間に出会えて私は感激した。それから色々な話をした。




ふと見つけた、エカテリーナの周りにはたくさんの子息子女がいて談笑していた。




「あの者達は群れるしか能がないのかしら」


ソフィアの言葉に私も頷いた。



■□▪▫■□▫▪■□▪▫


本日は我が公爵家主催のお茶会だ。夫人と子供で行う。ソフィアもエカテリーナも来るだろう。

エカテリーナは時間ぴったりにきて私と母上に恭しく淑女の礼をして、丁寧な挨拶を重ねた。その後も何人か来て挨拶が終わりお茶会が始まった。




皆がニコニコと笑い、和やかな雰囲気で始まったお茶会は途中夫人たちが化粧品の話や王都で流行りの服の形の話をしたりで自由な話題で楽しんだ。今はブラウン夫人が話題にあげた、隣国から最近輸入され始めた珍しい果物などの話である。


「珍しい隣国の果物を食べてみたい」


エカテリーナはそんなことを言いながら今日一日ずっと無愛想で明らかに顔につまらないと書いてあるソフィアに話を振った。


「ソフィア様はお食べになったことあるの?」

「なぜこんな身にならない話ばかりするのでしょう」


空気が固まった。いや凍りついた。私は初めてこんな体験をした。それなのにソフィアはまだ続けた。


「女性だってもっと政治や経済の話をするべきでしょう」


お茶会の参加者の夫人達もまさに絶句、沈黙に包まれた。そこで最初に切り返したのはエカテリーナだった。

「なるほど、興味深いですわ。」


皆がエカテリーナに視線を移す。


「隣国との国交が急に盛んになったのには何か理由がございますの?」


エカテリーナはブラウン夫人に視線を移して尋ねた。他の参加者もブラウン夫人に視線を移した。


「ええ、最近隣国の王子が留学生として我が国に滞在している関係でしょう。」


お茶会はブラウン夫人の返答の後その空気を誤魔化すように話題を2、3変えながら終わった。


ブラウン夫人はソフィアを連れ、逃げるように公爵邸を後にした。その後母上はひどく残念そうだった。今回の茶会の主催者は母上だった。自分の開いた茶会を台無しにされたのだから仕方ない。


「茶会という場所は、多くの役割があるわ。夫人たちで、腹を探って情報を集める場所でもあるわ。あなたの学び場は座学の場だけではないわのよ。」

私は母上に重ねて質問した。


「何故エカテリーナに手紙を書いているのですか」


「今日のご息女の失態はブラウン夫人の責任よ。あの場でフォローしなければならなかった。エカテリーナはそれを彼女なりの方法で収めたのよ。政に関して好き勝手お茶会で言うなんてしてはいけないこと。それを夫人が多くいる場でいえば夫に話が行くでしょうし。」


ブラウン夫人は後日謝罪の手紙とともにあの果物が届けられた。ソフィアからも手紙が届いたが、文句ばかりだった。あんなに共感できたのに何故だか分からないが愚かに見えた。私自身も空っぽに思えた。胸が痛い。



ーーーー

それからまた王族が主催した茶会が開かれた。ソフィアは私に会って挨拶もそこそこに詰め寄ってきた。


「なぜ手紙の返事をくれないのですか!」


「すまない、返す必要が無いものかと思ったんだ」


私の返答が彼女の顔を高圧的で挑戦的なドレスと同じ真っ赤に染め上げた。


「甲斐性が無さすぎますわ!それでは失格ですわ!」


彼女の文句に生返事を返して私はエカテリーナを探した。母上の話を聞いてからエカテリーナは実はちゃんと物事を考えられる頭のいい女なんじゃかいかと思っていた。


大体彼女は大きな談笑している輪の真ん中にいるからすぐに見つかる。私はエカテリーナのいる輪に割って入った。


「エカテリーナ、君と話がしたい」


私はそのまま踵を返し以前、ソフィアに引っ張られて一緒に話をした噴水の前まできた。振り返ると、すぐ後ろにエカテリーナはいなかった。




「遅い!何をしていた!」


「ごめんなさい。先程まで一緒にいた方々に急に話を抜けることになる謝罪をしておりました。」


なんだか自分が理不尽な人間に思えた。また胸が痛い。


「...そうか」


「あの、私と話したいこととは...?」




そういえばそれについて昔母上に言われたことを思い出した。自分が無礼なことをしたと今頃知った。彼女は私に挨拶もしないで抱きついてきたことがあるくらい非常識だったのに実に礼儀正しくなったようだ。だが彼女は実際、今貴族としてに社交をこなしている。ソフィアよりずっと淑女に相応しい。彼女は一年もかけず、ソフィア以上の教養を身に付けたというのか!




「君はどうやって淑女としての教養を身につけたんだ?」


エカテリーナはまたぽかんとしてなかなか答えず、私は焦れる。やっと問いを理解したのかエカテリーナは困ったような顔をした。




「私は新しく教養を身につけたわけではございません。」じゃあなんだと聞けば経験だという。そんなもので、彼女は成長したのか?


なんだか余裕たっぷりで一回り大きくなったような彼女は会う度に成長してる。フォローだってさり気ないものになっている。




ふと家庭教師の言葉を思い出した。エカテリーナはもしかして、私に追い付いてきたのかもしれない。出だしは私の方がエカテリーナより早かったのに、彼女はすごい速さで後ろから追いかけて追い抜いて手の届かないところに行ってしまった。




なんだか張り合うことも出来ない位置にいると思いエカテリーナに全部話してしまった。こういう話しやすいこともエカテリーナの魅力かもしれない。彼女の社交力の高さを実感した。


彼女はそれらを聞いた後ゆっくり言った


「お話を聞いてヴィランドル様は緩徐に鈍感なのかと思いました。ソフィア様にご自分を重ね合わせていらっしゃったのではありませんか?」




私は衝撃だった。それではまるで自分で、自分に共感し自分自身を慰め、自身を愛していたということではないか!私がまるで飢えているようだ。私はこれまでさらしていた醜態を思い返し恥ずかしくなる。


「ヴィランドル様!」


後ろで驚いたように名前を呼ばれるがもう彼女の顔を見ることなんてできない。彼女は私ほど登城したことなんてないだろう。




がむしゃらに走り女神像の影でやっと立ち止まる。

私はほんの少しまだ花開く前の固い蕾が柔らかな花びらに変化して花開くその前にもぎ取られた恋の成り損ないが唯の傷の舐め合いだったと知った。私は確かにソフィアの共感に心地よいと感じた。しかしただそれだけだったのだ。それは決して恋にはなりえない。


不安に飲まれ涙が込み上げる。



「ヴィランドル様!」


私の名を呼ぶ耳に残る少し高い声が聞こえた。



なんだか感情の処理が追いつかない。


泣き顔を見られたくなくて手で顔を覆った。



「私とお友達になってくださいまし!」


意味のわからない急な言葉を聞いて敵ばかりの恐ろしい世界での味方を見つけたみたいに思えた。

「っひ...ぁ...ッ好きにしろ!」

少し震えた声で投げやりにそう返した私の隣にわざわざ座って、ニコニコ笑って私の背中を撫でてきたのもまた気に食わない。




お茶会がお開きになり別れの挨拶をする時私の方からわざわざエカテリーナに近づいて言ってやった。今まで色々と気づかなかった私もとうとうエカテリーナに勝った。私はエカテリーナより先に気がついたんだ。びしっと指を立てて。

「友達は期間限定だ!覚悟しておくといい!」

彼女はすぐに狼狽えた表情になって慌てていた。

言い切ったあとスッキリして嬉しくなった。私は決して鈍感なんかではない!私はエカテリーナに好感を持っているのだ!私は少し自分に自信が付いた。





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