縁側。君のとなり。アイスを添えて。

 待ち合わせの時間からもう三十分は過ぎただろうか。兄貴が絵の具で、真っ白なキャンバスに色を与えていたころ、俺の電話が鳴りだした。杏奈のお義母さんからだ。

「もしもし」

「あ!朋樹君?」

「はい、そうです」

「杏奈とパパが大変なことになっているの!」

「……え?」

「とにかく○×病院まで急いで!」

「わかりました!」

 車でここに来ていた兄貴にそのことを説明し、病院まで飛ばした。


 もう少し早くたどり着けていたら、何か変わっただろうか。俺が病院に着いたとき、既に杏奈は集中治療室で最後の踏ん張りを見せていた。しかし、彼女の努力もむなしく、数分もしないうちに、息絶えた。

 俺は機械的に両親を呼び寄せていた。電話で。

 そして、しばらくしてから、杏奈がいる霊安室に、彼女の両親と一緒に入った。それっきり、そこを離れたくなかった。



「……平気か?」兄貴がやってきた。

「……今までどこに行ってたんだ?」

「ちょっと家まで」

「……それで、何を持ってきたんだ?」

「俺の作品」

「……」

「中に入れてもいいか?」

「お義父さんとお義母さんに許可もらったらな」

「それは既に取ってる」

「わかった」

 そして、俺が見たものは、あまりにもリアルな夏の風景だ。しかも見覚えがある。

 そうだ。俺の家の縁側だ。

 気が付くと、俺は杏奈の顔を覆っていた布をはがしていた。

 ふと前を見ると、兄貴が丁寧にその絵を飾っていた。

 そしてすぐに杏奈が、話しかけてくるような気がした。

「ねえ、朋樹。アイス取ってきてよ」

「なんでさ。杏奈の方が近いだろ?」

 無意識に、俺は笑っていた。

「いいでしょ。そんなので寿命縮むわけじゃないのに」

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縁側。君のとなり。アイスを添えて。 深谷田 壮 @NOT_FUKAYADA

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