ほら。キンキンに冷えてるぞ。
アイスを届ける間に、俺は昨日のことを思い出していた。俺は実家の最寄り駅で、二人を待っていた。
一人は杏奈。小中高までずっと同じ学校。大学も、地元から二人で上京した。高三の夏に付き合った俺たちは大学こそ違うものの、親に内緒で同居し、密かに愛を育んでいた。
いわゆる、腐れ縁ってやつだ。
もう一人は、俺の兄貴。4年も先に上京を果たし、誰もが一度は耳にしたことがある大企業に勤めている。と、誰もが羨む兄である。更に、彼は絵の才能があるらしく、地域の絵画コンクールで賞を幾度も取っている(今でも趣味で絵描きをやっている)。
天が二物を与える、それを地で行っている人だ。正直、俺の所に一つぐらい分けて欲しい。でも大丈夫。兄貴は独身、童貞なので、トントンだ。
「よ、相変わらずアホな
「再会して早々、その口の利き方はなんだよ」
「いいじゃねえか。兄弟なんだしよ」
「『親しい仲にも礼儀あり』、だろ?」
「あれ?俺らってそんなに仲良かったっけ?お前と杏奈ちゃんの愛の住処に一度も入れてくれなかったじゃねえか」
「……そりゃ親しき仲にもプライバシーはあるだろ」
「俺が上京したときに『早く行っちまえよ、このカス』って言ってたのに?」
「……それは、」
「反論なし、か」
「な、なしとは一言も言ってねえからな」
「それじゃ、杏奈ちゃんが来るまで待ってやるよ」
杏奈は仕事の関係で先に里帰りしており、駅前まで、お義父さんの車で迎えにくることになっている。
それから二十分は経っただろうか。待ち合わせの時間まではあと十分あるが、かなり退屈だ。久々の故郷とはいえ、何もない駅前を観察しても、時間は決まった速度で進んでいく。兄貴は持っていたスケッチブックで風景画のラフを描いている。相変わらず、見事な腕前だ。
「アイス、持ってきたぞ」
「ありがと」
「いろんなアイスがあるって言ってたけど、一つしかなかった。ごめんな」
「いいよ」
「それにしても、ここが気に入ったのか?」
「いや?」
「じゃあなんでアイス取りに行かなかったんだ?」
「いいでしょ」
「……このわがままめ」
「好きにさせてよ」
少しの沈黙。俺は話し文句を探していたが、ふと杏奈が話し出した。
「アイスちょうだい」
「それぐらい、自分でやったらどうだ」
「いいじゃん」
「まあ、いいけど」
「はいじゃあ、口、開けて」
「あーん」アザラシみたい。
「んっ!」口に入れた。
「なんかこれ、まずくない?」
「そりゃ……」
「そりゃ?」
「そりゃそれ、ドライアイスだし」
ここで、俺の脳内にいる、杏奈との会話は途切れた。
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