転生したら村を任されたので、発展させていきます。外伝5

白藤 秀

どんでん返し

俺が前世と呼ばれる記憶がある事を明確に意識したのは、リオンとして生きて五歳の頃、俺は流行り病にかかり生死の境をさまよった。

 その結果として、俺は日本と呼ばれる法治国家で農業を生業として生きていたことを思い出す。

 趣味と呼べるほどの物はないが、好きな事はあった。

 歴史書を読んだり、アニメや漫画を鑑賞したり、うまい料理を作ったり食べること。

 まあ、不幸にも熊に襲われその生涯を閉じ、第二の人生をリオンとして歩み始めた感じだ。


午後の農作業が終わり、自宅へと向かう道すがらで知り合いに遭遇した。

「おう、モルフィじゃないか。珍しいなこんなところで」

「あ、リオンさん。こんばんわ」

「こんばんわ。それで? 帝都で売れっ子劇作家がどうしてこんな片田舎にいるんだ?」

「売れっ子ってそんな、それほどでもないです」

「ここにいるって事は、暇なのか?」

「いえ、とても忙しいです・・・でも、それどころじゃないっていうか・・・」

「そうか。何か俺にできることがあるなら相談に乗るぞ」

「え?! ほ、本当ですか!」

「まあ、知らない中でもないからな。それよりもう直ぐ日が暮れる。時間があるならウチで話を聞こう」

「お願いします!!」

俺はモルフィと共に自宅へと帰ったのである。


夕飯の準備をし終わり、俺たちの前には簡素な夕食が並んだ。

勿論モルフィにも手伝ってもらいました。

「さあ悩みを言え、どんな悩みも一つだけ聞いてやろう・・・売れっ子劇作家よ」

「ははぁ! リオン様、私の悩みは! 劇のお話が書けなくなったことです!」

「うむ。悩みは聞いた。さらばだ--」

俺はスクっと立ち上がり、台所へ向かおうとしたら、モルフィに腕を掴んで止められてしまった。

「ちょっと! 私を放置してに台所に消えないでよ!」

「いや、お鍋火消たかなって気になってさ〜」

改めて座り直した。

「それよりも、劇作家がお話書けなくなったらそれこそ死活問題だろ」

「はいい。売れないっ子だったら即クビ切られてました」

「そうだろうな」

公演回数も決まっているし、人気であれば何回だって上映される。

更に人気なお話の続編であれば、さらに来場が見込めて売り上げも相当な額になるだろう。

「うう、いちよう一週間のお休みを頂いていますけど、あと三日でそのお休みも終わりなんです。それでこのままじゃいけないって思って、部屋から飛び出したまではよかったんですけど、行くあてもなく歩いていたら、いつの間にかリオンさんのいる村に足が向いていました」

「そんな感じたと、宿も決めていないよな。ウチに泊まって行くといい」

「ええ! いいんですか!?」

「もちろんだとも。そもそも嫌だったらそんなこと言うわけないだろ」

「そ、それもそうですね。お言葉に甘えて泊まらせていただきます!」


俺はモモを連れ立って、この村で湧き出た温泉を利用した銭湯へ来ていた。

当初は時間帯で男女を分けていたが、新しく湯船を増設し(男女を完全に分けました)、時間帯が何時でも入れる銭湯へと変えた。

その女湯にて、モルフィと湯船に浸かっている。

今日は誰もおらず、ほぼ貸切状態だ。

「リオンさん。何か面白い話とか昔話とか童話を知りませんか?」

「どんな話でもいいのか?」

「そうですね。何かのネタになればと思っています。私的にはそれなりに面白くて、ええ! まさか!! な、どんでん返しがあるお話がいいのですけれど!」

いや、お前ちょっとは仕事から離れろ。

ここにはリフレッシュに来たんだろうが!

だが、まあしょうがないな。

「ん? そうだな・・・こんな話はどうだ?」

俺はとある少女の物語を語って聞かせた。


昔、男勝りで好奇心旺盛な一人の少女がいました。

少女は興味があるものには徹底的に取り組み、幼い頃からその才能を余すことなく発揮していきました。

そして、村の悪ガキどもを束ね、その知識と知恵を悪ガキどもに教え、共に冒険者になることを約束し、村の周りにいる魔獣や魔物を根絶せんと野山を駆け回りました。

しかし、少女が10歳になる頃に事件が起きます。

村の近くでゴブリンが村を作り始め、周辺の人間の村を襲い始めたのです。

食料や家畜、人間を攫い。その被害は日に日に増えて行きました。

それからまもなくして、少女が住んでいる村も襲われたのです。

なんとか大人達が返り討ちにしました。

しかし、数名の村人が攫われてしまっていたのです。

その中に少女が束ねている悪ガキ仲間の妹も含まれていました。

大人達は夜が明けるのを待って貴族様に討伐隊を出してもらうことにしたのです。

その逃げ腰に激怒した少女は悪ガキメンバーに問います。

「今日、俺たちの妹が攫われた」

悪ガキメンバーを見渡しながら少女は言葉を続けます。

「俺たちは家族だ。誰が欠けても俺の描く未来の冒険者クランに妹がいないなんて想像できない。俺は今からクソどもを殺しに行くがお前達はどうする?」

少女は悪ガキメンバーに問いかけます。

全員がやる気に満ちた声で行くとそう答えたのでした。

向かうはゴブリンの村。

少女達は夜の山を分け入り、子供だけでゴブリンの村へと向かったのです。

ゴブリンの村では宴があっていました。

奪った食料でどんちゃん騒ぎをしています。

そこを少女達は襲撃しました。

悪ガキメンバーの一人が魔術を唱え撹乱し、その他の戦えるメンバーはゴブリン達を次々倒して行きました。

そうして、彼らは攫われた村人達と妹を救出することに成功しました。

しかし、一際大きなゴブリンが現れます。

そのゴブリンはただのゴブリンではなく、ゴブリン・エンペラーだったのです。

そんなん事とは知らない彼らは、そのゴブリンに果敢にも挑んで行きました。

次々にやられて行く悪ガキメンバー達でしたが、それでもなお、少女はゴブリン・エンペラーを前に立っていました。

戦闘が続く中、ゴブリン・エンペラーは焦りを覚え始めます。

「幼くして、我と拮抗する力を持つとは! いづれ我ら魔物の敵となるなら・・・その前に殺さなくてはな!」

さらに魔力が跳ね上がります。少女を殺すと決めたゴブリン・エンペラーは苛烈に攻撃を仕掛けて行くのでした。

しかし、その戦闘は長くは続きませんでした。

少女がゴブリン・エンペラーの首を落としたからです。

悪ガキメンバーは歓声をあげ、少女の勝利を祝いました。

少女は悪ガキメンバーに振り返り、剣を天に掲げました。

その時でした。

少女が落としたであろうゴブリン・エンペラーの首、その口から魔術が放たれたのは。

紅い閃光が少女の背中から胸へと飛び出して行きました。

そのまま崩れ落ちた少女は自分の血で着ている服を赤色に染めて行きます。

ゴブリン・エンペラーは落とされた首のまま呪詛を紡ぎ始めました。

「貴様は危険だ。まだガキのくせに魔王の一角であるこの我を殺したのだからな。だが我もタダでは死なぬ! 我、ゴブリン族の皇帝・バズガの名において、かの者に魔術の行使、並びに干渉を禁ずる・・・重ねて命じる・・・・・・かの者、この国から出ることを禁じる・・・・・・・・・・重ねて命じる・・・・・・・・・かの者--」

ゴブリン・エンペラーは呪詛の行使中に悪ガキメンバーの一人によって頭を弾き飛ばされ、最後の呪詛を唱え終わる前に絶命してしまったのでした。


「こうしてゴブリン達を倒した少女達は妹+村人達と村へ無事に戻る事が出来ましたとさ。おしまい」

語り終えた事の満足感に浸っているとモルフィが真剣な顔でこちらを見ていた。

「・・・少女はどうなったんですか?」

「今も元気に暮らしてんじゃないの?」

「いや、仲間が敵の頭吹き飛ばして終わるって、中途半端じゃないですか!」

「そうでもないんじゃない?」

「気になりますよ! その少女はどうなるんですか!?」

すがりついてきそうな勢いだな。

ここは早めに退散しておこう。

「さあな。そろそろのぼせてきた。俺はもう上がるぞ〜」

「え?! その背中の傷--」

俺は何か言っている、モルフィをおいて先に脱衣場へと向かうのだった。


その後、モルフィは俺が話して聞かせた物語を脚色して脚本を書き、さらに売れっ子になったとさ。



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