第392話 マーサ5、脱出


 会議室のソファーに三人で座り、マーサにこの星に辿たどりついたいきさつを話してもらった。



 マーサが俺とアスカに語った内容を要約すると。


 三惑星王国ソルネ。共通歴3174年。マーサの主観時間で12年前。


 星系内の3個の惑星を生活圏とした王国ソルネは、近隣の複数の星域を支配するアルゼ帝国・・・・・(注1)と星間戦争を続けており、国力その他で劣るソルネは厳しい戦いを続けていた。元をたどれば二国は同一種から分かれた国でもあり、絶滅戦争を繰り広げていたわけではないが、アルゼ帝国は戦争により併合した国の言語・文化・歴史などを否定し自らのもので強制的に塗り替えていく。


 ソルネの文化を確実に残すため、6隻の特殊艦艇が建造された。各特殊艦艇は4000個のソルネ人の冷凍受精卵と各種の家畜などの冷凍受精卵を保存したコンテナを4基積んでいた。艦にはそのほか100基の人工子宮兼保育機、万能工作機械、半自律型ロボット、各種の希少資源、それにソルネ文化のアーカイブが搭載され、新たなソルネのたねを宇宙にくことが期待されていた。


 6隻の特殊艦艇の行き先は、光学観測により人類が生存可能だと確認された6個の惑星で、各惑星までの航行には搭乗者から見た主観で12年から22年、実時間では600年から1200年の歳月がかかると見積もられていた。


 航行期間に加え、活性化した受精卵が人工子宮兼保育機内で幼児時期まで成長し、その後教育、訓練などを経て成人するまで20年間、最大で40数年間現役で過酷な肉体活動を続ける必要が搭乗クルーに求められるため、クルーとして選抜されたのは、ソルネ宇宙軍幼年学校から選抜された特殊艦艇6隻分、12歳の男女各3名ずつの18名だった。搭乗人員が3名と極端に少ないのは、搭乗員に割り振る船内資源を極力抑えるための措置だった。


 マーサたち3人が搭乗した特殊艦ソルネ4はソルネ星系を脱出時、一時アルゼ帝国の宇宙戦闘艦の追跡を受けたものの、規定の加速を超える加速を行うことで何とか難を逃れることはできた。その後は順調に航行し、この星系近傍までたどり着くことができ、目標惑星に着陸するため減速を開始した。


 この減速時において、脱出時の無理な加速がたたり推進剤の残存量が正常着陸に必要な量を下回っていたため、目標惑星への突入が不時着同然の強行着陸となったようだ。



 この強行着陸の結果、外面的にはそれほど壊れたところの無いように見えた宇宙船だったが、マーサ以外の残り二名の搭乗員が亡くなったほか、艦の多くの機能が失われ、ソルネ人冷凍受精卵の内四分の三の12000個を失ってしまったそうだ。ただ、四分の一の4000個、俺がコンテナとして収納したものだけは、何とか救えたようで、4000個あれば、遺伝子的にソルネ人を絶やすことなく繁殖可能ということだった。


「マーサが大変な思いと時間をかけてこの星にたどり着いたのは分かった。それで、マーサはこれからどうしたい? 俺たちで援助できることなら手助けしようと思うけれど」


「はい。ありがとうございます。私の望みはもちろん残った4000個の受精卵を無事に育てて、成人させてやることです」


「いま、俺の収納庫の中に入ったままの受精卵のコンテナも宇宙船も時間が止まっているので、しっかり準備する時間はあると思うけど、いきなり宇宙船を王都の中や近くに出すわけにはいかないし、場所の確保が問題だな」


「マスター、キルンにもあったはずですが、ヤシマのダンジョンでフィールド型のダンジョンがあったのを覚えていますか?」


「そういえば、そんなのがあったな。あれも不思議だよな」


「ああいった場所を占有してしまえば、人目にもつきませんし安全ではないでしょうか?」


「モンスターが出てきたら安全とは言えないだろ」


「ダンジョンマスターがコアにその階層ではモンスターを出さないよう指示してしまえばいいと思います」


「それはそうだけれど。アスカはキルンのダンジョンとか『鉄のダンジョン』のことを言っているのか?」


「キルンは一般に開放されていますし、『鉄のダンジョン』もいずれそうなりますから、別途新しいダンジョンをマーサ用に考えてもいいのではないでしょうか?」


「新しい? あっ!」


 あれか。コア・シード、ベビーコアか。


 いずれどこかにこうかと思っていたけれど、そういう使い方もあるか。ダンジョンの中で多くの異星人が生活するのか。まさにダンジョン文明。フィールド型ダンジョンなら、食料だけは少なくとも自給できそうだし何とかなるかもしれない?


 最低でも4000人の未来がかかっているわけだし、俺では判断できないが、これ以外の案がないのも確かだ。マーサ次第だな。


 マーサは俺とアスカの会話をじっと聞いていたが、今のダンジョンの話はさすがに理解できないだろう。物語を含めてダンジョンの無い世界の人間にダンジョンを説明するのは難しいものな。


「マーサ、俺たちが土地などを提供ていきょうできるかもしれないけれど、そこからは、直接宇宙に出ることはできないし、本当の空も見ることもできない。それでもいいなら何とかできると思う。とはいえ、その方法をとったとしても準備が整うのにはあと1年かかるはずだから」


「はい。今の話ですと、地底で生活するということですか?」


「実際はその通りなんだけど、マーサが思っている地下とは少し違って、自然に近い明かりもあるし、たぶん植物も育てられる」


「マスター、ヤシマダンジョンならここから近いですし、フィールド型も比較的浅い階層にありましたから、マーサを連れて行ってみましょうか?」


「それもいいな。

 マーサが良かったら、どんな感じのところか見にいってみないか? 今から『スカイ・レイ』で近くまで行って、ダンジョンの中に入ってフィールド型のダンジョンを見てくるだけなら今日中きょうじゅうに往復できる」


「ぜひ連れて行ってください」


「準備は特にないけれど、マーサは昨日きのう着ていた宇宙服の方が動きやすいならそっちを着てくればいい。俺たちはこのままの格好でいいけどな」




注1:アルゼ帝国。

『宇宙船をもらった男、もらったのは星だった!?』https://kakuyomu.jp/works/1177354054897022641

に登場する星間帝国。


[あとがき]

光速関連の計算は特に行っていませんので、そこらへんは適当です。

『黙示録3174』というSFをお読みになった方は少ないと思いますが、なんとなく3174という数字を使ってみました。特にエンディングを示唆するものではありません。

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