第391話 マーサ4、語学学習ほぼ完了


 結局マーサとアスカは夕食後もずーっと語学学習を深夜まで続けたようだ。



 そして、翌朝。


 朝の日課の体操からのランニング。


 玄関前に集合して、体操をしてから、ランニングだ。


 俺が一番に玄関前でみんなの来るのを待っていたら、アスカとマーサが連れだってやってきた。



「二人とも、おはよう」


「おはようございます」


「はい。おはようございます」


 あれ? 普段着にスラックスを履いてるけどやっぱりマーサさんだよね? 普通に『おはようございます』って聞こえたような。


 アスカの方を見ると、


「だいぶ頑張った結果、マーサは日常会話に不自由はほぼなくなったと思います」


「そこまでか。文化も相当違うはずだけどたった一晩。うーん。凄すぎるな。

 マーサ、頑張ったんだね」


「はい。ありがとうございます。できるだけ早く言葉を覚えたくて頑張りました」


 まったくもって違和感のない話しぶりだ。


「これから、体操をしてランニングするからみんなの動きに適当に合わしてくれればいいよ」


「はい。やってみます」



 玄関から出てきた連中は、お互いに朝のあいさつを交わすのだが、マーサがいるのを見てみんな驚いていた。そりゃあ普通は驚く。


 みんなもそろったようなので体操を始める。



 大きく伸びをしながら、背伸びの運動、はい!


「1、2、3、4、5、6、7、8」


 腕と足の運動。


「1、2、3、4、5、6、7、8。2、2、3、4、5、6、7、8」


 ……


 最後に深呼吸。


「よーし、それじゃあ、ランニング。マーサは俺とアスカのすぐ後ろについて来て」


「はい」


 ラジオ体操も、マーサは動きの変わる最初の『1、2、3、4』だけは少し戸惑うもののすぐに動きを覚えてしまい、『5、6、7、8』は普通に体を動かしていた。しかも体操選手のように動きに切れがあって美しい。頭も良い上、運動神経も良いわけだ。しかも、昨日のジャンプといい、身体能力も高い。いわばスーパーウーマンだ。おそらくランニングも余裕なんだろう。




 子爵から伯爵に陞爵しょうしゃくして家の敷地が広くなったので、それまで一周300メートル10周、3キロだったランニングは、一周400メートル10周、4キロに増やしている。


 玄関を出て最初の一周はみんな揃って列を作って走っているけど、二周目から自分の速さで走り始める。俺とアスカは、普段は二周目以降それなりのスピードで走るのだが、さすがに今日は一週目と同じスピードで二周目以降も走り続けた。


 結局、予想通りマーサは俺たちの走りに少しも遅れることなく走り切った。


 日課の後、俺とアスカはマーサを連れて、ブラッキーとホワイティーの小屋に行って、朝食のエサをやった。エサ皿に以前よりかなり厚く切ったドラゴン肉をそれなりの量入れてやって、桶に入っていた水を変えてやった。


 寝起きのブラッキーとホワイティーだが、俺とアスカが顔を見せるとすぐに目が覚めるようで、「お父さん」「お母さん」と大騒ぎしながら体を摺り寄せてくる。すぐに、首をわしゃわしゃしてやると落ち着くようでそれから二羽は食事を始める。


 食べ終わると水を飲んで、今日初めて見るマーサに対してやっと注意を向けた。二羽は人に対して全く警戒心を持っていないので、マーサに対しても首を突き出してわしゃわしゃするよう要求し始めた。


「私たちがさっきやってたように首をわしゃわしゃしてやれば喜ぶからマーサもやってみて」


 最初どう見ても猛獣に見える二羽を見て固まっていたマーサも、俺とアスカがわしゃわしゃしてやっているのを見ているので危険ではないということは理解できているので、恐る恐るではあるが手を伸ばして最初はブラッキーの首筋の羽をわしゃわしゃしてやった。ブラッキーは目を細めてジーっとしているので、ホワイティーが次は自分の番だとブラッキーを押しどけてしまった。ホワイティーの首筋もマーサがわしゃわしゃしてやったら二羽とも満足したようでそろって小屋の隣の大木の方に遊びに行ってしまった。


「きのうアスカさんから話に聞いていましたがアレがグリフォン?」


「グリフォンの兄妹だか姉弟なんだ。二羽の両親が亡くなったときに面倒見てくれと頼まれたんで今飼っているんだ」


「マスターは、頼まれなくても飼ってはいたでしょう?」


「まあな」


「ショウタさんは優しいんですね」


「いや、優しいとはちょっと違って、不幸とかそういうのを見るのが嫌なだけ」


「傍から見れば同じでも、マスターのこだわりですね」


「アスカさんも優しい人だと思います」


「私はただマスターのため、マスターが喜ぶよう行動しているだけです。私がマーサからみて優しいと見えるのであれば、それはマスターがそれを望んでいると私が判断して行動した結果です」


「はい。分かりました。そういうことですね」


「そういうことです」



 何だかわからないアスカの説明でもマーサは理解したようだ。さすがは宇宙人。以前はサスアスだとか言っていたが、昨日からサスウチュが俺的には流行はやっているようだ。


「先ほど、二羽の両親から二羽のことを頼まれたという話でしたが、グリフォンは話すことができるんですか?」


「口がくちばしだから、人のような発音はできないけれど、言葉が頭の中に響いて来るんだよ。さっき気付かなかった?」


「はい。いいえ、私には分かりませんでした」


「頭の作りの関係もあるのかもしれないし、慣れなのかもしれないけれど、そのうちマーサも二羽の言葉が分かるようになるよ」


「楽しみです」


「私たちが揃わなければ朝食が始まりませんからそろそろ食堂に急ぎましょう」




 アスカにかされ食堂に入れば、みんな揃って俺たちが席に着くのを待っていたので急いで席につき、


「いただきます」


 今日の朝食は無難なもので、いつも通りおいしくいただきました。



 朝食後、しばらく居間で休んでいたら、いつもの仕立て屋さんから数人うちに来てくれた。


 アスカが見守る中、マーサの採寸をしてもらった。ドレス的な物を一着、普段着的な物を数枚誂えることになったようだ。ついでに、シャーリーとラッティーにも勧めたが、遠慮したようだ。


 採寸時も、マーサは仕立て屋さんたちとちゃんと受け答えができたそうだ。どういう頭をしているのか分からないが、すごいものだ。


 採寸が終わり、仕立て屋さんたちも帰ったので、俺とアスカでマーサにこの星に辿たどり着いたいきさつ的なものを聞くことにした。もちろんマーサが俺たちに何か望むのであれば、可能なら応えてやりたいと思っている。


 込み入った話になりそうなので、居間ではなく、採寸に使った小応接室で話を聞くことにした。





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