第390話 マーサ3、紹介


 昼食時が近くなってきたので、マーサを連れて居間から食堂へ移動した。


 仕事で、四人娘たちは全員は揃っていなかったが、それは仕方がない。いつも通りお客様席である俺の正面にマーサは座らせた。


 食堂に集まれる人がみんな揃ったところで、俺は立ち上がって、


「みんな、注目ちゅうもーく


 一斉にみんなが俺の方を向く。


昨日きのう海水浴に行った女性陣は知っているが、あの小島にあった大きな物体。宇宙船というんだけれども、『スカイ・レイ』などではいけない高い空のそのまた上にある宇宙という場所を飛ぶために作られた船だった。その宇宙船が事故であそこに落っこちてしまって、ただ一人生き残っていたのが、ここにいるマーサだ。この国で身寄りのない彼女をここに住まわせることにしたので、みんなよろしく。

 彼女は俺たちの想像もできないような遠い国からやって来た関係で、まだ言葉が通じない。いまは少しずつ言葉を覚えているところだけれども、話しができるようになるまでには、まだしばらくかかるだろう。その辺りも頭に入れておいてくれ。話しかければ話しかけるほど言葉を覚えていくと思うから時間があったらマーサに話しかけてくれればいいな」


 俺が話し終わった後、


 マーサにアスカが何か言ったところ、マーサが立ち上がり、


「ハイ。マーサデス、トオイクニカラ、ヤッテキマシタ。ミナサン、ヨロシク」


 おー、もうそこまで話せるようになったのか。すごいな。ペラの時を思い出して感慨深い。


 みんなが拍手したので、マーサはちょっとびっくりしたようだが、みんなの笑顔を見て自分も笑顔を見せて着席した。


「それでは、いただきます」「いただきます」


「イタダキマス」


 テーブルの上には、各自に野菜サラダとポタージュスープ。ドラゴンのヒレ肉の塊をオーブンで焼いたものをスライスしたローストドラゴンのプレート、赤いとろりとしたソースがかかっている。あとは、小皿の上にバターと数種類の丸パンがかごの中に山盛りになってテーブルごとに置いてある。


 飲み物は冷やしたジュースと水のピッチャーが各自がコップに注ぐようにジュースバーのように別のテーブルの上にコップと一緒に何個か置かれている。


 夕食ならもう一皿程度増えるのだろうが、お腹がそこまで空いていない俺には少し多いくらいの料理だった。


 マーサは喜んで食べてくれた。もちろん、アスカの解説付きだが、ドラゴンについては面倒だったのか、大きな獣の肉と説明していた。


 マーサの場合、前回のソニアさんのように損傷した体が『エリクシール』で無理やり急激に回復したわけではないのでそこまで空腹ではなかったと思うが、少なくとも事故があって2、3日は食事をしていなかったはずだ。


 島ではそれなりに食事をしたが、今もちゃんとモリモリ料理を食べていた。もう料理に手をかざして食べることができるものなのか確認しなくなった。


 マーサの隣で食事していたシャーリーがマーサのお皿の肉が勢いよく減っていくので、すぐに厨房に駆けて行って、お替わりのお皿を持ってきてくれた。


 反対隣りに座っていたラッティーはラッティーで、スープのお替わりを持って来てくれた。二人ともいい子に育ってくれて嬉しいぞ。


 そういったこともあったせいか、アスカの他にもシャーリーとラッティーがしきりとマーサに話しかけている。


 俺からするとかなりまどろっこしい会話なのだが、四人で根気よく会話をしているので、かなり早いうちに言葉の問題も何とかなりそうな気がする。



 食事を終え、アスカとマーサと居間に移動してしばらく休憩。


 みんなにマーサに話しかけてくれと言った関係か手のいている連中がマーサのところにやって来て、自己紹介をしつつ会話をするようになった。


 ということで、マーサはうちの女子たちの名前は、ほとんど覚えてしまったようだ。


 うちの中ではラッティーの覚えが一番いいと思うが、やはりマーサの方が数段上のようだ。これが個人の資質によるものなのかはわからないが、宇宙人恐るべしだ。もちろん俺は物忘れも激しいし、最近は意識まで飛んでしまう。比較対象外だ。


 そんな感じで休憩中ではあったが語学学習がなし崩し的に再開したようだ。


 大勢の人が居間に集まって、かまってもらえなかったためか、プープー

犬が二階から降りてきた。


 プップー、プップー。


 何の音か妙な音が近づいて来るので、マーサは幾分緊張していたのだが、シローの姿を見て、ニコニコ顔になった。マーサのいたところにも犬のような動物がいたのだろうと思う。


 新しい人を見つけたシローがマーサに駆け寄って、足元に頭やら首筋を擦り付け始めた。


 俺の物だとにおい付けしているのだろうが、実際いままでにおい付けした人間を覚えているのかは不明だ。



 それから後もアスカによるマーサへの語学学習は続いた。



 食事前に俺は風呂に入ろうと、勉強中の二人にことわって居間から出ようとしたら、アスカもマーサを連れて風呂に入るという。一応、風呂のことは予めマーサに説明しているようだ。マーサの星にも風呂に入る習慣はあったそうだが、あの宇宙船内ではシャワーしかなかったそうでかなり喜んでいた。


 マーサの下着も含めた普段着は、ミラがもう買って来てくれていたようなので、大丈夫。俺の収納の中に入っているアスカの選んだ特選下着をつける必要はない。


 いまマーサは、最初に着ていた宇宙服を着ているのだが、透明ヘルメットはアスカが適当なところで切り取ってしまったので、輪っかが首のあたりに残ってしまっていたものを、自分で外したようだ。


 宇宙服をゴシゴシ洗濯してはマズいと思うが、そこらへんはアスカがうまくやるだろう。それに、おそらくだが、宇宙船の中には予備の宇宙服もあるだろうし私服のような物もあると思う。



 先に風呂に入って、体を湯舟で伸ばしていたら、アスカたちが女風呂に入って来た。二人だけかと思ったら、シャーリーとラッティーも一緒のようだ。


 あまり女子どうしの会話を横で聞いているわけにもいかないので、俺の方は簡単に体を洗って早めに風呂から上がった。



 自室の机の後ろの椅子が、座り心地が良いので、一人の時はそこに座っていることが多いのだが、アスカに作ってもらった団扇うちわで涼んでいたら、部屋の扉を開けっぱなしにしていたせいか、


「おじゃましまーす」


 と言いながらラッティーがマーサの手を引いて部屋に入って来た。マーサは風呂でそれまで着ていた白い宇宙服を脱いでアスカのようにブラウスと膝たけのスカートの普段着に着かえたのだが、こうなってくると全くの日本人の美人なお姉さんだ。


 ラッティーはそのままフーの前まで行き、二礼二拍手一礼を始めたところ、横に立ったマーサもラッティーのマネをして二礼二拍手一礼をした。



「マーサさん、今礼拝して何か感じなかった?」


「ハイ。イイエ、ナニモカンジナカッタ」


「そのうち感じるようになるから安心して。今日ショウタさんたちに助けられたのはおそらくフーのおかげだと思うから、感謝の気持ちで礼拝を続けていれば、またきっといいことがあると思うよ」


 おいおい、ラッティーのやつ、宇宙人を信者に勧誘してるよ。いいのか?


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