第267話 鉄道ヤシマ線2


 アスカは突貫とっかん工事でレールの敷設ふせつ作業を続けるつもりのようだ。ということは俺も必然的ひつぜんてきにお付き合いすることになる。


 うちの連中に徹夜てつや作業をするとは伝えていなかったが、今日はこのあたりで南門からヤシマに向かって作業を進めているとは家令かれいのハウゼンさんには伝えているので、誰かを寄こしてくれるかもしれない。まあ、俺たちが事故に巻き込まれたとかだけは思わないだろうから、どうとでもなるか。


「マスター、今は問題ありませんが、これから先、砕石さいせきを敷く場合、路線上に砕石をならして、ある程度押し固める必要があります。均しと押し固めには、周辺をすこし驚かすことになりますが、砂虫の輪切りを転がしていきましょう。王都の人たちも私たちが少々変わったことをしていてもそこまでは驚かないでしょうから大丈夫と思います」


 情報通のアスカがそういうのなら、少しもうれしくはないが俺たちはそっち方面でも有名人なんだろうな。


 ともあれ、目途めどは立ったようでよかった。それじゃあ、とっとと作業を進めていきましょう。


 アスカ:杭と杭の間、50メートルにわたって木を切る。


 俺:収納する。


 俺:表土をぎ取る。


 俺:切り株、抜け落ちた雑草を収納。


 俺:50センチ厚さの岩盤を敷く。


 このサイクルで進めると、アスカが手持ち無沙汰になるので、結局、枕木を置いて、レールを敷設するところまで行うことにした。


 新サイクルは、上のサイクルに下の四つの工程が加わる。


 俺:枕木用木材を出す。


 アスカ:枕木を作ってきっちり並べる


 俺:端材はざいを収納して、レール、犬釘いぬくぎ、レール連結金具を出す。


 アスカ:レールを並べて連結し、犬釘でレールを枕木に固定する。


 (枕木、犬釘、レール連結金具を出すところが結構手間がかかる)


 アスカに時間を計ってもらったところ、これだとだいたい一サイクル50メートル、2分かかるようだ。一時間で30サイクル、時速1.5キロのスピードになる。当初予想の速度よりかなり遅いのだが、それでもとんでもないスピードだろう。50センチ厚の岩盤を使い切ると、砕石がらみの作業が増えてくるため、時間当たり、1キロ程度まで速度が落ちる可能性があるから、完成まで突貫工事とっかんこうじを続けるのは無理のような気がする。適当なところで、いったんは屋敷の戻る必要があるだろう。


「マスター、思った以上に敷設ふせつ速度が上がりません。先に枕木を必要量作ってしまいましょう。枕木用の材木を全部出していただけますか?」


 アスカに言われるまま枕木用の材木を近くの草原に出してやったのだが、木材がうず高く積まれた小山ができてしまった。


 その木材を、数千本の髪の毛を使って、アスカが一気に枕木に加工していく。飛び交う木材、飛び交う枕木。枕木がどんどん積み上がってきた。


「この路線用に作った貨車をレールの上に出していただけますか。30両全部に一度乗せれるだけの枕木を積んでしまえば、1サイクルごとのマスターの手間も省けると思います。一両あたり100本の枕木を積めば、レール3キロ分くらいにはなります」


 すでに出来上がっているレールの上に32両の貨車を乗せた。アスカが環状の連結金具れんけつかなぐでそれらを連結し、俺が30両の貨車に100本ずつ枕木を台車に乗っけ、最後の2両にはレールの連結用金具と犬釘を各々の貨車にそれなりの数乗っけておいた。


 余った枕木は俺が収納し、端切れ材なども収納庫に片付けておいた。



 新たな作業サイクルは、


 アスカ:路線上の木を切る。


 俺:その木を収納する。


 俺:表土を剥ぎ取る。


 俺:切り株、抜け落ちた雑草を収納。


 俺:50センチ厚さの岩盤を敷く。


 アスカ:枕木を並べる。


 俺:その間、レールを50メートル分、四本置く


 アスカ:レールを並べてつなぎ犬釘で枕木に固定する。


 (俺:たまに、貨車の枕木、金具の補充)


 これで、俺の作業量が減ってアスカの遊び時間が無くなったぶん敷設速度が上がった。作業に慣れたところでアスカに時間を測ってもらったところ、1サイクル50メートル、ちょうど1分。時速3キロほどでレールの敷設ができるようになった。


 快調に敷設を続けていたら岩盤が最後の一個になった。


「これで、岩盤は終わりだけど、砕石はどうやって作る?」


「マスターの収納庫の中に入っている岩をまず使っていきましょう。なるべく硬そうな岩をそのあたりの草原に出してもらえますか。私が斬撃で5センチ角のダイス状に切ってしまいます。できたダイスを収納してもらって、それを路線上に撒いていってください。幅はレールの幅の2倍程度でお願いします」


 収納庫の中には、高速弾用の高速状態の丸石はかなり入っているが、それを出すわけにもいかないし、それ以外の岩はそんなに入っていなかった。


「アスカ、どうも良さそうな岩が俺の収納庫の中にはほとんどないみたいだ。どっかに補給しに行かないと、到底とうていこの先は砕石が足りなくなるぞ」


「それでは、少し手間ですが、先日投擲弾とうてきだんの爆発試験を行った川の上流まで行ってみますか。おそらく岩盤が露出しているような場所も多いでしょうし、川原かわらの感じからいって、路線用砕石に良さそうな岩が手に入ると思います」


「勝手に岩を削っちゃっていいかな?」


「広く、浅く、斜面の傾斜を緩くする方向で採石する分には問題ないでしょう」


「それもそうか。それじゃあ、急いで行ってみよう」


 放り投げていくわけにもいかないので、上に乗せた荷物ごと貨車を収納して、俺たちは、くだんの川の上流に向かうことにした。




[あとがき]

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