第248話 開校準備2


 王都に帰り着いた時刻をアスカに確認したところちょうど昼だったが、食事のできないペラを連れているので、行儀ぎょうぎは悪いが走りながら串焼きでも食べようと思いアスカに串焼きを一本渡したところ、


「マスター、子爵閣下が串焼きを頬張ほおばりながら走っていくのは少々問題なのではないでしょうか?」


 そういわれればそうなのだが、いままででも、走ってはいなかったかもしれないが結構串焼きやらなにやら頬張っていたような気がするんだが。


 アスカも貴族気質きぞくかたぎに目覚めたのか? とはいえ、そこまで言われたらさすがに俺も串焼きを食べながら走れないので、アスカに串焼きを返してもらって俺のと一緒に収納しておいた。じゃあ一体いつ食事をするんだ?


「一食くらい抜いても問題ありません」


 そうですか。



 冒険者ギルドに到着し、俺たちは先に会議室に入って新人たちがやってくるのを待っていることにした。だいたい1時ごろに新人たちが集まる予定だという。


 俺はやっぱり腹がいてきたので、会議室の前の方に置いてあった椅子に腰かけて、串焼きを食べ始めた。


 だまって、アスカに串焼きを一本渡したら、黙って食べ始めた。


 二人で串焼きを食べ終わりしばらくしたところで、新人が現れた。最初に会議室に入って来たのは、十四、五歳くらいのまだそばかすの残ったような男子だった。書類上ではみんな十五以上だったので十五歳なのだろう。


 その男子は、俺たちの姿を認めて急に歩き方がぎこちなくなりそのまま会議室の後ろの方に歩いていって席に着いた。


 その次は女子三人のグループ。この三人も俺たちを見ると急に黙ってしまい、後ろの方に歩いて行った。


 どうしたんだ? 俺の坊主頭がいけなかったか?


 ん? なんだか小声で仲間うちの会話をさっきの三人組の女子が始めた。


 何々なになに? 


『あれが伝説の冒険者、ショタアスなの?』


 ほう、俺たちが伝説の冒険者とな。それで?


『やっぱり貫禄かんろく違うわよね。Sランクはギルドにはないけど、圧倒的実力でこの国はおろか、大陸一とかいう噂だよ』


 なるほど、なるほど。それから、それから?


『ショタアスは二人組と聞いていたけど、三人いるのは何で? あのおかしな髪型の男はだれなのかしら?』


 えっ?


『バカ、ショタアスの一人は坊主頭の男だよ。あのちんけなのがショタアスの一人、寄生虫きせいちゅうのショウタだよ』


 ええっ? 俺って、寄生虫なの?


『それじゃあ、もう一人はだれ?』


『新しい寄生先じゃない。そういう意味じゃ寄生虫的な甲斐性かいしょうはあるわよね』


 なんだか、あらぬ方向に会話が流れて行っている。今集まっている連中は新人過ぎて俺の実力を知らないのかもしれない。いや、絶対にそうだ。そのうち俺が実力を見せてやるから、それを見て腰を抜かすなよ。


 その後、バラバラと他の新人たちがやって来て、予定の十二名が揃った。ギルドの誰かが何か挨拶あいさつでもするのかと思ったが誰も来なかったのでそのまま会議というか説明会のようなものを始めることにした。


 一応席についたみんなの前で立ち上がって、


「私が、今回みんなに冒険者としてある程度の実力をつけてもらうため、冒険者学校を開いたショウタ・コダマです。よろしく。

 まず初めに、みんなも知っていると思いますが、訓練期間は三カ月、その間の食事、住居の面倒めんどうは当方で見ます。また、武器、防具についても皆さんに支給します。さらに訓練で使用する消耗品なども支給しますので、皆さんは着替えの服だけ持参していただければ問題ありません。

 訓練期間中、実習でモンスターをたおしますがそこで手に入れた素材などは、運賃等を引いた上で全額皆さんに支払われますので訓練終了時にはある程度の蓄えも出来ると思います」


 みんな俺の話を真剣に聞いているようだ。よしよし。


「きみたちの、訓練はここにいるペラ教官が行うのでよろしく。

 ペラ、一言」


「おまえたちの教官を拝命はいめいしたペラだ。今日はまだ訓練期間中ではないためこのあたりにしておく。よろしく」


 実に男らしい一言だった。この程度でひるんでいるようでは冒険者には向いていないといっていいだろう。名前だけAランクの俺自身、全くの素人しろうとだがな。それでも、ここにいる連中の実力を少しでも底上げしてやりたいという気持ちだけは本物だぞ。


「そんなところだ、それじゃあ、これから防具の寸法すんぽうを取りに行くからついて来てくれ」


 俺たち三人に続いて、新人たちが会議室を出て、階段をぞろぞろ下りていく。一階にいた連中は最初は何事かと思ったのか俺たちの方を眺めていたが、すぐに新しく始まった冒険者学校の新人たちと俺たちだということが分かったようで、興味を失ったようだ。



 後ろをついて歩く新人たちの話し声。


「本当に、防具を作るんだ」


「後で代金を請求されないかな」


「請求されてもお金がなければ払えないからいいだろ」


「バカ、それだと借金奴隷しゃきんどれいだぞ」


「うそ!」


「いんや、嘘じゃない。俺の友達も、甘い言葉にだまされて、何人も奴隷落ちしてる」


「ええー、ほんとかよ」


「ほんとだ。だけど、今回だけは信じていいと思うぞ」


「どうして、今回だけ」


「冒険者ギルドで斡旋あっせんした冒険者学校だ。そんなことしたら、ギルドのはじになるだろ」


「なるほど。それじゃあ、安心していいんだな?」


「おうよ」


 なんとか、インチキ商売に引っかかったわけではないことに自分たちの中だけで納得してくれたようだ。




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2020年8月28日、

SF『宇宙船をもらった男、もらったのは星だった!?』完結しました。

巨大宇宙船の艦長になった主人公が地球や宇宙を救おうとするお話です。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054897022641 よろしくお願いします。


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