第247話 開校準備


 レールもうまい具合にき終えた。最終的な調整は本職の人に頼めばいいと思っていたが、そもそもアスカ以上の本職はいなかった。荷物の積み下ろし場付近はまだ手をかける必要が出てくると思うが、これでレール敷設ふせつは一応完了だ。


 先の話にはなるが、ふだんの運行はカンテラで済ますにしても、100メートルおきくらいに照明を取り付けておく必要があるか。


 最後に、勝手に人が入らないように、アスカが二つの坑口に木で作った柵を取り付けてその日の作業を終了した。




 その数日後。


 冒険者ギルドに一期生の応募状況を聞いてみたところ、ギリガンさんの予想通り応募者多数となっているようだ。


 それら応募者に対して簡単にギリガンさんが面接したうえで、栄光の冒険者学校第一期生十二名が決まり、ギルドの掲示板けいじばんに張り出された。


 年若い冒険者たちが、受験発表のごとく張り出された名前を確認し、喜んでいるもの、残念がっているのがいて結構な人気なのだと思った。三カ月後の二期生からは順調にいけば二十人の募集になるので今回選ばれなかった者はそれまでケガをしないようにしてもらいたい。


 今回選ばれた冒険者の名前と年齢、性別の書かれた紙を受け取ったのだが、中身を見ると、年齢は15歳から17歳、男8名、女4名だった。


 あとは、スミスさんに開校当日の足をギルドで出してもらうようお願いした。内容は八人乗りの幌馬車ほろばしゃ二台を用意してもらい、当日朝ギルド前に集合した新人たちを学校まで運んでもらうというものだ。


 十二名で三パーティーを作ることになるのだが、そこは訓練で本人たちを見てアスカとペラが決めるだろう。


 そのあと冒険者ギルドで紹介された武器屋というか防具屋に立ち寄って、数日後、若年じゃくねんの冒険者を十二名連れてくるので、全員分の革鎧と革のヘルメット、それに手袋を注文するのでよろしく頼んできた。革鎧のグレードはアスカが決めていた。色合いについては白っぽいものにしてもらうことになっている。


 その後、久しぶりにヒギンスさんの息子さんの問屋とんやさんを訪れた。乾物が主な取扱商品のようだが、食料全般も問題なく取りあつかえるそうなので、食材の納入契約のうにゅうけいやくを結ぶことにした。二日に一度、二日分の生鮮食料品を運んでもらい、足りなくなった穀物類などもその便で運んでもらうよう頼んでおいた。そこらへんはお母さんと適当にやってくれるだろう。



 そして、今日は冒険者学校の建屋たてやの受け渡し日。


 10時に現場集合だったので、アスカとペラを伴い屋敷から駆けて行った。トンネルも使って早目に着いたので、フォレスタルさんの到着をまっていたら、じきにフォレスタルさんの箱馬車が露天掘りの下り坂を下りてきた。アスカに時刻を聞いたらきっちり五分前だったらしい。懐中時計など持っていないだろうにこの距離を馬車でかかる時間を予測して王都を出発したのだろう。できる男の五分前行動を見た気がした。


 そういえば、先日の殿下たちが『シャーリン』に訪れた時も五分前だった。こちらは王宮なので、今はやりの置時計くらいはあるのだろうが、それでも時間に正確だ。


 それはそれとして、フォレスタルさんに建屋の中を案内されながら説明を受ける。冒険者学校といっているがここは寮のようなものなので、それほど変わったところもなく、器具などの説明は、ここに常駐じょうちゅうする予定のペラが覚えておけばいいので問題ない。完工かんこう証明書にサインをして鍵などを受け取り受け渡しは無事終了した。


 サインした完工証明書を商業ギルドに持っていくと、記載された金額が俺の口座からフォレスタルさんの口座に移動するのだそうだ。これはギルドの新しいサービスらしい。


 時間があったかどうかわからないが、フォレスタルさんを引き留めてレールを敷いた近くまで案内し、


「トンネルをここから真東に向かって1キロちょっと掘ったんですが、坑口からここまでの舗装と、雨が降った時のために、その上に屋根を付けたいんですがどうでしょうか?」


「了解しました。午後にでも測量のものを派遣しますので、図面を引いてみます。明後日の午前中にお屋敷に伺います。ところで、この下にある並べられた木の上にある二本の鉄の棒は何なんでしょうか?」


「ええ、あの鉄の棒はレールといって、その上に専用の車輪を持った台車を乗せると非常に軽い力で台車を動かすことができるんです」


「なるほど、柔らかい地面よりも硬くて凸凹でこぼこの少ない舗装路ほそうろの方が馬車なども速く走れますからね。それの発展形なわけですね」


 さすがはフォレスタルさん、物事ものごとの本質を理解している。


「ダンジョンで手に入れた素材を一段高いここから、下の台車の上に乗っけた箱の上に落としてやれば楽に運搬できると思って作ったものです」


「なーるほど、しかし、これだけの鉄は相当高額ではありませんでしたか?」


「そこらは、われわれは錬金術師なので何とかしました」


 適当にごまかしたが、まさに今回はダンジョン錬金術だった。


「あと、そこのトンネルの先に、さっき言っていた台車に乗っける箱を荷物ごと持ちあげるような感じの建屋を作ってもらいたいんですが?」


「ボルマンさんの工房の時のように、吊り上げればいいんですね。分かりました。場所も見当がつきますのでそちらのほうも一緒に測量してしまいましょう」


 そんなやり取りの後、フォレスタルさんが乗って来た箱馬車で帰って行ったので、冒険者学校の戸締りを確認し、俺たちも王都に帰ることにした。行きもそうだったが帰りもトンネルを使って駆けていく。カンテラはアスカが持っているので走りながらでも全く揺れない。


 午後からは第一期生が一度冒険者ギルドの会議室に集まるので、そこでみんなを武器屋に引率いんそつしていって防具類の採寸さいすんを済ませてしまうつもりだ。



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