第246話 トンネル2


 ここまで来たら今日のうちに工事以外の部分は済ませようと思い、商業ギルドから王宮に向かった。


 今回もリーシュ宰相と面会はできなかったが、秘書の人に用件を伝えたところ、あの山の周辺一帯は王国の所有地らしく、使用については全く問題がないそうで、後日、今日付きょうづけで使用許可を書面で送ってもらえることになった。


 順調だ。


好事こうじ魔多まおおし』ともいうので、トンネル工事では気をつけよう。何だか俺までペラに影響されたようだ。


 きょうはここまでにして、工事は明日からだ。



 夜の間、アスカとペラとでレールの接続用の部品や、レールを枕木に固定するための犬釘いぬくぎを作っておくというので、それなりの数の鉄と鋼のインゴットを二人に渡しておいた。



 そして、翌朝。


 夜の間にアスカとペラで作り上げたというレール用の部品を収納したあと、日課のランニングをみんなと一緒にこなし、今は露天掘り跡からトンネルを通すにあたり、東側の出入り口予定地点に三人で立っている。


「マスター、この地点にトンネルが貫通かんつうしてきますのであらかじめ表土をはがしてしまいましょう。底面はレールを敷く床面になります。トンネルは有効幅4メートルを想定していますので、5メーター幅で表土をいったん20メートルほど収納願います。

 ペラは、ここから20メートル先に立っているように」


「イエス。マーム」


 今日もペラは軍人モードでいくようだ。


「ここから、ここまでが5メートルです」


 そう言ってアスカが伸ばした指先で地面に軽く掘って印をつけた。


「それじゃあ収納するから、ペラは気を付けてくれよ」


「イエス、サー」


 すぐにアスカに言われたように表土を収納した。先の方は土ではなく岩がだいぶ含まれていた。


「このままですと、むき出しになった表土の壁が非常に不安定ですから床面から斜めに、60度程度の傾斜がつくよう表土を収納願います」


 いわれるまま表土を収納したところ、なるほど、さっきまではいつ崩れてもよさそうな不安定さがあったが、いまはかなり安定している気がする。


「ここでいったん坑口こうぐち用に坑木こうぼくを立ててしまいます」


 仕入れた坑木をアスカの前に出してやった。


「坑木をこのように必要な長さに切断し、二本を柱として立て、もう一本を横木として柱の上に渡します。このままでは安定しませんので、もう一組、今でき上った支保しほわせるよう支保を組み立てます。……、これでだいぶしっかりしたと思います」


 切り立ったトンネル正面に添わせて二組の支保が前後に並んで立ったので、かなり安定しているが、これだけでは、強風が吹いたりすれば危ないだろう。


「それでは私が10メートルの長さでトンネル用の切り込みを入れますから、マスターは、その10メートル分の岩盤を収納願います」


「わかった」


「それでは収納お願いします」


 もう出来たのか。それじゃあ『収納』


 でき上がったトンネルは少し傾斜がついて上り道になっていた。それはそうか。


 出来上がったトンネルに、アスカによって支保が2メートル間隔で立てられ、横木と横木の上に矢板やいたが並べられてくさびで固められて行った。坑口の支保しほも矢板とくさびできっちり固定された。


 アスカ一人でほとんどの作業が進んでいく。


 一応はミニマップでは確認はしているもの、トンネルが西側の露天掘り跡に貫通かんつうした時、近くに人がいるとの危険なので、暇にしているペラを露天掘り跡にやって警戒させることにした。俺は、カンテラで現場を照らして岩盤を収納し、材料を取り出す。今回はかなり重要な役回りだ。



 見ていると15秒ほどで一組支保が完成していく。さすがはマルチタスクのアスカさん。


 結局3時間ほどでトンネルが露天掘り跡まで貫通してしまった。


 トンネルが貫通した先は、露天掘り跡のすり鉢の底面ぴったりかと思っていたのだが、そこから、2メートルほど下だった。レール上の台車に荷物を載せるのに段差がある方が上から投げ入れることができるのでずいぶん楽なのだそうだ。それはそうだ。1キロ以上の長さのあるトンネルを通して寸分すんぶんの狂いがないところから、アスカの頭の中には正確な測量図そくりょうずがあることが良く分かった。


 そのまますり鉢の底部をある程度掘り進んだところで、俺の岩盤収納作業は終了した。


「アスカ今何時だ?」


「12時ちょうどです」


「それじゃあ、ここらで昼にしよう」


 建屋工事の人たちもいまは休憩中だろうから、俺たちは遠慮えんりょして今できたトンネルの中で昼食をとることにした。ペラは食べられないので可哀そうかわいそうだが仕方がない。


「昼からは、レールだな」


「普通なら、枕木の下に砕石を敷いた方がレールのすわりはいいのでしょうが、路面の岩盤がしっかりしていますので、そのまま枕木を置けそうです。これならすぐにレールの敷設は終わります。午後からはペラはレールの接続をするように」


「イエス。マーム」


 食後少し休憩きゅうけいして、レールの敷設ふせつだ。


 すり鉢の底面から一段下がったところからアスカがその場で加工した枕木が並べられて行き、その上にレールがきれいに平行に並べられて行く。端切れはぎれの木材は俺がどんどん収納して片付けていく。並べられたレールはペラによって接続部品でつなげられ、そこから、犬釘で枕木に固定されていく。犬釘は断面が四角くくて相当太い釘なのだが無造作むぞうさにアスカによって枕木に押し込まれて行く。


 作業の進捗しんちょくを見ながらレールや部品を出していかないといけないので俺も結構忙しい。


 それでも、レール一組12.5メートルが1分ほどで敷設されて行く。水平から斜面に移るところもレールが微妙に曲げられているらしくガタガタした感じはなく非常に滑らかな曲線を描いていた。


 ……。


「できたな。一日もかからずここまでできるとはほんとにすごいことだ。ところで、アスカ、レールの上に走らす台車はアスカが作るのか?」


「はい、そのつもりです」


「その台車はどうやって動かすんだ? トンネルは結構な傾斜けいしゃだし、下りは何とかなっても、上りはきつそうだが?」


「台車の動力はペラを考えています」


「ペ、ペラをか?」


「はい、その程度問題なくこなせますから」


「いや、それはそうだろうけれども、なんだか可哀そうじゃないか?」


「どうせ、ペラは食事できませんから、その間に一往復するくらい問題ありません」


 ちょっとペラが可哀そうだが、アスカがそういうんだったらそれでいいんだろう。



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