第161話 帰還2、あれがセントラル


「マスター、前方にセントラルが見えてきました」


「やっとセントラルに戻ってこられたか。

 殿下、ハンナさん、こちらにいらしてみませんか? まだ遠いですが正面に王都セントラルが見えます」


 二人がアスカの座る操縦席の後ろから正面キャノピー越しにセントラルを見つめていた。


「あれがセントラル。初めて訪れるアデレート王国の王都を空の上から眺めることになろうとは」


「姫さま、ここからでも、街並まちなみがきれいにそろって見事な街ですね」




「『スカイ・レイ』王都外壁を通過しました。減速開始します」


「『スカイ・レイ』速度、……20、10、0。降下開始します。着陸脚展開」


 『スカイ・レイ』がゆっくり旋回しながら、王都の全景を二人に見せるように降下していく。



 ごとり、と音がして『スカイ・レイ』が停止した。着陸したのは、出発地点と同じ俺の屋敷の草地の脇だ。


「『スカイ・レイ』着陸しました。お疲れさまでした。足元あしもとに気を付けて後方のタラップより外にお出になってください」




 うちの連中も迎えに出てきてくれたようで『スカイ・レイ』の出入り口あたりに集まっている。殿下に失礼があってはならないので先に俺がタラップから降りたところで、


「お帰りなさいませ」


 屋敷にいたみんなが出迎えに出てくれていた。


「ただいま」


 ハウゼンさんに軽く話を通しておいた。俺が収納していた殿下たちの荷物はミラに渡して取りあえず居間に運んでもらうことにした。


 ミラの隣にいたソフィアはハウゼンさんに指示されたようで走って屋敷の中に入って行った。お茶とお風呂の準備に急いで行ったのだろう。


 アスカに続いてアリシア殿下と侍女のハンナさんがタラップを降りて来たので、屋敷のみんなが一斉に頭を下げて礼をした。さすがはハウゼンさん。よく教育が行き届いている。


 軽く会釈で返したアリシア殿下だったが、やはり気品があるものだと感心した。



 後日、ボルツの工房に持って行って整備してもらうため全員外に出たところで『スカイ・レイ』を収納した。いきなり消えてしまった『スカイ・レイ』に俺の収納に慣れていない二人はまたも驚いたようだった。『収納しまーす』とでもいえばよかったのかもしれない。



「殿下、お風呂の準備が整うまで、屋敷の居間でおくつろぎください」


「よろしくお願いします」




 屋敷の中に案内し、居間の中で用意されたお茶を飲みながらお風呂の準備が整うのを待っている。客室よりも居間の方がくつろげると思ったからこちらに案内した。


「ここが、ショウタ殿のお屋敷なのですね。お若いのに立派なお屋敷をお持ちなのですね」


「この屋敷は、私とアスカの共同の持ち物です。この土地はアスカともども貴族にじょされた折、王室より貸与たいよされた物です」


「ショウタ殿とアスカ殿はアデレート王国の貴族だったのですね」


「つい先日からですが、アスカともども子爵位をたまわっています」


「そうでしたか。それはおめでとうございます」



 居間の入り口にミラが現れこちらを向いて頷いたので、


「殿下、お風呂の準備が整ったようです。


 それじゃあ、ミラ、お二人を浴場にお連れしてくれ」


「かしこまりました。お二人ともこちらにどうぞ」




 俺もアスカもこれから二人を連れて王宮に行くわけだから、風呂に入った方が良かったのだが、まさか殿下の入っている隣の浴槽に入って行くわけもいかないので、体をタオルで軽くぬぐっただけで余所よそ行きの服に着替えた。


 待つこと小1時間。二人の準備が整ったようだ。アスカの着替えなどはものの3分もあれば終わってしまうので妙に新鮮ではある。


 アリシア殿下の着ている服は礼服のようで、光沢のある青を基調としたロングドレス。金の刺繍ししゅういろどりを添え、各所に宝石がちりばめられている。殿下の頭の上にはこれも宝石のちりばめられた銀色のティアラが乗っかっていた。


 ハンナさんの方は、細身の黒のスラックスに、白いブラウスの上からぴっちりした黒の丈の短い上着を着て腰には剣帯けんたいを巻き、細身の剣を差している。この人は侍女といっても護衛も兼ねた人だったようだ。


 よくあの荷物の中にこんなものまで入っていたなと感心したのだが、考えてみれば、皇女さまがアイテムバッグくらい持ってて当たり前だ。どうも自分だけが収納を使えると思ってしまうのは良くないな。


「お待たせしました」


「それでは、王宮まで馬車で参りましょう」




 玄関口に並んだうちの女性陣からアリシア殿下の姿にため息が漏れていたようだ。


 サージェントさんも王宮に行くので今日はちょっといい服を着ている。


 二人を先に馬車の後ろに乗せて、俺とアスカが向かいの席に座って王宮へ向かった。先ぶれは出してはいないが大丈夫だろう。



 30分もかからず馬車は王宮の正門を抜け車寄せに到着した。


 二人を連れ、勝手知ったる王宮への出入り口から王宮の中に入り、通りがかった制服を着た女の人に来意らいいを告げたところ、そのままその女性に連れられていつぞやの待合室のような部屋に通され、そこでしばらく待っているように言われた。


 椅子に腰かけて出されたお茶を飲んで待っていると5分ほどで部屋のドアが開き、リーシュ宰相が現れた。


「アデレート王国で宰相を務めておりますリーシュと申します。アリシア殿下、アデレート王国は殿下のお越しをお待ちしておりました。御身おんみの安全は王国が責任をもってお護りします。王宮内にお部屋も用意しておりますのでご安心ください」


「リーシュ宰相殿、私たちの亡命を認めていただき、ありがとうございます」


「それでは、これからのことについて殿下にお伝えすることなどございますのでどうぞこちらに。

 ショウタ殿、アスカ殿、今回の任務も良くやってくれました。王室に代わりお礼申し上げます」


「ショウタ殿、アスカ殿、どうもありがとうございました。それでは」


「仕事ですから、気になさらないでください。それでは失礼します」



 こうして、今回の救出劇は終了したのだった。


 もちろん、後日冒険者ギルドから多額の報酬をいただいた。人助けもできたし報酬もいただいた。いい仕事ができた。



 後日、リーシュ宰相に聞いた話だが、


『魔界ゲート』の問題が片付けば、アデレート王国も余裕ができるので、アリシア殿下を擁立ようりつしパルゴール帝国新政府をアデレート王国内で樹立したいそうだ。そのうえで、現クーデター政権から政権を奪取し親アデレート王国政権を樹立する計画だとか。


 先のことを考えるのが政治家の仕事とはいえすごいことを平気でできるものだ。そんなことを俺なんかに話したと言うことは、この先巻き込まれる可能性が有るということかもしれない。用心しておこう。




[あとがき・宣伝]

SF『宇宙船をもらった男、もらったのは星だった!?』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054897022641

2020年6月3日現在、SFジャンル週間1位でしたが、前日PVがわずか517でした。SFジャンルがもう少し活況になるためにも、応援よろしくお願いいたします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る