第155話 皇女救出作戦3


 西の空はまだ少し明るいが、それ以外の空には星がきらめき始めた。そのうち、星のまたたく夜になり、前方やや南寄りに街の明かりが何個かかすかに見えてきた。


 暗くて地面の様子ようすははっきりとは見えないが、砂地の砂漠ではないようだし、道もあるようだ。正面に一番大きな街の明かりがくるように『スカイ・レイ』が少し旋回せんかいした。


「マスター。あと15分ほどでパルゴールの首都ハムネアに到着します」


「星空が明るいから、ハムネアから少し距離を置いた場所に着陸しよう。下に見える道からも少し離れたところに頼む。暗いが大丈夫か?」


「高度を下げながらハムネアに接近し、慎重しんちょうに着陸します。マスターのミニマップもありますから問題ありません」


「アスカ、頼んだぞ」


「任せてください」




 うまい具合に『スカイ・レイ』が着陸した場所はなだらかな丘の上で、地面は草地だった。


 おおっ! ちょうど『スカイ・レイ』が着地したところでクエストマーカーが現れた。これで問題なく今回の救出作戦を進めることが出来る。


「アスカ、クエストマーカーが現れた」


「これでずいぶん難易度が下がりましたね」


「ああ。だけど、人の命がかかっている。気を引き締めて行くぞ」


「はい、マスター」


 アスカと二人、『スカイ・レイ』から飛び出て、すぐに『スカイ・レイ』を収納した。


 丘の上から5キロほど先に見えるハムネアは、黒く見える外壁で囲まれていた。外壁の上にぽつぽつと明かりが見えるのは見回りの兵隊のものだろう。


「アスカ、外壁まで走るぞ!」


「はい、マスター」


 

 クエストマーカーが視界の真ん中になる方向に向かって走り始める。暗がりではあるが星空がそれなりに明るいので草地を走る割にスピードが出た。10分ほどで街を囲む外壁にたどり着いた。


 俺の目の前の外壁は帝都を守る外壁だけあり見上げるほど高い。ミニマップで見ると、外壁の厚さは基部きぶで5メートルほどあった。高さは15メートルはありそうだ。


「アスカ、よじ登るか?」


「登ることは簡単ですが、それよりも私が人が通れるくらいの大きさで筒状つつじょうに外壁を切り取りますから、マスターがその部分を収納してください。通り抜けた後、元の場所に切り取った部分を排出していただければ、あながあいていることに気付かれることはまずないでしょう」


「分かった」


「マスター、切り取りました。収納お願いします」


 いつもどおり、俺が全く気付かぬうちに一瞬で切り取ったようだ。


『収納!』


 断面が馬てい形の筒が収納され、外壁に道が出来た。この方式なら、お姫さまたち二人を連れた脱出時も楽に外壁を抜けられる。


 俺とアスカはすぐにでき上った孔を通り、街の中に進入した。


 通り抜けた先はミニマップで見た通り、外壁を内側からめぐっている道で、通行人は見当たらなかったが、3人組の兵隊らしき人影が道の向こうに見えた。街を見回っているようだ。


 忘れずに孔の開いた場所に先ほど収納した半円形の筒を排出し、孔をふさいでおいた。


 三人組の兵隊が何組も街を見回っているほかに一般人は今のところ見かけていない。俺とアスカはいつもの普段着を着ているので、道で一般人と出くわしても見とがめられはしないと思うが、クーデターから二カ月以上経っているのにいまだに夜間外出禁止令でも敷いているのだろうか。そうだとすると、俺たちが道を歩いているのが見回りの兵隊に見つかるとまずい。


 用心をするのに越したことはないので、ミニマップを見ながら、見回りに出くわさないようギルドを目指して速足で移動した。


 10分ほどクエストマーカーに向かって進んでいるとかなりギルドに近づいたようで、ようやくミニマップにギルドらしき建物が現れた。外出禁止ではなかったようで、兵隊以外にも一般人も出歩いているようだ。


 あと5分も歩けばギルドに到着できるところまで来てまずいことに気付いてしまった。


「なあ、アスカ?」


「どうしました?」


「俺たち、この国の言葉は知らないよな? どうする?」


「この国の言葉は今使っている言葉とそんなに違わないのではないでしょうか。もし言葉が通じないのならば、ギルドのスミスさんが注意くらいしたでしょうし」


「それもそうだな。安心したよ。普通の人も出歩いているようだし、こそこそしてるとかえって怪しまれるかもしれないから、ここからは普通に歩いてギルドに行こう。それじゃあ、いつものように」


 そういってアスカに剣帯けんたいごと双刀を渡し俺は八角棒を取り出した。


「はい、マスター。このままお城に乗り込んで、新政府の連中を根絶ねだやしにすれば、お姫さまが亡命する必要はありません。城の中にはいても3000人程度の兵隊しかいないでしょう。物の10分もあれば殲滅せんめつできます。そちらの方が簡単ですし、今回救出するはずのお姫さまを皇帝にえてしまえば、アデレート王国としても友好国が増えてありがたいのではないでしょうか?」


 それはそうかもしれないが、それはそれでやりすぎだろう。それに、皇帝になってしまったら、お付きの人一人では何もできないだろうし、国を運営するにはそれこそ数千人では足りないだろう。それとも、どこからともなく、新皇帝シンパが現れるか?


「今回はギルドの依頼通りおとなしくお姫さまを助けよう。今急にお姫さまを皇帝に据えても本人も困るだろうし、なにより国を維持できないだろ」


「了解しました」




 いつも、簡単に物騒なことを言ってのけるアスカだが双刀を剣帯にクロスして差した姿はいつ見てもカッコいい。八角棒を持った俺の方はというと、自分で言うのも何だが、それほどでもないな。


 ドシンドシンと八角棒を地面につけながら歩いていると目当ての建物の正面に出た。


 ハムネアの冒険者ギルドは3階建ての建物だったが、アデレート王国の王都セントラルにある冒険者ギルドと比べてもそん色のない大きさで立派な建物だった。まだ中には人がそれなりにいるようで、窓から漏れる明かりはまぶしいほどだ。


 俺たちは、いつもの通り普段着姿だが、一応二人とも子爵さまなので、普段着もそれ相応に上等なものを着ている。これなら、ギルドの中に入っていってめられることはないだろう。


 普段なら、難癖なんくせウェルカムなのだが、今回は救出作戦中だ。無駄むだあおったりしないようにしよう。いつもアスカが後ろにいてくれるから大船おおぶねに乗った気持ちになってうきうきであおってたんだけど今日はお預けだ。


 ギルドの中からは笑い声や大声で怒鳴どなりあう声が響いてくる。どこのギルドも変わらないらしい。




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