第152話 特訓3、サンドリザード


 アスカに短剣を作ってもらった四人は、さっそくアスカ指導のもと、その短剣で訓練を始めた。


 アスカ教官は、どこで覚えたのか、腰の後ろで手を組んで、四人の前を行き来しながら、えらそうに講義を続けている。


「いいか、その短剣は非常に鋭く扱いを間違えると、自分や仲間を傷つける場合もあるので慎重しんちょうに扱わなければならない」


 真剣に四人娘はアスカの講義に耳を傾けている。


「マスター、壊してもいい剣を一本いただけますか?」


 アスカが何に使うか分からないが、ゴブリンが使っていたような鉄の剣を渡してやった。


「リディア、おまえの持っているその短剣で、この剣を試しに切ってみろ」


 そういってアスカが片手で鉄の剣を前に出した。


「はい」


 返事はしたものの、四人娘の一人、リディアは先日のアスカと俺の模範試合もはんじあいを見ていたせいか、腰が引けている。


「リディア、アスカに切りかかるんじゃなくて、アスカの持ってる剣に切りつければいいだけだ」


 俺の声で、今度こそ踏ん切りがついたのか、


「エイ!」


 シュッ。


 そんな風切り音とともにリディアが青い短剣をアスカの持つ剣に振り下ろした。刃先もぶれず見事な一閃だ。


 何の抵抗もなく、アスカの持つ剣が真ん中あたりで切断され、切られた剣の半分は、ぽとりと地面に落ちてしまった。


「分かったか? ただの鉄など、その剣で切ればバターを切るように簡単に切れる」


 ここで、もったいをつけて、一拍置き、


「しかーし」アスカの視線が空中のどこかに向いている。


 最近アスカのやつ妙に乗ってるよな。ゆっくり顔を四人の方に向け直し、


「訓練の時は、恐れる必要はない。危なければ、この私がすぐにおまえたちの剣を止めてやるから、決してけがはしないので安心しろ。万が一けがをして手足の一、二本吹っ飛んでも、マスターのポーションで元通りだ」


 おどかしてどうする。みんな腰が引けて来てるぞ。それはそれとして、そのうちエリクシールを増やしておいたほうがいいな。


「基本は、木の短剣の時と同じだ。構えて、刃先をまっすぐだ。さっきのリディアの振りは良かったぞ」


「それじゃあ、みんな上段じょうだんに構え! 1!」


「「「「エイ!」」」」 シュッ。 青い短剣がそろって振り下ろされる。


「構え! 2!」


「「「「エイ!」」」」 シュッ。 ……

「構え! 100!」


「「「「エイ!」」」」 シュッ。


「次は中段ちゅうだんからの突き! 構え! 1!」


「「「「エイ!」」」」 大きく右足を踏み込み短剣が突き出される。


「剣先は、一点を狙えよ! 構え! 2!」


……



 四人組が短剣の扱いにも慣れて来た数日後、


 四人はいま素振すぶりを終えて休憩中で、俺達の後ろで庭に座り込んでいる。



「マスター、四人を連れて実戦訓練をしましょう」


「それは俺も賛成だが、どこへ連れて行けばいいんだ?」


「今のリディアたちなら、四人でかかればレベル3あたりのモンスターをたおせると思いますが、初めてですから、レベル2程度のモンスターにしましょう」


「近くにそんなモンスターがいるところがあるか? ヤシマダンジョンだと少し遠いだろ?」


「そうですね。それで思いついたのですが。マスターは北の砦を襲ってたサンドリザードの死体をまだ持ってますよね。その中には砦からの攻撃で傷ついたものが何匹かいると思ううんですが」


「いると思うけど、そんなものをどうするんだ?」


「あれを、私の髪の毛で操って、本物の動きをまねます。それを攻撃させましょう。血まみれの死体ですからかなり迫力あると思います」


 飛空艇の操縦シミュレーターで味を占めたのか、やたらと髪の毛で物を操りたがるな。


 アスカの言うとおり、サンドリザードは確かに迫力ある。前に十匹ほど冒険者ギルドに売った時も、生きてるように見えて、受け取り窓口のおじさんも驚いていたからな。


 売る時も少々傷んでる方が普通らしいから無駄むだにはならないだろう。ちょうどいいかもしれない。


「じゃあそれでいってみるか。一匹そこに出してやるから、アスカがうまく動かしてみてくれ」


 アスカの足元に出したサンドリザードは血まみれで、砦からの槍の攻撃を受けたせいか生々しい刺し傷があり、収納から出した途端とたん、数カ所ある傷口から血が流れ出て来た。


 そのサンドリザードがそれっぽい動きで、歩いている。時たま口を大きく開けて、一気に閉じることもする。実に動きがスムーズで実際に生きているように見える。


「なかなかいいと思うけど、これだと庭が血で汚れるな。ハウゼンさんに叱られるから、どっか他所よそで訓練しよう」


 血まみれのサンドリザードを収納し直し、血で汚れた庭の部分は砂を掛けておいた。ゴブリンだと臭いが取れないが、サンドリザードは妙な異臭いしゅうは残さなかった。


 四人娘はというと、四人とも青い顔をしていたがすぐに立ち直ったようだ。近頃の若者は順応が早いようだ。それか、あきらめが早いのか。目を見る限りでは後者の可能性が高そうだ。



 今度は、屋敷の南側の馬場の方へ移動して訓練再開だ。四人に訓練内容を教えながら移動する。


 馬場ばばの隅の方で、シルバーとウーマは日向ひなたぼっこをしながら、ゆっくり草を食べている。ここでこの二頭が走り回ってるところを見たことがないな。運動はシャーリーの送り迎えで十分なんだろうか。


「マスター、このあたりで先ほどの一匹を出してください」


 アスカの前に先ほどの血まみれサンドリザードを出してやる。


「それじゃあ、リディアから。他の者はもう少し下がって」


 リディアが両手で剣を構える。リディアの周りを首だけリディアに向けた血まみれサンドリザードが右に回り始めた。髪の毛をどう動かしてサンドリザードを操っているのかはわからないが、リディアの動きの邪魔じゃまにならないよううまく動かしているのだろう。サンドリザードは、リディアを脅すように素早い動きで接近し、剣が振られる前にすぐに向きを変えながら後ろに下がる。そして、尻尾をリディアの足にたたきつけた。


 転んだリディアに向かいサンドリザードが大口を開けて一気に迫り、リディアのすぐそばで止まった。


「リディア、実戦だと今のおまえはサンドリザードに噛み殺された。敵の動きをちゃんと見ろ。相手の攻撃は一種類だけとは限らないぞ。相手が後ろに下がったからといって安心するな! リディア、返事がないぞ」


「はい!」


 転んで下を向いていたリディアがアスカの方を向いてしっかり返事をした。これなら心配ないだろう。


……



「マスター、四人ともだいぶいい動きが出来るようになりましたね。ですがマスターは、飛び散る血くらいけた方がいいですよ」


「そうだな」

 俺は力なく返事をする。


「それでは、今日の短剣訓練はこれまで。午後からの操縦訓練には遅れるなよ」


 俺と四人娘は、サンドリザードの血を頭からかぶったようになってるし、その上四人娘は肩で息してる。なんでアスカだけ汚れてないんだ?



[あとがき・宣伝]

SF『宇宙船をもらった男、もらったのは星だった!?』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054897022641

タイトル通りの宇宙ものです。よろしくお願いします。




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