第151話 解呪、『青き稲妻の大剣』


 午後からの訓練は、アスカによるフライトシミュレーターだ。


 最初のころの訓練方法は、食堂の椅子に座っての操作訓練だったが、今ではアスカ製の正副操縦士席が二組でき上がっている。それに座って操作するレバーボックスも、大きくなってレベルアップしており、テーブルの上でなく地面に置いている。


 レベルアップの内容は、ボルツさんから分けてもらったつるまきばねや重りを内部でレバーにつなげ、レバーを動かす時の抵抗が本物の操縦レバーの抵抗に近くなって、四本同時に動かすときなどは、かなりの力が必要となった。


「いいか、もう一度見本を見せるから、よく見ておくように。垂直上昇から、水平飛行のツナギで、どうしても一度飛空挺がガクンと落っこちてしまうのは、補助加速器の操作がなってないからだ。そんなだと、中にいる人はびっくりするぞ。そうならないよう、メイン加速器の下向きの噴気ふんきの量の減少に合わせて下向きにした補助加速器の噴気を強めていく。こういう風にだ」


 アスカは、そういうと、一人で正操縦士用のレバーボックスと、副操縦士用レバーボックスを髪の毛で操作して見せた。飛空艇の模型は、ゆっくり上昇しながらスムーズに前進した。模型を操作するのもアスカ自身だから、よく考えるとインチキっぽいところもあるが、ちゃんとレバーの動きを模型でシミュレートしているのだろう。


 いったん模型を地面に降ろし、


「ようし、もう一度やってみよう。正副操縦士の息が合わないと難しいぞ」


二隻の模型がゆっくり離陸していった。


「ここで、水平飛行に切り替えて行くぞ。そうだ。今のは良かったぞ。完璧かんぺきだ」


「それじゃあ、もう一度最初から、今のを忘れるなよ!」


「「「「はい!」」」」


 四人ともうまくできて、アスカにめられたのがよほどうれしかったようだ。やる気のあるいい返事だ。


 これぞまさに、


『やってみせ、言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば、人は動かじ』の体現たいげんではないか。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 そのころ王宮では、賢者サヤカと聖女モエが、マリア王女に、勇者ヒカルの大事にしている『青き稲妻の大剣』が呪われているかもしれないので鑑定したうえで、本当に呪われているなら解呪かいじゅしてほしいと頼まれた。もちろんマリア王女はショウタの名は出していない。


「ねえ、モエ、どうする?」


「どうするって、マリア王女に頼まれたんだからやんなきゃいけないでしょ。やるって返事したんだし」


「そうよねー。わかった。がんばろー」


「ヒカルはほとんど訓練に出てないし、最近はダンジョンにも行ってないでしょ。今はなんでだか素振すぶりくらいはしてるみたいだけど、私たちの方が断然強いはずよ」


「だろーねー」


「念のため私がサヤカを祝福しゅくふくして、サヤカの魔術を強化するから、サヤカがバインドかなんかでヒカルを拘束こうそくしてくれる?」


「あー。あたし、バインドみたいな地味なまじゅつはあんまり好きくないのよねー。バーンとかドカーンとかが一番じゃん?」


「ヒカルはモンスターじゃないんだから。ヒカルを大けがさせたり、まして殺しちゃダメなんだからね」


「ちょっとくらいならすぐにポーションで治るし、いいんじゃん? 聖女のモエだっているんだし」


「ダメに決まってるでしょ」


「モエ、ジョウダンがつうじないねー。そんなんじゃいい女になんないよ」


「わかったから。サヤカはちゃんとヒカルを拘束するのよ。そしたら私があの剣の呪いを解くから」


「あたしはかんていしなくていいの?」


「サヤカの鑑定全然進歩してないじゃない。鑑定はいいからしっかりヒカルを捕まえててよ。いいわね」


「わかった。それじゃいつやっちゃう?」


「早い方がいいから、今からやろう。今の時間あいつは? あれ? どこにいるんだっけ?」


「ヒカルはいまの時間、自分のへやにいるんじゃん。夕食まで時間あるし」


「ヒカルの部屋に行くのは嫌だけど、嫌なことは早く片付けてしまおうよ」





 勇者ヒカルの部屋の前に来た賢者サヤカと聖女モエ。


「サヤカ、あなたがドアをノックしてヒカルを呼び出して」


「エー、あたしー?」


幼馴染おさななじみなんでしょ、頼んだわよ」


「わかったわよ。


 ヒカル中にいるー? あたしー。サヤカー。ドア開けてくれるー。へんじがないけど開けちゃうよー。


 あれ、かぎはかかってない。いないのかなー?」


「待って! サヤカ、今祝福するから『ブレス!』」


「これで、サヤカの魔術の効果が三倍になるはずよ」


「サンキュー。これされると、ほんときっもちいいよねー。ひまなときはいつもあたしにかけててよ」


「バカなこと言ってないで、中に入るわよ」


 ……


「あれ、ヒカルのヤツ、あの剣いて寝てるよ」


「モエ、あんた絵がうまいから、ヒカルのけんに女の子の絵でもかいてやったら? イタケンできちゃうよ」


「いいから、早く『バインド』しちゃってよ」


「わかった。あせらないでいいから。『バインド』…… いやー、ヒカルかんたんに『バインド』かかちゃったよ。これはこれでまずいんじゃん?」


「そうかもしれないけど、今は簡単にかかってくれたことを喜びましょ。じゃあ私が、解呪かいじゅするね。『ブレイクカース』」


「モエ、なんかヒカルの剣から黒いもやもやがでてきたよ」


「サヤカ、もやもやもそうだけど、剣が溶けたみたいに崩れてきてない? アッ! が取れた! さやと柄だけが残ったみたい」


「やっぱりのろわれてたんだ。けんがなくなったこと知ったらヒカルがおこりそうだから、モエ、悪いけどあたしもうかえる」


「私も帰るから待ってよ。サヤカ、ヒカルを『バインド』したままでいいの?」


「へーき、へーき。あしたの朝までにはとけるはず。かえってこのままのほうがいいって」


「それもそうか。忘れずに、ヒカルの担当たんとうの侍女の人に今日はヒカルは寝てるからそっとしておくように言っとかないとね。それじゃ帰ろ。今日の晩御飯ばんごはん何かなー?」


「あたしは、きょうはがっつりステーキかな」


「えー、それじゃ太るよ?」


「きょうはよぶんにしごとしたからいいんじゃん」


「それもそうか、そしたら私もステーキにしよ」



 こうして、勇者ヒカルの呪いの大剣『青き稲妻いなづまの大剣』は解呪かいじゅされ、勇者ヒカルはその呪いから解放された。


『青き稲妻の大剣』の中身がなくなっていることに翌朝気付いた勇者ヒカルは一週間何もできずほうけていたそうである。後遺症こういしょうがある程度残ったようである。




[あとがき・宣伝]

SF『宇宙船をもらった男、もらったのは星だった!?』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054897022641

タイトル通りの宇宙ものです。よろしくお願いします。




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