第150話 短剣製作、アダマンタイトの短剣


 王室の謝罪という名目のお茶会を終えて、何日かたったある日。


 アスカと俺にマスカレードイエローの四人とシャーリーも加えた七人と、シャーリーにくっ付いているシローの一匹で朝のランニングをしている。俺たちが、毎朝ランニングをしているのを見て、シャーリーも参加するようになった。十二月に入り、辺りはまだ暗い中でのランニングである。


 屋敷の周囲が距離にするとちょうど三百メートルあるので、軽く十周走っているのだが、シャーリーは三週目くらいでリタイアしてしまう。シャーリーも俺たちについて走って完走したいのだろうが、いかんせんまだ体力ができていないので完走は無理っぽい。少し甘やかすことになるが、何かシャーリーの走力を上げるアイテムはないか収納庫を探してみることにした。


 これなんかどうだ?


「風のブーツ」


 名前は良さげじゃないか? どれ、『鑑定』



「風のブーツ」


風の精霊の翼を引きちぎって作られたといわれている呪いのブーツ。

履いてしまうと死ぬまで走り続ける。


怖えー、こんなのどこで拾ったのか全然記憶にないぞ。早いとこアスカに渡して処分してもらおう。



これは?



韋駄天いだてん


アーティファクト。

鑑定不能の素材でできたブーツ。

走ることにより逆に疲労が回復し、軽度の障害しょうがいなら完治かんちする。

走ることに喜びを感じ、どこまでも走り続けたくなる。


 これもなんか微妙だ。最後の一文が怖い。行ったことはないが大阪の道頓堀どうとんぼり看板かんばんで両手をげてランニングしているおじさんを思い出してしまった。シャーリーがああなったら大ごとだ。


もっとまともなのはないのか?



とうげの走り屋」


鑑定不能の素材でできた底の浅い黒色のブーツ。

履くと坂道を見ると走り出したくなる。のぼりもくだりも全力で走り、同方向に向かう人を追い越すことに喜びを感じる。

たまに、カーブで曲がり切れなくなり道を外れてしまうが、大きなケガはしない。


 こんなのばっかりか?



「ミチバシリ」


鑑定不能の素材でできた軽量のブーツ。

履いていると走行中の疲れが軽減けいげんされる。軽減度合いは装着者そうちゃくしゃによる。


これでいいよ。これだよ。全然疲れないと訓練にならないからな。あとでシャーリーに渡しておこう。




 シローは、まだまだ走れるようだが、シャーリーがリタイアすると、くっ付いていき座り込んだシャーリーの足に体をり付けている。


 朝のうちのこの時間帯だとほとんど人通りがない。マスカレードイエローのアピールチャンスなんだがな。


 マスカレードイエローの四人は材質不明のシルクハットを落っこちないように片手で押さえながら走っている。顎紐あごひもをつけてやらねばならないな。仮面をつけて完全変身させたいところだが、仮面をつけるとボイスチャンジャー機能が働いて変声へんごえになるので、装着させてない。何か指示した時に、返事が変声だとかなり締まらないからな。


 アスカがなかなか、マスカレードレッドに変身へんそうしてくれないので残念だ。



 アスカの短剣道場での四人の動きもさまになって来た。


 そろそろ、本物の短剣を振らせてみようということになったので、俺の収納の中に適当な剣がないか探してみたが、物騒ぶっそうな長剣やゴブリンが使っていたような短剣はたくさんあったが適当な短剣はなかった。


「俺の収納庫の中にも適当な短剣はないみたいだな。武器屋にでも買いに行くか?」


「それでしたら、私が作ってしまいましょう。マスター、アダマンタイトとミスリルのインゴットをお持ちですよね」


「持ってると思うけど、アスカが作るんだよね?」


「はい。ミスリルを芯材しんざいとしてアダマンタイトで短剣を作ります。ただの金属ですので、ねて、伸ばして、みがけば剣になると思います。とりあえず、アダマンタイトのインゴットを八個とミスリルのインゴットを一個お願いします」 


 ねて、伸ばしてって、粘土みたいなことを言う。


 言われたインゴットをアスカの前に出してやる。アダマンタイトのインゴットは薄い青色、ミスリルの方は青みを帯びた銀色だった。


「まず、アダマンタイトのインゴット六個を使い、金床かなとこを作ります」


 あれれ、これはアスカの料理教室の始まりか?


 そういってアスカは、アダマンタイトのインゴットを二個を重ねてそれを両手で押し付けてくっつけてしまった。それをあと二回、三個のアダマンタイトのインゴットの塊を作り、さらにそれを重ねてとうとう一つの塊にしてしまった。それを文字通りねたり延ばしたりして金床ができ上がった。


「金床ができました。これを使って剣の形を整える方が、品質の高いものができると思います」


 そうなんですね。


「芯材とするミスリルをこのように丸棒まるぼう状に延ばし、真ん中で切って二つにします」


 ミスリルのインゴットを両手で捏ねながら、それを棒状に延ばしていき、できたミスリル棒を髪の毛か何かで二つに切断した。そこは全く見えなかった。


「次はアダマンタイトのインゴットをねながら板状に延ばします」


 今度は、アダマンタイトのインゴットを捏ねて、二枚の板ができた。


「この板の上に先ほどのミスリル棒を載せて、板を曲げて包みます。アダマンタイトとミスリル棒が圧着あっちゃくしてよくなじむように、両手で軽く押さえてやります」


 ミスリル棒が芯材となったアダマンタイトの棒が二本できた。


「十分アダマンタイトとミスリルがなじみましたら、短剣二本ができる長さまで両手を使って延ばしてやります。

 ……。

 うまく延びたようです。延びましたら、これを先ほどのように真ん中で切ります。こうですね。


 これをもう一度行います。……。これで四本分の短剣素材ができ上がりました」


 できたそうです。


「それでは、この素材の中から適当に一本を選び、先ほど作ったアダマンタイトの金床の上に乗せ、先端を片手で持って、反対の手で満遍まんべんなくたたき、短剣の形になるようにします。……。こんな感じでいいでしょう」


 言うだけあって、金床の上の棒はきれいに延ばされていき短剣ができ上がった。


つか挿入そうにゅうする部分を作ります。後で、目釘めくぎを打ちますから1カ所小さなあなをあけるのを忘れないようにしなければなりません」


 短剣を持ち換えて、根元をたたいて平たく延ばしていき、剣のつかに挿入する部分もでき上がった。小さな孔も知らないうちに開いていた。


「次はぎです。先ほどできた短剣を砥いでいきます。こんな感じで刃先に人差し指の指先の腹を軽くのせてやり、数回でてやります。このとき、指先の腹の硬さとあらさを刃の状況を見ながら変えてやるのがコツです」


「……。はい、これで一本でき上がりました。後は柄に入れて目釘を打てば完成です。柄には滑り止めを巻いた方が安全です」



 何回か短剣の刃先を指先で撫で、両刃剣なので表裏前後で計四セット、砥ぎを行った。でき上がって見せられた短剣は薄青くあやしく光っていた。何だかいやな予感がする。



 鑑定してみた結果、


「アダマンタイトの短剣+1.5 EX」


アダマンタイト製の短剣、芯材にミスリルを使用しているため、魔力の通りが良く、斬撃力ざんげきりょくそこなうことなく軽量化されている。

アーティファクトに準じる。

刃こぼれしにくい。

物理攻撃力が1.5倍になる

攻撃はPAを貫通かんつうする。


 えらいもんができてしまった。これは、対人特化たいじんとっか凶器きょうきだわ。こんなのを女の子に持たして大丈夫なのか? 自爆じばくしたら目も当てられないぞ。


「それでは、残りの三本も作ってしまいましょう」


 十分ほどで、残りの三本もでき上がってしまった。残りの三本も「アダマンタイトの短剣+1.5 EX」だった。 


 休憩中の四人娘は、座って休んでいる間に、短剣がポコポコできているのを見てまたも固まってしまったようだ。本人たちはところに買われたのだと自覚してくれればいいが、ところに買われてしまったと思っているかもしれんな。 


 いずれにせよ四人娘たちよ、少なくともアスカと俺は君たちを立派に自立させるつもりで君たちを買ったんだからな。



 短剣の鞘と柄は、すぐにアスカが俺の渡した木で作り、砂虫の皮をかなり薄くしたものを柄に巻いて滑り止めにして、目釘めくぎを打って完成したようだ。


 剣帯けんたいは、さすがに自前じまえでは作れなかったので、ひとっ走りして商店街の武器屋から買って来た。無論むろん全員でだ。


 屋敷に戻って、一人一人にでき上がった短剣と剣帯を手渡してやる。


「非常に危険な短剣なので、間違っても人に向けないように。訓練で使う時には、となりと十分距離をとること。しかし、何かに襲われ危ないと思った時は遠慮せず剣を抜くこと。相手が人であってもためらうな」


「「「「はい!」」」」


 いつもながら、元気の良い返事で結構。


 口で言っただけじゃだめだと分かっているけれど、一応言っておいた。どこかで、実戦訓練は必要だろう。




[あとがき・宣伝]

SF『宇宙船をもらった男、もらったのは星だった!?』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054897022641

なろう連載中のものの転載です。タイトル通りの宇宙ものです。よろしくお願いします。

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