第149話 お茶会


 勇者親善使節団の慰労会の数日後、王宮より俺の屋敷に使者がやって来た。


 伝えられた内容は王家として勇者召喚に巻き込んでしまったことを謝罪したいということだった。おびとして商業ギルドの俺の口座に大金貨百枚がすでに振り込まれているという。


 気にしないでいいといったのにマリア王女は律義りちぎな人である。そう言うところは好感が持てるし、テンペラ宮でも役に立つのかどうかもわからない俺が邪険じゃけんに扱われることもなく、迷宮で行方不明ゆくえふめいになった時には、俺を心配してくれていたそうである。


 国王の代理として、リリアナ殿下が謝罪するということなので、褒賞式のような大ごとにはならないだろうと思い、迎えの箱馬車に乗り王宮に向かった。俺の恩人枠おんじんわくでアスカも一緒に王宮に呼ばれている。


 車寄せの先の入り口から王宮に入ると、見知った侍女の人が迎えに出てくれていて、その人について行くと、何のことはなくリリアナ王女の私室だった。謝罪という名のお茶会だったらしい。


 軽く侍女の人に礼を言って、いつものようにテラスに出てみると、リリアナ王女とともにマリア王女がテーブルの椅子に座っていた。


「えーと、リリアナ殿下、これはお茶会ですよね?」


「はい。そういうことです。お二人がなかなかいらっしゃらないものですから」


 そこで、リリアナ王女とマリア王女が立ち上がり、頭を下げた。


「勇者召喚に巻き込んでしまい、申し訳ありませんでした。王家を代表しまして謝罪いたします」


「謝罪はありがたくお受けします。私もこちらに来た時には不安でしたが、周りのみなさんのおかげで、こうして幸せに暮らせています」


「謝罪を受けていただいてありがとう。それでは、お二人ともお座りください」


「遠慮なく」


 アスカと二人で席につくと、控えていた侍女の人が紅茶を二人分れてテーブルの上に置いてくれた。お茶菓子は数種類のクッキーとプチケーキのようで、さっそくアスカは取り皿に何個かとって食べ始めた。リリアナ王女は慣れているので気にも留めないが、マリア王女はそうでもないので、少し驚いたようだがそれだけだった。アスカが場所を気にせず空気を読まないのはいつものことなので、それをとやかくいうような人はいない。


「ショウタさん、ヨシュアを受け入れていただいて、そちらもありがとうございます」


「やはり、リリアナ殿下のお計らいだったんですね」


「ヨシュアの生い立ちなどを聞かされ、しかも、ショウタさんが私と同じくエリクシールを使ってまで救った命を犯罪奴隷として縮めることはできないと思いました」


「そうでしたか。やはり、殿下はお優しい方ですね」


「ショウタさん、ありがとう」


 リリアナ殿下が嬉しそうにほほえんでくれた。これが薔薇バラのほほえみとか言うんだろうか?


 いったんリリアナ殿下との話が途切れたところで、今度はマリア王女が話を切り出した。


「コダマ殿も、先日の親善使節団の慰労会で気付いたでしょうが、親善使節として北方諸国を歴訪れきほうしたのは勇者さまたちの代役なのです。

 あなたの知っている本物の勇者を人前に出す訳にはいかないということで、代役を立ててお披露目のパレードや親善旅行は大成功だったのですが、肝心かんじんの本物の勇者さまが相変わらずのようで、もう一年半後に迫った『魔界ゲート』の開放までにものになるか相変わらずわからないそうなのです」


「そうですか。それは困った問題ですね」


「それで、勇者さまと同じ世界からいらしたコダマ殿に、勇者さまがせめて聖剣を扱えるようになる方法がないか考えていただきたいのです」


「それほどまでにひどいんですか?」


「はい、コダマ殿が行方不明になったキルン迷宮で手に入れた大剣を肌身離さず大事にしていて、手放そうとしないようなのです。最近はほかの武器も試しているようですが、その時も大剣は背中に背負ったままだそうで」


 しかたない、ここでヒントを出すか。あいつを助けたくはないが、マリア王女があいつのせいで困ってるのはかわいそうだからな。それにおびに大金貨ももらったことだし。


「そこまでその大剣に執着しゅうちゃくしているということは、その大剣は呪われているんじゃないですか? 高位の鑑定を試してみるか、鑑定せずとも聖女に解呪かいじゅを試させてはいかがでしょうか?」


「そうですね。一度聖女さまにお願いしてみましょう」


「勇者さまの代役の話は侍女たちのうわさ話で耳にしていましたが本当だったんですね。お姉さま、仕方のないことは気にしないことです」


「あら、リリアナはずいぶん明るく前向きになったのね」


「何もかも諦めていたわたしがこうしてショウタさんたちのおかげで生きているんですもの、明るくも前向きにもなります」


「そうだったわね」


「それと、ショウタさんは、いま王都で話題の飛空艇を持ってらっしゃるのよ」


「飛空艇というと、確か王都の発明家が作っているという空飛ぶ船のこと?」


「そう。その飛空艇。そうですよね、ショウタさん」


「はい。ボルツさんという発明家に資金を援助した関係で最初の一隻を譲ってもらいました。先日は、キルンまで行ってきたんですよ。キルンまでですと、片道二時間ですから、その時は日帰りしました」


「それは、本当ですか?」「私も乗りたかったなー。ショウタさん今度乗せてくださいね」


「飛空艇は時速二百五十キロで飛びますから本当です。

 リリアナ殿下、国王陛下の許可さえあればいつでも殿下をお乗せしますよ」


「ショウタさん約束ですからね。それと、今度王宮でパーティーがあれば、逃げずに私をダンスに誘ってくださいね」


「約束します」


 飛空艇はいいけどダンスはどうすんだ? アスカに習うか。アスカは何でもできるから、ダンスもきっと教えてくれるだろう。


 横目でアスカを見ると、相変わらず取り皿に取った何個目かのクッキーを食べていた。


 飛空艇に乗せる約束をすると、リリアナ殿下は満面の笑みで浮かべている。マリア殿下の方はなにやら考え込んでしまった。


 それから、しばらく雑談をして二人に別れのあいさつをして、王宮を後にした。


 アスカは、テーブルの上にあったクッキーがよほど気に入ったのか、一人で全部食べてしまったので、侍女の人がお代りを持ってきてくれた。それを今度はシャーリーへのお土産みやげだと言ってポケットに突っ込んでしまった。場所を気にせず空気を読まない。まさにアスカだった。



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