第148話 慰労会にて


 俺は今、王宮の大広間で北方諸国に親善旅行に行って帰って来た勇者一行(代理)の慰労会いろうかいに出席している。


「アスカ、俺のミニマップに映ってるんだけど、何だか変な動きをしてるヤツが二人いるようなんだが」


「どうやら、魔術で隠蔽いんぺいして、この会場の中を物色しているようですね」


「ということは泥棒どろぼうか?」


「いえ、泥棒ですと、このように多数の人が集まる場所では仕事ができませんし、先ほどから動きが全くありませんから、泥棒ではないと思います。」


「じゃあ、何だと思う?」


「とりあえず、不審者ふしんしゃですから仕留しとめますか? 例の延髄えんずい切りだと血もそんなに出ませんよ」


「いやいや、ここでそんなことしちゃまずいだろ。じっとしてるんだったらほうっとけばいいだろ」


「分かりました」




 人生最大の危機、生と死の狭間はざまから抜け出して、命拾いのちびろいした賢者と聖女だったが、本人たちは当たり前だが気付いていない。能天気のうてんきに勇者代理に二人して見惚みほれていた。




「おっ! あそこにリリアナ殿下がいる。ちょっと行ってあいさつして来よう」


 リリアナ殿下に俺たちが近づいていくと、殿下の後ろに控えていた二人の侍女が殿下をかばうように前に出て来たが、やって来たのが俺たちだと分かるとすぐに後ろに下がった。


「リリアナ殿下、ご無沙汰ぶさたしております」「ご無沙汰してます」


「コダマ子爵さんとエンダー子爵さん。お二人が来られるのを私待ってましたのよ」


「申し訳ありません、屋敷のことやら、飛空艇のことで立て込んでまして、すっかりご無沙汰していました」


「いえ、そのこともそうですが、待ってましたのは今日のパーティーのことですの」


「はい?」


「お二人もご存じのように、私は今まで体が弱かったためパーティーに出るのは今日が初めてなんです。お話し相手もいませんし、見知った人はお二人くらいしかいませんので、ずっと探していました」


「それは、申し訳ありません」




「リリアナここにいたの、探したのよ。ほんとに元気になったのね。手紙は読んだけど信じられないわ。でもほんとに良かった」


 俺たちが話しているところの横合よこあいから、かつて聞いたことのあるマリア殿下の声がした。


「マリアお姉さま、お久しぶりです。お姉さまにこのまま会えずに終わってしまうと覚悟していたのですが、こちらのコダマ子爵さまとエンダー子爵さまにエリクシールをいただいてこのように元気な体になりました」


「こちらが手紙にあったお二人ですか。私はリリアナの姉のマリアといいます。妹の命の恩人に何といったらよいか。本当にありがとう」


「マリア殿下、頭を上げてください。お久しぶりです」


 マリア殿下がきょとんとした顔をした。


「以前に、コダマ殿と会ったことがありましたか?」


「はい。私はキルンに近いテンペラ宮で勇者召喚に巻き込まれてこちらの世界にやって来た、収納士のショウタ・コダマです」


「あのコダマ殿ですか? コダマ殿はたしか、キルン迷宮で遭難そうなんしたと」


「はい、迷宮の罠で飛ばされて一時は迷子になったんですが、ここにいるエンダー子爵に助けられまして、なんとかキルン迷宮を脱出することができ、そのままキルンで冒険者になりました。それからいろいろありまして、ご縁があって、リリアナ殿下をお助けすることができ、子爵に叙爵じょしゃくされました」


「そうだったんですね。ご無事で何よりでした。重ねがさね、おびさせていただきますとともにリリアナのこと感謝させていただきます」


 リリアナ殿下が、われわれの会話についていけなくて困ったような顔をしている。


「リリアナ、後であなたにも詳しくお話しますが、このコダマ子爵殿、いえ、コダマ殿は、私たちが行った勇者召喚に巻き込まれて、間違って召喚された人だったの」


「そうだったんですか」


「もうそんなに気にしなくていいですよ。私はこちらの世界で、エンダー子爵たち仲間と結構楽しくやってますし、こうしてリリアナ殿下ともお話しできるくらいに親しくしていただいていますので」


「お姉さま、コダマ子爵さまもエンダー子爵さまも二人とも実はAランクの冒険者なんですよ」


「あれ、殿下にその話をしていましたっけ?」


「おじいさまに話していただきました」


「はあ、リーシュ宰相さいしょう閣下ですか?」


「はい。おじいさまはお二人のことをよほど信頼しているようでした」


「ハハハ。ありがとうございます」


 いろいろ仕事を丸投げしてきたからな。逆に頼りにされちゃったかな。



 四人で話していると、別の侍女の人がやって来て、マリア王女とリリアナ王女に何か告げている。


「国王陛下のあいさつがじきにあるそうです。私とリリアナはあちらに呼ばれていますので失礼します」


「それでは、ショウタさん、アスカさん、私も失礼しますね。ショウタさん今度は私をダンスに誘ってくださいね」


「失礼します」「失礼します」


 俺は、リリアナ殿下に知らぬ間にフラグを立てたのだろうか?


「アスカ、さっきの不審者ふしんしゃもいなくなったようだから、俺たちはそろそろ帰るか?」


 俺もダンスなんぞできはしないので早々に退散しよう。


「はい、マスター。こういった料理もいいものですね。マスター、目ぼしいものを収納してもらえませんか?」


「そりゃあ、まずいだろう」



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