世にも奇妙な想叶種

火ノ島_翔

世にも奇妙な想叶種

 ――――ミーンミーン


 セミの音が響く夏、最後の身内であった祖父が亡くなった。


 都会から車で数時間のそれなりの田舎町。一人の女性が古びた家屋を掃除していた。


「あっ……お祖父ちゃんこんな物残してたんだ」


 それは孫であり可愛い五歳ほどの少女が祖父母と両親に囲まれて笑顔でピースしている写真であった。この女性の名前は 朝比奈 明日香(あさひな あすか) 26歳。ここから車で数時間の場所に住んでいる。


 明日香は5歳の時に事故で両親をなくし、祖父母に育てられた。両親が亡くなったときは悲しくて死ぬほど泣いたが、優しい祖父母のおかげで曲がらずしっかりと育つことができた。


 大人になり独り立ちして数年、祖母が他界した。その時はすごく悲しかったが大人になったため我慢した。そしてそぼが他界して1年後のつい先日、祖父も追うように亡くなった。その時はもう、別れというものに慣れてしまっていたのだろうか悲しさではなく、胸に穴が空いたような虚しさを感じた。


 そして今、残されたたった一人の親族として祖父の家を掃除している。代々地元の領主の家系だったとかでとても大きな家ではあるが、古びていてカビの匂いがする。決して嫌いではない祖父母の家だが、最近の若者としてはもう少し花の香がするような住宅に住みたいところである。


 部屋の片付けをしている時、ふと祖父の遺影と目が合う。


「あ、あれ……」


 明日香は涙を流していた。別に悲しいとか寂しいとかではなく自然と流れていたそれを、彼女は冷静に、やっぱり死って慣れないよなと思いながら涙を拭くのであった。


 ――――――……ガタンッ……


 遠くでなにか落ちたような音がした。不思議に思い外の蔵に近づくと立て付けが悪かったのか微妙に開いていた。


 かなり古い蔵なため、明日香がこの蔵で遊んでいたときもよく自動で開いていたため不思議には思わなかった。音の正体が気になり蔵の中に入る。そこには昔遊んだままの蔵があった。昔より少しだけ埃っぽくなったかも知れない。


「あれっ?こんなところが剥がれてる」


 壁の一部が剥がれて中に大きな金属製の箱が見える。


 よく見てみるとソレは大きな金庫であった。お宝発見かと少しワクワクしながら壁を完全に剥がし、金庫の全容を見えるようにする。


 その金庫は全体に御札が貼ってあり、見るからに不気味な金庫であった。


 だが、明日香は知っていた祖父母は信心深いわけでもなくおばけや御札など一切信用しないこと。だからこの御札もきっと金庫の防犯対策の一つだと思い、特に気にせず取っ手を回す。


 どうせ鍵がかかっているだろうと思っていたそれはすんなりと開く。どうやら鍵の部分が腐食していたようで、閂の部分がボロボロであった。


 金庫の中にはいくつかのゴミのような空の木箱と、古い書物があり、その上に幾重にも丸められた紙が乗っていた。なにか気になったためその紙を開いてみると、中には不思議な種が一つ入っていた。


 何故かその種を見ていると胸がキュッとなり、そのまま掃除を取りやめ一旦家に帰りこの種を植えることにした。


 帰宅後、鉢植えに種を植えベランダにおいた。


 次の日の朝、既に目が出ていた。ソレはとても特徴的で、少し気味の悪さを感じる形状であった。


 そして一週間後。あっという間に成長し、花を咲かせた。その花は見ていると少し気持ち悪く、香りもどこかで嗅いだことがあるような、懐かしくもキツイ、少し嫌な匂いがした。


 数日後、通勤中の花壇や街路樹に何やら見たことがあるような植物の芽を発見する。


 さらに数日後、仲の良い同僚が最近コレにハマってるんだーと自慢気に見せてきたのは、鉢植えであり、そこには謎の種から出た芽と同じものが出ていた。


 さらに数日後、仕事に行こうと家を出て、隣人にあったので挨拶をすると、その隣人の頭から例の芽が出ていた。


 流石にコレはなにかおかしいと思いながらも、混乱していたこともあり、目を伏せたまま仕事場へと向かう。


 下を向きながら何が起こっているのか考え悩みながら駅の改札を抜け、電車に乗る。


「うっ……(何この匂いっ!?)」


 電車の中はむせ返るような酸っぱい、独特な匂いがした。あの花と同じ匂いである。顔を上げると電車に乗っていた10人ほどの客すべての頭から不気味な花が咲いている。


「ひぃっ!!」


 その声に反応して下を向いてスマホや新聞を見ていた乗客が明日香を見る。その客の顔は何故か全員……


 亡くなった祖父の顔に似ていた。


 明日香は怖くなり、次の駅で降り、タクシーを呼びすぐに家に帰る。もちろん運転手の頭からも花が咲いており、顔は祖父に似ていた。よく思い出してみたらあの花の不思議な匂いは祖父の匂いであった。


 自宅にたどり着いた明日香はすぐに鉢植えにから花を引き抜きゴミ箱に捨てる。


 あまりの異常事態に吐き気をもよおし洗面台で嘔吐する。


 目を上げて鏡を見ると自分の頭からも不気味な芽が生えていた。


 パニックになり髪をかきむしりながら頭頂部の芽を引きちぎると


「ア”ッ……」


 明日香は瞬間的に、脳に焼けた棒を突っ込まれたような痛みを感じ意識を失った。



 気がつくと時計の針は深夜2時を指している。


 15、6時間ほど意識を失っていたようである。


 少し落ち着いて頭を見ると頭には芽が出ていなかった、だが足元にはちぎられたと思われる血塗れの芽が落ちていた。少し時間が空き冷静になったためなぜこうなったかを考える。


 原因は確実に御札の金庫の種だろう。


 あれは何らかの本物の呪われたナニカだったのだろうと考察した。


 主人公は同時に古い書物が種の下にあったことを思い出す。


 明日香は即座に車の鍵を取り、普段あまり乗らない自家用車で祖父母の家へと急行した。


 時間が夜中だったこともあり道中誰に会うこともなく祖父母の実家まで2時間ほどで到着する。


 到着するなり直ぐに種の入っていた金庫にへと向かい、一冊の本を手に取る。


 表紙には鶏と蛇と豚がそれぞれの尾を齧って輪を作る絵が墨で書かれていた。


 それは古い言葉で更に達筆で書かれていたため全部は読めなかったが、大学で古語の授業を受けていたためなんとか内容を理解できた。まとめると、あの種は『想叶種』と呼ばれるもので、強い思いを持った状態で大切に育てると願いが叶うというものであった。


 主人公はふと思い出すと、やはり心の奥底で寂しさを感じており、祖父にもう一度会いたい、最後の身内を失いたくないという思いを引きずったまま育てていたことに気がつく。


 読みすすめると、様々な呼び名がある事もわかった。


『とりびしゃノ種』


『三毒ノ種』


『拡散呪種』


 とも呼ばれ、本来素晴らしい種だが、使い方を誤り負の感情が与えられると災害のような自体になるという。それがこの種が封印された理由であった、数百年前にもこの種の災害が起き、人間に影響するものはその頭に何故か寄生し、存在を願い道理に作り変えていく。その時は小さな村一つを村人ごと焼き払い鎮圧したという。


 領主はこの種を使い自身の立場を確立させていたため情報を徹底して封鎖した。その時の領主の子孫が主人公であり、封印されていた種も領主があまりの危険性から、自ら封印した最後の種であった。


 最後に書いてあった文字は読みやすかったが恐ろしい内容であった。


 とりびしゃの種 解き放つことなかれ

 貪瞋痴(とんじんち)により災禍来たる

 水足大地に染み入るように、種は芽吹き、根を伸ばす

 幾重にも分裂し、這い寄り、細い指を伸ばすようにどこまでも侵食す

 ヒタリヒタリ 貪欲持つことなかれ

 忘るるな、忘るるな


 もしも一族の危機が訪れた時この種を使え。ただし絶対に人に作用しないような願いを持ち育てるように。我らが一族に永久の栄光あれ。


 気がつくと外はもう明るくなっていた。


 外から声が聞こえる、よく知っている近所のおじさんとおばさんの声だ


「あれ、あすかチャン?こんな朝早くから勤勉だね」


「うんうんいい顔になったねぇ」


 見知った声に少し安堵した明日香は顔を上げる。と同時に驚愕し腰を抜かしその場に座り込んでしまう。


 そこにはおじさんとおばさんの服を着た……祖父が二人いた。


 そして驚いていると後ろから続々と近所の人が集まる。


「あんれまぁどうしたん?」


「わしらがイケメンすぎて腰抜かしたんと違うか」


「つかれとるんかぁ?」


 十数人集まった近所の人はみな祖父の顔をしており、頭からはあの花を咲かせていた。


 そして近所の人たちが声をかける。


「アンタが願ったことじゃろ」


「キレイに咲けたもんじゃ」


「安心しぃな」


 おばさん声の祖父はスマホで主人公を撮影するとおもむろにその画面を見せる。


「アスちゃんも一緒じゃから寂しくないのぉよ」


 その画面には腰を抜かし尻餅をついた、ワタシの服を着た祖父がいた。頭からは、あの花を生やし、驚愕の顔をしていた。


 その瞬間主人公の意識はスッキリとし、全てが普通となった。

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