僕の太陽。

碧木 蓮

僕の太陽。

「ミヒロ、あそぼ」

「うん」


 僕はミヒロ、小学一年生。

 隣に住んでいる女の子、ヒロミは赤ちゃんの頃からの仲で幼馴染みなんだ。

 そんな僕達のお話。


「今日は何して遊ぶの?」

「うんと、チロとお散歩がいい」

「わかった。お散歩のヒモ、持ってくるね」

「うん!」


 僕の家では、ペットを飼ってもらえない。

 何度も頼んだけど、ママが苦手なんだって。

 でも、ヒロミの家の犬のチロがいるから寂しくないんだ。

 こうしていつも遊びにくれば会えるんだから。


「ミヒロ、お待たせ。行こう」

「うん。チロ、お散歩行こう」

「ワン」


 こんなに仲良しの友達はいない。

 明るくて元気なヒロミ、優しいチロ、ずっとずーっと仲良しでいたいな。


***


「光弘君、ちょっといいかな?」

「なに?」

「私と付き合ってもらえませんか?」

「俺、好きな人いるから」

「まだ彼女じゃないんですよね。それなら私にも可能性はありますよね?」

「いや、無いよ。俺は一途なんだ」

「そうですか……。でも、私は諦めませんから」


 体育館裏、サボりで休んでいたらこんな目に合ってしまった。

 せっかくいい場所を見付けたと思っていたのに、たった二日で知られしまったとは。


「光弘、せっかく告白してくれたのに勿体無いよ」

「そんな事より、ここ洋美が隠れ場所に良いって言ったよな?」

「う、うん。そうだったかな……?」

「そうだよ。すぐ居場所がバレたんだけど」

「あ、あれぇ?おかしいなぁ」

「誤魔化すな。せっかくの休息を奪われたんだぞ。洋美、責任取れ」

「知ーらない。じゃ、教室戻るから」

「おいっ!」


 全く、洋美はいつになったら俺の気持ちに気付くのか。

 はぁ、どうすれば伝わるんだか……。


「洋美さん、俺と付き合ってくれないか?」

「ごめんね、私……彼氏いるの」

「嘘だろ。フリーだって聞いてたのに」

「アハハ。誰から聞いたんだか知らないけれど、告白してくれてありがとう。そして、ごめんなさい」

「ショックだったけどいいよ。俺が嫌いだからとか言われるより百倍マシださらさ」

「良かった」


 洋美に彼氏がいる?

 そんなの俺は聞いてないぞ。


 美術教室の前を通りかかった時、偶然告白がきこえてしまった。

 ここはあまり人気がないから、呼び出すのには丁度良い所だ。

 でも、まさか洋美が告白されているなんて思ってもいなかった。


 告白を断られて出てきた男子生徒は、A組のスポーツ馬鹿だ。

 頭脳系の俺とは正反対の男。

 そんな男が洋美のタイプではなかったのか?

 ……確か、色黒で筋肉質のがっちり系とか聞いた気がするが。


「……そこで何やってるの?」

「ひ、洋美!?」


 まずい、まさか立ち聞きしていたなんて言えないし。

 通りかかったなんて下手な嘘はつけないし。


「休憩場所探してたんでしょ?空いたから使えるよ」

「あぁ、そうなんだ。良くわかったな」

「長い付き合いだもん」

「だよな」

「じゃ、ごゆっくり」


「……洋美、今からちょっと時間良い?」

「良いけど」

「じゃ、中で話そう」

「わかった」


 俺は洋美を呼び止めた理由がわからなかった。

 いや、本当は知っている。

 洋美の側に俺の知らない男がいると知って、腹を立てているんだ。

 


「洋美、さっき……偶然聞こえたんだけど、彼氏がいるって本当か?」

「うん、そうだけど」

「……そいつ誰だ?俺の知ってる奴か?」

「うん」


 俺の知ってる奴?

 クラスの男か、近所の大学生とか……。

 俺が思い当たる男達を挙げたが、洋美は違うと言った。


「じゃ、誰だよ」



「ミヒロだよ」


「……ミヒロ?」


 それって、俺の小さい頃の呼び名だよな。

 でも、俺は洋美と付き合ってはいないぞ。


「何、もしかして覚えてないの?」

「何を?」


「……最低。自分で告白してきたんでしょ」

「いつだよ」

「幼稚園を卒園した時、小学生になっても大人になっても、ずっとずーっとヒロミの側にいるからねって」

「俺が?」

「うん」


 そんなの言った覚えないけど。

 本当に俺が言ったのか?



「私、ミヒロからいつも元気もらってた。拡散する種のように周囲の人も元気にしていたんだよ。まぁ、今はサボり癖がついちゃってさ、私だけの特権になってるけど。でも、そのもらった種は花になろうと頑張ってるんだ」


「種って、ヒロミの事?」


「まぁね。側にいるには勉強頑張らなくちゃだから。大学も同じところに行きたいし」



 ……思い出した。


 ヒロミの家が引っ越しするかもしれないって聞いて、慌てて告白したんだ。

 小さい頃の俺、かなり勇気あったな。


「ヒロミ、俺も元気もらってた。太陽みたいに明るくて元気でさ、目が離せなくて……」

「ミヒロ……ありがとう」



「俺の太陽、これからも宜しくな」

「私もよろしくね」

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