花咲かインシデント

松本昆布

第52話くらい

 昔々、花さか爺さんと呼ばれた老人がいた。

 あれやこれやして手に入れた灰を枯れ木にまいたら、立ち所に花が咲き、通りがかった大名が勝手に喜んで富を授けたという、日頃の行いの良さが過剰反映された老人である。

 その後花さか爺は幸せに、慎ましく暮らしていたが――

 突如としてその幸せは崩れ去った。


 *


「時空警察だ! 協力を要請する!」

「な、何じゃあんたらは!」


 花さか爺の家に、突如として黒スーツの集団が上がり込んだ。驚き腰を抜かしかける爺に、先頭に立った男が頭を下げる。


「花咲太助どのとお見受けする」

「そ、そうじゃけど」

「私たちは未来からやってきた者だ。この時代に重大な時空インシデントが見つかったので調査と解決にきた。解決後、太助どのの記憶は適度に消させていただくので承知めされよ」

「くいんしー……は?」


 多分記憶を消すまでもなく何も理解できないまま終わりますよ、と言わんばかりの爺の様子に、リーダー格の男が頷く。


「太助どの、先日、灰をまいて花を咲かせたな?」

「あ、ああ、なんだか不思議なことが多くてのう最近」

「端的に言えば、アレはこの時代に存在しないはずの代物なのだ」


 リーダーが眼鏡をクイッとやって、太助の呆然ぶりはなお増した。


「あれは灰などではない。未来の世界で作られた、未知の植物の種子だ」

「は、灰じゃない? いや、あれは間違いなく……」


 灰ではないという部分だけ理解できたのか、太助は口を挟むが、リーダーは首を横に振る。


「すり替えられたのだ、あれは灰ではなかったのだ。灰と見紛うほど微細で、まいた直後に花を付けるほど成長が早く、しかも『他の植物に擬態する』、誰かの手で造られた謎の種の山だ」


 リーダーは一層重い声で言う。

 あれは、枯れた桜が蘇り、花を付けたのではない。

 ――桜の花に擬態した『別の植物』が、枯れ木の枝に寄生し、根を張って発芽したに過ぎないのだ!


「……はあ」


 太助は理解に勤しむことを止めた。


 ――このインシデントが発生した直後、未来の世界は、大量の植物に覆われた。歴史が改変され、この植物が世を覆いつくしたのだ。瞬く間に実を付け、種を拡散させ、根付いた先でまた新たな実が付く。機械もビルも草花に浸食され、機能不全を起こしている。事態は急を要す!


「なんかすごそう」


 太助のリアクションを受け、リーダーは再度眼鏡をクイッとやった。

 位置は特に変わっていないが。


「太助どの。奥方は今、町に出かけているものと見受けたが……近頃太助どのや奥方に接触してきた、怪しい者はいなかったか? その者がまず怪しい」


 とりあえず言われた言葉をそのまま飲み込んだ太助は、おずおずとある方向へ指差しをした。


「最近、隣のご夫婦が、わしらに色々楯突いてくるんじゃ……生意気に。こないだ、わしらの飼っていた犬のタマを殺しおった。頭かち割ってタマの後を追わせてやるか、悩んだものよ」


 急に怖くなった太助を気にも留めず、スーツ集団は指さされた方向へわっと駆けだしていった。


「生かして連れてこい! まだこの件との関連は分からない、慎重に行け!」


 どたどたと部下たちが家を出て行って、数秒後――


 突如として、轟音が――この時代に到底似つかわしくない、ダイナマイトのような音が響いた。


「どうした、お前達――ッ!?」


 太助はリーダーの後を無意識についていき、外の惨状を見て愕然とした。

 先ほどまで徒競走よろしく元気に走っていた黒服連中が、皆血まみれで地面に倒れ伏している。まだ息はあるようで、呻き声が各所から聞こえるが――それより目を引いたのは、その先にいた別の老人の姿だった。


「あーあ、折角バカジジイの物真似も慣れてきたっつうのに……バレたなら仕方がねえ。かかってこいよ、甘ったれポリス共」


 隣家の住人、だと太助が思っていた老人が、大量の銃火器を背負ってそこに仁王立ちしていた。銃火器の節々から煙が漏れ出て、風になびく。


「フン……貴様、おそらく首謀者ではあるまい? こんな手の込んだことをするのは、恐らく【あいつ】くらいのものだろうし、仮にそうであるとしたらば、あの男がこんなところに姿は現すまい」

「気づいたってもう手遅れさ。あの方は、もう準備を終えられた……ここにいる俺とて、あの方に蒔かれた種の一つに過ぎねえ。もう各時代での『仕込み』は終わってんだよ」

「ならそれぞれの時代で食い止めるまでだ。そのためにも、お前なんぞに時間は使っていられない」


 リーダーが眼鏡を少し深めにクイッとやると、それが合図とばかり、どこからともなく巨大な刀剣が降ってきた。リーダーはその剣を握って、居合いの構えをとる。

 なんだか知らんけど、家の中で間違って深めにクイッされなくてよかったなあ、と太助は思った。


「剣なんか使うやつ、未来人で初めて見たぜ! お前、案外この時代の住民だったりしてな!?」

「戯言を聞いている暇はない。いくぞ」

「こいよ、侍野郎!」


 その叫びとほぼ同時――太助を放っといて、二人は動き出す。




《来週に続く》


 *




「読んだか、今週の『時空剣客シード』」

「もう作者も収拾つかなくなってるだろ、全く意味が分からん」

「広げすぎたよな、話を」

「思いついたアイデアをぶちこんで、広げて……やりゃいいってもんじゃねえな」

「案の定、ネットで拡散されてアンチに叩かれてる」

「ここまでクソだとな、いい種だよな、叩きたい奴にとっちゃ……」

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