超弩級アニメ熟女戦隊コレステローラーズ
乱輪転凛凛
第1話
「これで完成だ……」
監督は編集作業を終えて一人コーヒーを飲みながら呟いた。このアニメ映画は日本のアニメ史を塗り替えるものになるだろう。革命的なものを作った、そう考えた。
誰も思いつかないようなプロット。そしてどんでん返し。魅力的なキャラクター。そしてそれを活かす声優たち。これが受けなかったらもはや監督として筆を折るしかない。
いや、このアニメーションを受け入れられなかったら日本のアニメ業界は本気で終わっているということになる。本気でそう思った。
力作だった。
人生をかけるほどの。
題名は『熟女戦隊コレステローラーズ』この奇抜なタイトルで観客はメロメロだろう。
今日は久しぶりに家に帰ってゆっくり眠れる。そう思った。
にゃーーん
一匹の猫が監督の膝の上に乗ってきた。喉をゴロゴロならす。猫のタマだ。バイトの子が拾ってきた野良猫だった。すっかりこのスタジオに居付いてしまった。
「ありがとう。お前のおかげだよ」監督はそう言ってタマを撫でた。本当にこの子は頑張ってくれたと思う。スケジュールが厳しくなったときこの子がスタッフの心をどれだけ癒やしてくれただろうか。その働きは絶大だった。
スタッフの一人から電話がかかってきた。逃げるように膝から離れるタマ。電話に出るとスタッフが焦っているように感じた。
「監督! 今大丈夫ですか?」
「おう大丈夫だ」
「今から言うことを驚かずに聞いてくださいね!」
「おう。なんだびっくりさせるつもりか?」
「今度発表される熟女戦隊コレステローラーズのプロットがネットで拡散されています!」
「お、そうか」
「監督? 大丈夫ですか?」
「大丈夫だ」
「今度発表される映画の脚本のプロットがネットで拡散されてだれでも見れるようになってるんですよ!」
「なにぃーーー! お前なにを言ってるんだ! なぜそうなった!」
「僕に怒ってもしょうがないでしょ。なぜそうなったのかなんて分かりませんよ。データ管理が甘かったんでしょ。自分でTwitterを見て確認してください」
監督は言われるがままにTwitterを確認した。
Twitterには炎上したように熟女戦隊コレステローラーズのネタバレが拡散しまくっていた。
ヤバい……公開まで時間がない。
監督は色々考えた。一番考えられるのはスタッフによる情報流出だ。飲み屋のお姉ちゃんを口説くときにポロッと言ってしまったそんな気がする。はっきり言って損害賠償ものだ。
監督は会社のLINEグループにこうメッセージを送った。
明日全員会社に出社してください。緊急事態が起きました。今度出る映画のプロットが流出しました。詳しい説明は会社でします。明日休みの人も必ず出社してください。休日出勤手当が出ます。
呆然としたまま、椅子に座っていた。スポンサーになんと言い訳しようか、協賛会社に……ありとあらゆる人間がこの映画に関わっている。それらの人間に対してどう謝罪すればいいのか。
まずは原因究明と対策だな。これを同時に進めていかないといけない。なにからなにまで……まるでジェットコースターだ。次々に問題が現れる。とにかく今日は家に帰ろう。そう思って監督はスタジオをあとにした。
次の日
スタッフを全員集めて会議を行った。
「まずは皆さん現状把握をしてください。ネットで拡散しているのは作品のプロットです。最後のオチまで拡散されています」
「どうか皆さんの知恵を借りたい! どんな意見でも良いので出してください!」
様々な意見が出た。
「まずは情報源の特定ですね。だれがどうやって流出させたのか特定しないと更に流出される可能性があります」
「これ以上に情報を流出させないような工夫も必要なのではないでしょうか。従業員のネットを禁止した方が良いのでは?」
「ネットを禁止にしたら更に情報が流出した時に気づけなくなる。それにネット禁止にしても情報流出の根本的な解決になりません!」
「否定するだけでなく、改善提案をお願いします! 否定するだけだったら会議が混乱するだけですよ!」
会議は混乱した。監督は数時間に渡って会議を聞いていた。そして聞いた。
「で、なにか決まったか!」
「ですからまずはプロット流出についての説明を公式に発表する必要がありますよ!」
「公式に発表したら、それをネタバレを認めることになってしまう! ここは一旦公開を延期して再度作り直すべきです」
「作り直すったって予算はどうするんだ! お前が出すのか?」
「否定しかしないなお前は! お前がいると場が混乱する。出ていけ!」
「なに! 俺もここのスタッフだ! 出て行かせる権限は誰にもない!」
掴み合いの喧嘩になりそうだったところ他の人間が止めた。
はぁと監督はため息をついた。すなわち、なにも決まっていないと言うことか。
「もう終わりだ」監督は頭を抱えた。
「監督! あのぉ……ここに出席していないスタッフがいます」
「ん? 呼んでも来ないのか?」
「はい、何度連絡しても向こうは怒鳴るだけで、今日は休日だから二度とかけてくるな! との一点張りで。挙げ句の果には監督を連れてこいと怒鳴っています」
「無理矢理でも連れてこい」
「ですが、我々では難しく……」
「分かったよ! 俺が行くよ! ここに居てもらちがあかないし。そいつがひょっとしたら流出の件でなにか知ってるかもしれないからな。誰か車を出してくれ!」
「はい!」
車の中で監督が運転手に聞いていた。
「会社に来ないスタッフはどんなやつなんだ」
「はぁ、トラブルメーカーみたいな社員で仕事をボイコットしたり、他のアニメーターの仕事をディスりまくって鬱で辞めさせたり、集中出来ないからって会社内でタバコを吸い出したり……」
「とんでもない奴だな」
「はぁ、アニメーターとしての能力が優秀なのでスタッフとして置いてますが、他のスタッフからは煙たがられてます」
「ふぅん」
「着きました」
着くとそこにはオンボロのアパートがあった。蹴れば崩れそうな建物だった。なんというか幽霊屋敷みたいな……
「こんなとこに人が住んでるなんてな……」
監督は階段を上がり扉をノックした
「なんですか? 今忙しいんですけど……あ、監督じゃないッスかなにしに来たんですか」
「お前が監督を呼べと言ってたんでな。だから俺が来た次第だ。なんで会社に出社しない」
「なんでって俺子供いるんすよ。まだ小さな赤ちゃん。ほっといてどっか行けるわけないじゃないですか」
「お前、会社が今大変な状況になっているのを知らんのか」
「知ってますよ。プロットのネタバレでしょ。そりゃあんだけ情報管理ガバガバだったら流出しますって。逆に本編のデータ流出しないだけ良かったじゃないですか。会社の不手際でしょ。で、なんで俺らが子供ほったらかして会社に行かないといけないんスか」
「だって外部メモリも普通に刺してる人も居たし、セキュリティだってガバガバでしょ。誰だってIDなしに会社に入れたり、飲み屋で普通にストーリーラインについて議論してるバカとかもいますから」
「そうだったのか……」
思ってた以上にガバガバセキュリティだったようだ。
「お前が情報を流出させた訳じゃないよな?」
「は? なんで俺がそんなことするわけないじゃないですか。逆にそんな志の低い奴らを怒ってたんですよ」
「頼む! 俺に力を貸してくれ!」監督は土下座した。
「色々みんなで話し合ったが全くまとまらない。もうどうすればいいか分からん」
「良いっすよ。じゃあ俺の給料を10倍にして役員にしてもらっても良いですか?」
「それは出来ん。帰る」
監督はその日夜逃げをした。
映画『熟女戦隊コレステローラーズ』はネタバレ通り公開され散々な興行収入を記録した。会社は潰れ作品は伝説の駄作として逆に名を馳せた。
終わり
超弩級アニメ熟女戦隊コレステローラーズ 乱輪転凛凛 @ranrintenrinrin10
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます