夢回廊

もくはずし

夢回廊

 これは心霊現象と呼べるものなのか、それとも単に俺が病気なだけなのかわからない。

 けれども今の俺には外界との繋がりがネットくらいでしか持てず、文章で自分の置かれている状況を表現することくらいしかできない。

 幾度となく訪れる夜に連続性を見出すためにも、目覚める度に少しずつ更新していこうと思う。





 俺は夢に囚われることがある。

 何も将来なりたいものがあるとか、そういうファンシーな悩みじゃない。文字通りの意味だ。

一度眠ってしまうと、起きれど起きれど、ずっと夢なんだ。何度起きれば現実に帰ってこれるのか解らない。なんなら、書いている今が夢かどうかなんて判ったものじゃない。朝が来るより他に、現実の証左は存在しない。

 一度囚われてから7回前後、朝を経験しているが、日が沈むたびに夢に目覚める頻度は上がっている気がする。俺の意識下では既に、日中よりも夜のほうが何倍も体感時間が長い。 しかも、眠っている時間と起きている時間を合わてどれくらい経っているか判らない。起きる度に時計はあらぬ方向に針を示している為だ。

 一度に起きていられる時間(夢見ている時間?)の一回一回も段々短くなって、回数だけが無駄に多くなってきている。


 起きたときに、オンライン上に保存されていくこのページを確認する。書いていた文章が消えていたらそれは夢なのだろう。それくらいしか、夜中に現実と夢の判断をつけることはできない。もしかしたら、その判断も思い違いかもしれない。






 これまでの文章だけでは、どういうことだか解らないだろう。

 事の発端はいつだったか覚えていない。ある夜、悪夢にうなされて起きたんだ。ごく普通の悪夢だ。その夢の内容はどうでもいい。これから起こることの方がよっぽど恐ろしいのだから。

 うなされて起きると、当然そこには俺の寝室があるわけだ。

 夢の中特有の、働かない脳をフル回転させて、なんとか自分の意志で動き回る。見渡すと、6畳ほどのフローリング、小さな本棚と箪笥。これらは一見、なんの変哲もないように見える。けれども、起き上がると何か異変に気づく。


 それは地を這う鯰の群れだったり、謎に点灯する蛍光灯、赤く染まる白い壁紙だ。

 明かりをつけようとも真っ暗な部屋で、物の輪郭だけがはっきり見える。

 現実にあるかのような物体が、似て非なる形で存在している。

 そこに気がつけばこっちのものだ。

 これは現実じゃあない、ということが手に入る。






 夢だと解っても、出来ることは少ない。

 俺は大抵、数少ない選択肢のうちのひとつである、家の中の探索を行う。

 すると、先述の有り得ないことが次々と出てきたりする。

 いつの夢も共通の、有り得ないこと、例えば窓の外はいつでも真っ暗であること、見下ろすと在るはずの隣家の照明や街頭の明かりが一切見えないこと。家のなかで言うと、電気を着けていないのにも関わらず、飾り気の無い部屋全体が、まるで自ら淡い光を放っているかのようで、微かに視認することができる。






 この夢から覚めるには、いくつかのルートが選べる、と言うのが最近の試行錯誤だ。覚める、と言っても夢から覚めた先が現実と言う保証は無いのだが。

 まず第一に、余計なことをせずにベッドに潜り込んでしまう方法だ。これはずっと前から行っている対処法だ。怖いことは苦手で、向き合いたくない自分にとっては最高の選択肢なのだから。

 このルートの良いところは、疲れないことだ。家のなかを走り回ったり、過度な恐怖心によるストレスを抱え込まなくて良い。

 ソロリソロリと歩き回る気配や、静かに開閉するドア、じっとこちらを覗く視線に耐えることができれば、次の目覚めに移行できる。






 この視線や、静かに開閉するドアなんかの正体は未だにわかっていない。ただ、その回答がたった一つではないことだけはわかる。気配の大きさや場所は夢によって異なるし、こちらへの興味の示し方も違う。

 布団に籠っている間は手を出してこないという不文律だけが一致するようで、眠りこそが、彼らにとっての正義なのかもしれない。

 勿論、眠りは俺にとっての防人に過ぎない。必要が無いのだ。

 我々だけがそれを欲するが、彼には毒にしかならない。

 夢の中の眠りは更なる眠りを呼び起こし、大挙する。

 敵を見紛い無視すれば、たちまち餌食の曳船だ。

 囚われ喰われの夢ならば、いずれ戻りは出来ぬ夜。






 第二のルートだが、この前の文章を書いたときに、外へ飛び出してみる選択肢を行ってみた。前、と言っても夢の中で書いた文章は残っていないので、読んでいる方にはわからないだろう。今更同じことを書く気にもならない。兎に角、前の夢だ。


 深淵に続くかのような闇が窓の外には広がっている。ホラーゲームと呼ばれるような作品にはまっていた俺は当初、外には出ることのできないものと思っていた。

 しかし、何をしても脱出することのできないクローズドな世界設定のゲームとは違い、簡単に窓は割れるし、ドアも開く。目下闇しか広がっていない外の世界は、手を伸ばしても足を突き出しても感触がないので、思い切って足を踏み出すことにした。

 踏み出した右足に体重を乗せてみると、そこにあるはずの地面は永遠に現れず、どこまでも落ちていった。落ちていく恐怖がまったく無いまま、気が付くと俺は目を覚ましていた。

 






 要するに、夢で何かから落ちた時に人は夢から目覚める。その規則性は、俺がいるこの夢の中にも適応されるようだ。あれから幾度か、下界へダークダイビングを試してみたが、結局夢から夢へ梯子するだけだった。

 この方法では進展が無いようだ。

 あなたも了解できるだろう。

 深淵とは、境界を終了するプロトコル。

 つまりは夜の道、泥の鯰が先決だ。 

 





 起きていても眠気がひどい。正直、この怪文書が最期まで出来上がるか不安だ。一度の目覚めで長いこと書けなくなってきているが、書き連ねていくしかない。


 第三の選択肢は、もうほとんど使うことがないが、当初はこればかりをやっていた。第一、第二の選択肢が見つかるまではこれしか方法が無かったからだ。

 

 夢から覚め、家の中を散策する。

 俺の借り部屋にはいくらか同居人がいるのだが、彼らは現実と同じように眠っている。

 夢と分かったこの空間で、心細いからと言って彼らに助けを求めるのは誤りだ。起こそうとしても眠ったまま、寝ぼけ眼で「うるさい」と言われて追い返されるくらいなら幸運だ。

 





 彼らは変貌して襲ってくることが大抵だ。その瞬間のことは憶えていないが、輪郭はそのまま、黒い影となってこちらに向かってくる。

 やばい、と思って逃げてみても家の中だ。逃げる場所はすぐに行き止まりになる。そのあとは、飛び降りルートと同じく目を覚ますだけだ。

 最近、俺はこのルートに秘密が眠ってるのではないかと思っている。

 あなたも同じ状況ならそう思うだろう。他にヒントがないのだから。







 眠っている彼ら、こちらから声をかけない限り目を覚まさないので、観察してみる。

 または、真正面から戦ってみる。

 最近はこれが樂しい。

 ふつうは脈絡なく地に伏せて許しを請うことになる。

 如何せん相手も心持としては快楽に目覚めたであろう。

 次の夢に覚めることが疲労から快感に変わってきたようだ。






 とうとう解決したので、ことのテンマツが掻けるようになった。

 彼らは俺じゃなかった、ということを先に記しておかなかったのは重大なミスかもしれない。

 しかし、同居人がいるのは、なにも夢ばかりじゃあない。

 本当は、現実にもいたのかもしれ綯い。

 新しく目覚める同居人の影法師に纏っている思考にリンクする。

 時には俺がそいつになってもいい。

 今や俺はこの場所にずっといてもいいし、外に出て隕句ョ医k縺ョ繧良い。

 自由になった喒にとって、脱出しなければならない荳也阜だったのだから、もうその用は済んだのだ。

 次の雋エ譁ケ繧呈・ス縺励∩縺ォ縺励※縺?k。






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