第1話 再開
4月。今日から新学期。
「おはよう」
リビングに行っても、誰もいない。
母は今日も恋人の家に泊まっているのだろう。
テレビをつけて、最近人気の俳優がzipポーズをするのを横目で見ながらパンをかじった。別の番組では、大物有名人夫婦の不倫騒動。
「ばっかみたい。」小声でそう呟いて、時計を見ると8時。
「やっば。電車に遅れる。」慌てて支度をして、家を出た。
「嘘でしょ...」
駅まで一生懸命走ったが、電車の扉は私の目の前で閉まった。時刻表を見ると次の電車まであと30分もある。のどが渇いたのでお茶を買おうと自動販売機に向かった。10円玉を探していると、手が滑り、財布が落ちた。今日は運がついていない。
散らばる小銭を拾っていると「これ...」と話しかけられた。慌てて見上げると、一人の男の人が手を差し伸べていた。手には私のものであろう小銭がのっている。
「あ、すみません。ありがとうございます。」お礼を言いながら彼をよく見ると制服を着ている。大人かと思えば、高校生だった。大人っぽいなあと考えていると、「あの...もしかして鈴木サキさんですか?」と尋ねて来た。え、どうして私の名前...ともう一度彼の顔を見て私は驚いた。私の初恋の相手。動揺しすぎて、言葉に詰まっていると、「やっぱ何でもないです。忘れてください。」と彼は去ってしまった。
学校についたのはチャイムの5分前だった。
「おはよーサキ。また一緒のクラスだよ」
そう話しかけてきたのは1番仲のいい友達のアイリ。
「おはよ。まじで?よかった。」
「始業式始まるよ。早くかばん置いてきな。」
そう言われて、慌ててかばんを置きに行き、体育館へ向かった。
始業式が終わり、教室へ帰ると、アイリが買い物へ行かないかと誘ってきた。服とコスメを買いたいらしい。ちょうど私も今朝の駅でのことをアイリに話したいと思っていたので、
「いいよ。マックで昼ご飯も食べよ」と返事をした。
マックでポテトを口に運びながら今朝のことをアイリに話していると、隣の席に男子4人組が現れた。視線を感じ、横を見るとそこには朝あったばかりの彼が立っていた。私は思わず手に持っていたポテトを落としそうになり、その様子を見たアイリは何となく感ずいたようでニヤニヤしている。軽くおじぎをしながら私は残りのポテトをかばんに入れ、アイリにその場を早く去るように促した。
こんな...1日に2回も会うなんて...信じられない...
アイリと買い物をしている間も、家に帰っても、ベッドに入っても、私のドキドキはおさまらなかった。
これは恋?いや、違う。あんなに仲が良かった父と母もバラバラになってしまった。「私は一生この人を愛する」なんてドラマでは言うけどそんなことはあり得ない。父が家を出たのは私が6歳の時だった。優しくて明るい父のことが大好きだったのに。父が家を出た理由は教えてもらえなかった。その代わりに、母は父の写真を破り捨てて「あんな父親のことは忘れなさい」と言った。数日後、父が綺麗な女の人と歩いているのを見かけた。母にもすぐに新しい恋人ができた。それ以来、私は恋や愛など信じられない。
初恋の彼だって、私の前から突然消えた。なのに、今さら...どうして...
これが運命なのかも、なんて少女漫画のヒロインのような考えが頭をよぎったけど、ばかばかしくて鼻で笑ってしまった。
次の日、いつものように駅へ行くと彼が立っていた。花びらが散る、満開の桜の木の下で。
桜が散る頃に 佐藤シュウ @shuusato7
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。桜が散る頃にの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます