第2話
「どうやら、この先嵐で、これ以上進めないらしい。」
「えっ」
(もしかして、帰れない?)
私はすぐに侍女長様に連絡魔法をとった。
『もし?ソニアですか?』
「はい。侍女長様実は――」
私は嵐のおかげでリオンに着けないこと。そして、この嵐がただの嵐ではないことを話した。
『――そうですか。気をつけて帰ってきてくださいね。』
「はい。」
とは言ったものの、だんだんと雲行きが怪しくなってきた。
雲は速く空に流れているのに、風が凪いでいる。私は、海に出るのが人生初だったゆえに、海の上での嵐も何もわからず、戸惑いを隠せないが、必ず帰ると約束したので簡単に海で失態を侵されないというプライドがあった。
しばらく時間がたつと、高波が押し寄せ、風も先ほどとは打って変わって強くなっている。
「嵐だー!みんな!中に入れ!!!」
ぐらんぐらんと波が強く船を襲う。中に入ろうにも、船のわきや手すりにつかまりながらゆっくりとしか進めない。しかし、幸いにも、私は幼いころから魔法の才があり、今はまだ簡単な魔法しか使えないが、身体強化の魔法を使って、どうにか周りの人を助けながら中のほうに向かった。すると、後ろのほうで一人の子どもが転び、さらに強く船が揺れたことにより、船の甲板に打ち付けられるように落ちた。
「リウロ!!!」
女性の声が響く。
私は無意識のうちに子どものほうに駆け出していた。
バタン!!!
「っ!!!大丈夫?!君!」
見ると男の子は意識はあるが、どうやら体の節々が折れている。
「た、たす…け、て。」
「今助けるから!」
私は男の子をやさしく抱きかかえた。
束の間、波が甲板に乗り出し、私たちを襲う。
「んっ!!――ぱ!!!」
嵐もどんどんひどくなっていき、私の体力も夜であるためか、尽きてきた。
(この子をどうやって救おうか…)
考えている暇なんてないが、どうしても考えてしまう。
すると危機的状況の中、希望の光がやってきた。
「姉ちゃん!大丈夫か?!!」
「おじさん!」
先ほど、船の状況を教えてくれたおじさんが助けに来てくれた。
「待ってな!今そっちへ行く!」
「まって!おじさんそこで待ってて!この子そっちに渡すから受け止めて!」
「でも姉ちゃん」
「お願い!」
おじさんはほんの少し間を取り、うなずく。
私はそれを見て少しほほ笑んだ。
私には、生まれつき特殊能力が備わっていた。それは念力の力。ものを自由自在に操り、つぶしたり浮かばせたりすることができるが、あまり人前に見せたり、危険だから使ってこなかったせいか、力の加減がわからない。けれど、ここはイチかバチか、男の子をその力でおじさんのもとに届けてみた。
「集中。」
すると、魔法で黒い瞳だったソニアは金色の瞳となり、輝きだす。
大きな雷の音が鳴った。
男の子は周りに金色の光をまとわせて浮かんでいる。
「!!!」
おじさんは驚きを隠せないでいたが、私はそんなところではなかった。
何とか男の子をつぶさないように気を付けながらおじさんのもとにたどり着かせることができた。
「ふう。よかった。」
私は手すりにもたれる。慣れないことをしたためか、集中力が切れ、体力も限界を優に超えていた。力尽きていたのだ。
(男の子、無事に助かるといいな。)
そんなことを考えていると、私はいつの間にか、船に乗り出した波に飲み込まれていた。
もう力が入らず、魔力はあるが、集中できないため、されるがままに海の波にのまれ、そのまま気を失った。ただ――
『キュー!!!』
無意識の中で、そんな鳴き声が聞こえた気がした。
ソニアはそのまま光に包まれる。それはそれは温かな光に――――
____
竜王国ドラグナルク。
そこは竜、竜人、人竜が住む国。そして、世界で一番争いがない国。竜人は外見が人だが、パワーも人間よりもはるかにしのぐ強さで、魔力があるため魔法が使えるが、竜魔法は人竜よりかは使いこなすことができない。対して人竜は、ごく稀に竜から生まれる外見竜だが二足歩行で言葉を話し、さらに竜の声も聞き取ることができる。また、魔法は竜人より使えないが、竜魔法を自在に操ることができる。そして、ドラグナルクの国民全てが愛し、あまたの竜さえ従えることができるのが竜王であった。竜王になる者はほぼ生まれる同時期に次代の王竜が生まれる。つまり、ほぼ同時に生を受け、命も共有するものが王となるが、選ばれるのは性別関係なく代々の王族の家系であり、必ず一人だ。そして、金色の瞳をした者だった。しかし、竜王の持つ能力は平凡で、魔法も竜魔法も通常の竜人や人竜の持つものよりはるかに弱かった。竜王は世界で一番弱い王様というあだ名まで付けられるほどに。
そして、竜王国は今なお鎖国が続いている。したがって、竜王国民はほかの国(中央を除く)へ行くことが禁止されている。
ここは竜王国ドラグナルクの竜神殿。崇め奉られているのは歴代の竜王とその王竜。
竜王国の王都の西側にそれはあり、その存在はドラグナルク国民にとってもとても大きなものだ。
そして、竜王リンデル・ドラグナルクは黒い髪と金色の瞳を持った美しい顔立ちの青年のように見えるが険しい表情をし、目元にくまをつけながら速足で白が基準の美しい神殿内に入っていく。そこに、金髪碧眼の好青年がやってきた。かれは、神殿のトップで、国を支えるものの一人、神官長ハルト・ラウィウス。
「陛下!よくいらっしゃいました!連絡は聞きました。こちらへどうぞ。」
「あぁ。」
リンデルが案内されたのは、国の国家機密や緊急における相談等に使われる会議室だった。周りには竜の石像がずらりと並び、緊張感あふれる空気に包まれているかのようだった。
「こちらへおかけください。」
リンデルはすっと神官長の前に座った。
「早速本題に入る。時間がないのでな。」
「はい。」
「聞いたと思うが、私の娘が行方不明となってあれから18年たった。サイファンにも卵が産まれ、今卵は番に守られているが、その卵が強いエネルギーを発した。」
「・・・。」
「詳しく言うと、神聖なる竜魔法が発動された。」
竜魔法とは、すべての竜、竜人、人竜が生まれながらにしてある魔法である。そして『神聖なる竜魔法』とはその中でも高度の竜魔法であり、さらに王竜しか使えない魔法だった。
「まさか、次代の王竜が主を探しているということですか?」
「おそらく、ソニアに何かあったのだろう。」
「卵は無事なのですか?!」
「大丈夫だ。割れてはいない。」
竜王と王竜は命を共有しているため、どちらかが死ねば必ず死ぬのである。
「けれど、これは一大事ですな。」
「…あぁ。」
リンデルの顔が暗くなる。
(ソニア。いったいどこにいるんだ…。)
行方も知れぬソニアに向ける不安の感情が重くリンデルに圧をかける。
「ひとまず、卵は必ずして守らねばならん。鎖国を解除しようにも、まだリスクは大きい。それぞれの国にも手配はしているが、人間が厄介すぎる。天族に関しても同様だ。王がいまだ掃除が終わり切れていない。」
「神の御加護はありますよ、殿下は。中央でお生まれになり、生まれて間もなく王気をまとっておいでだったと聞きます。さらにライト様がこの件に関して重きを置いてくださるのであれば、すぐに見つかることでしょう。もしかしたら、初代の生まれ変わりやもしれませんね。」
「そうだったとしたら、十分に厄介だぞ。」
神官長はリンデルの心を安らげた。リンデルがここまで落ちているのにも死ななかったのは、生まれ持ってした生命力だけでなく、王妃と側近のライト、そして神官長のおかげであるといえよう。
「ひたすら待つばかりも、きついものだな。ソニアを愛しているよ。心から。けれど、国民もまた然り。このもどかしさはどうにも消えてくれそうにないよ、ハルト。」
「あなたが、昔の名前で呼んでくださるなんて珍しいですね。…それだけ弱っているのですか。」
「・・・。」
二人ともう一人、側近のライト・デリスタンは昔馴染みで、かつては中央学園へも行くエリートだった。
「もうそろそろ領主の皆さんがいらっしゃいますよ。お気持ちはわかりますが、皆あなた様をお慕いしてるゆえに心配なさいます。」
「わかってるよ。ハルト、いつもの。」
「はい。」
すると神官長は立ちあがり、リンデルの前に出る。
パン!
その音は、会議室に鳴り響く、痛いものだった。
彼はリンデルの頬を両手で叩いた。
「いった!!!お前いつもより強すぎる!」
「しょうがないじゃないですか。久しぶりすぎて加減忘れてしまったんですから。」
「くっ…。」
そして、リンデルとハルトは七人の領主、二人の王子、宰相とで緊急会議が行われた。時代の竜王ソニアと王竜についての会議を。
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