何気ない選択。血反吐を吐くような決断。人生は無数の選択で彩られている。

……あの時、ああしていれば今とは違った展開があったかもしれない。
誰しもそんな苦い過去の一つや二つはあるだろう。私も六十個ぐらいある。
では果たしてこの物語は。そんな失敗をことごとくかわし、成功だけを積み重ね栄光へと至るものなのだろうか?
否である。この物語のタイトルを今一度読み返してほしい。

『異世界は選択の連続である ~自称村人A、押し付けられた選択肢に抗いヒーローを目指す~』

そう、これは選択に抗う物語なのだ。
何をもって成功とするか。それには人それぞれの基準があり、だからこそ時に選択と成功は、親しい誰かに失敗や不幸をもたらすかもしれない。
だから成功とは、ひどくあやふやなものの上に成り立っているのだ。

だったらそれらもひっくるめて解決できる、すべてに成功した物語を書けばいい?
ならば、その物語は四文字で完結してしまうだろう。
『成功した』

だから、この物語は。何もかもが成功するものとはならない。
……村人Aという波風を立てない生き方を望む主人公、相葉奏刀からすれば、最善の選択肢を選べるというのはまさに理想の如き能力だ。
楽に生きられるという意味では。
それでも彼はいつしかその選択肢に、安易な成功に抗うことを選ぶのだ。
かけがえのないものを守るヒーローとなる為に、悩み苦しむとしても立ち向かうのだ。
どうか、彼の生きざまを見届けてほしい。

現時点において、第四章までが完結している。そのいずれもがライトノベル一冊分のボリュームを持っているが、八白 嘘氏のシャープな文体はそれらの文章をあっという間に消化させてしまうほど読みやすく、物語へと深く没入させてくれるだろう。
そのどれもが魅力的であるが、あえてオススメするならば第一章と第三章を挙げたい。

第一章は導入ということもあって、異世界に出会うヒロインの可愛らしさやいじらしさ、奏刀が得た選択肢という能力を活かした展開がふんだんに描かれており、彼女らの魅力と、選択肢という能力の魅せ方に目を引かれるだろう。
そしてクライマックスには、これらの総決算とでもいうべき怒涛の展開が待ち構えている。
また一章はある意味これ単独で作品として完成されているということもあり、まずは一章をまるごと読んでいただきたいものである。

そしてこの一章を読み終え作品を気に入っていただけた方には、次は三章まで読んでいただきたいと思う。
選択肢というものをよく理解し、世界観にも慣れ親しんだうえで迎える第三章であるが、ここには一つの山場が待ち構えている。
そこを初めて読んだ私の感想は恐ろしいというものだった。
強大であり、困難な障害だろうとも思う。だがしかし何より強く感じた感情は恐怖だった。
先だって八白 嘘氏の文体はシャープであると評したが、その優れた文体がここにきてこの存在への恐ろしさを際立たせ、読者へと襲い掛かってくるのだ。
人間は未知のものに恐怖するというが、まさにこの章に出てくる存在はそれを象徴するかのようなモノである。
得体が知れず、理解が及ばず。それ故におぞましい。
是非とも読んでいただきたい。そして私の感じた恐怖をあなたも味わってほしい。
きっと想像よりも大きい恐怖と、それを乗り越えた時の爽快感を感じることが出来るだろう。