1/ハウルマンバレー -2 改造騎竜車は二階建て

「──あ、職人のほうから騎竜車届いてますよ! 改修と、それから点検修理も終わってます」

「おお!」

 思わず喜びが声に出る。

 騎竜と馬とが生活しているせいで、預かり所の一角は非常に獣臭く、動物園じみた臭気が漂っていた。

「それで、私たちの騎竜車はどこだ?」

「ええ、こちらです」

 騎竜や馬が外され、客車のみとなった騎竜車たちが並んでいる区画へと案内される。

 そこに、あった。

 俺たちが改修を依頼した騎竜車であることが、一目でわかる。

 何故なら、この場にある騎竜車で唯一、二階建ての客車となっていたからだ。

「な、なってるぅー……!」

「しごいでし……!」

「二階、さっそく御覧になりますか?」

「はい!」

 ヤーエルヘルが、元気に頷く。

 その様子を見てすこしだけ安心しながら、俺たちは踏み段を足掛かりに客車の中へと足を踏み入れた。

 見てすぐにわかるのは、左側の壁際に梯子が取り付けられている点だ。

「あ、あの、はしご、……です?」

「ええ、その通りです。では失礼して」

 預かり所の職員が、ひょいひょいと梯子を上がっていく。

 三人娘がスカートを穿いている関係上、自然と俺が先に梯子を上がる流れとなった。

 客車の二階へと顔を出したとき、驚いた。

「こーれは、すごいぞ……!」

 呟きが聞こえたのか、ヘレジナとプルが俺を急かす。

「な、なんだ! 何があった! 早く上がれ!」

「きになるー……!」

 これ以上待たせるのも悪いので、すぐに二階へ上がりきる。

 二階は天井が低く、俺の身長では、すこし頭を下げなければ歩けない。

 だが、それ以上に、寝具まですべて揃った四台のベッドのインパクトがすごかった。

 二階の広さは、当然、一階と同じだ。

 元より広々とした騎竜車であるからして、ベッドの大きさも多くの宿と遜色がない。

 毛布に身を包んで雑魚寝をしていた身としては、旅路の途中でもベッドで眠れるという事実だけでわくわくが止まらなかった。

 ヘレジナ、プル、ヤーエルヘルの三人も上がってきて、三者三様の感嘆の声を上げる。

「こ、ここで寝ていいんでしか? 旅の最中でも……?」

 従業員が答える。

「そりゃあ、もちろん。ベッドにはスプリングが仕込んであるそうですから、悪路を走っている最中でも快適に眠れると思いますよ」

「……ね、寝てみてよいか?」

「わ、わわ、わたしも!」

「あちしもでし……!」

「どうぞどうぞ」

 三人が、まずはベッドに腰掛ける。

 ぎ、ぎぎ。

 スプリングのしなる音が聞こえた。

「なるほど、反発感があるな」

 それぞれが靴を脱ぎ、ベッドに横になる。

「あ、……い、いい……」

「いいかんじでしー……」

「まだ寝るなよ!」

 船旅で疲れているだろうから、そのままシームレスに睡眠に突入しても不思議ではない。

「では、どうします? すぐさま騎竜と騎竜車をお返ししましょうか」

「あー……」

 正直に、ハッキリと言おう。

 今すぐにでも出立して、早くこのベッドを使ってみたい。

「プル、ヤーエルヘル、ヘレジナ。すぐに出ちまう感じでいいか?」

「もちろんでし!」

「当然、そのつもりだ」

「か、改造した騎竜車で、旅だー……」

 皆、心は同じようだった。

「そういうことだから、騎竜を繋いでくれるか。そのまま出発する」

 従業員の男性が、微笑ましげに頷く。

「承知しました。すぐに繋げますね」

 こうして俺たちは、ウージスパイン西端の港町リンシャを出立した。

 考えてみれば、総計で、二、三時間しか滞在していない。

 もうすこし観光してもよかったが、改修を終えた騎竜車での旅の魅力には勝てなかった。

 いずれワンテール島へと向かう際に、また訪れることになるだろう。

 観光は、そのときでいいさ。

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