3/ラーイウラ王城 -23 決勝戦(上) 燕双閃・自在の型
「──これより、決勝戦を執り行う。カールナーヤの第六位貴族ダアド=エル=ラライエの奴隷、ジグ=インヤトヮ。並びに、リィンヤンの領主ネル=エル=ラライエの奴隷、カタナ=ウドウ。前へ!」
「──…………」
俺は、瞑想を解き、そっと目蓋を開いた。
「いよいよ、だな。心の準備はできたか?」
ヘレジナの言葉に、そっと頷く。
「負けないで、くだし……」
プルが、ヤーエルヘルの肩を抱く。
「わ、わたしたちは、ここにいる、……から。見守って、応援してるから。ひとりじゃ、ない、……から」
「ジグは、強い。たしかに強いけど──」
ネルが、拳を差し出した。
「今のカタナなら、勝てない相手じゃない。あたしはそう思う。そう信じている」
「──ああ」
ネルの拳に拳を合わせ、皆の言葉を胸に歩き出す。
「行ってくる」
ジグに勝利し、ネルを母親に引き合わせるために。
「──…………」
王の御前にて、ジグと対峙する。
「──この時を待っていた」
「ああ」
「艱難辛苦を乗り越え、お前なら、ここまで来ると思っていた」
「ああ」
「最後の指導だ」
ジグが、大きな拳を握り締める。
左手と左足を大きく前に出し、右半身は後方へ。
見慣れた構えだ。
「オレを、超えてみせろ」
「ああ」
薄刃の長剣を抜き放ち、正眼に構える。
「行くぞ、
側近の声が玉座の間に響く。
「この試合により、次代の王が決定する。奴隷よ、自らのすべてを捧げよ」
その右腕が、高らかに掲げられた。
「決勝戦、──始め!」
神眼を発動する。
一瞬で勝負を決める。
燕双閃・自在の型。
俺は、ジグへ向けて、大きく足を踏み出した。
一歩、
二歩、
三歩──
高々と構えた薄刃の長剣を、ジグへと思いきり振り下ろす。
この初撃に、ジグは対応しなければならない。
ジグの右半身が、僅かに前へと迫り出した。
長剣の腹を殴りつけ、弾くつもりだと理解する。
好都合だ。
俺は、長剣を振り下ろす途中で、刃を寝かせた。
ジグの拳が薄刃にめり込む。
鮮血が溢れ出す。
そして、弾かれた勢いを利用し、
──直角の軌跡を描いてジグの頸動脈を断ち斬った。
燕双閃・自在の型の原理は単純だ。
初撃に対する反応を見てから、その反応が作り出した隙に対し、即座に二撃目を叩き込む。
神眼を利用した究極の後出しジャンケンである。
通常の燕返しと異なり、どのタイミングでどの方向に軌道を変えるかが自在であることから、ヘレジナはこの名を付けたのだろう。
ジグの首筋から、血液が噴水のように溢れ出す。
俺の勝ちだ。
治癒術で血を止めなければ、ジグは死ぬ。
「──…………」
傷口に触れたジグの手が、赤く、赤く、染まっていく。
「いい技だ。だが──」
ジグの形相が、怒りに染まる。
「──お前、オレに手加減をしたな?」
──ジュッ!
肉の焼ける音が、玉座の間に響き渡った。
傷口を灼いたのだ。
「な──」
驚愕する。
それが、隙になった。
「──ふんッ!」
拳が来る。
俺は、反射的にその場を飛び退いた。
かつての反省を活かし、可能な限りの全力で。
ジグの拳が胸に叩き込まれる。
みしり。
胸骨に罅が入る音が聞こえた。
六十キロはある俺の体が、ゴムまりのように軽々と吹き飛ばされる。
空中で背後を確認する。
このままでは、石柱に叩き付けられる。
なんとか空中で姿勢を制御し、石柱に着地すると、俺を追い掛けてきたジグが追撃を放つのが見えた。
剛拳一打。
死という名の拳が、ゆっくりと近付いてくる。
「──ッ!」
石柱を蹴り、右前方へと跳躍する。
ジグの拳が当たらない場所へ、無我夢中で。
──玉座の間が、揺れた。
轟音に、空気が波を打つ。
受け身を取り、ジグのいる方向へ振り返った俺は、思わず瞠目した。
石柱に、大穴が穿たれていた。
「──…………」
ジグが、ぐちゃぐちゃになった拳を、石柱から引き抜く。
「オレを殺せ。さもなくば、お前を殺す」
あまりに壮絶だった。
ジグは、そこまでの覚悟で、この場に立っている。
だが──
「殺さない。俺は、あんたが好きだ。だから、殺さずに勝つ」
「では、死ね」
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