3/ラーイウラ王城 -5 予選第十三組
九名全員の視線が、俺を射抜く。
推測通り。
まずは弱そうなやつから、というわけだ。
十歩先に立っていた双剣使いの男が、俺に肉薄した。
神眼は既に発動している。
双剣使いの一挙手一投足が、手に取るように把握できた。
恐らくは師範級下位。
双剣使いとしては、ヘレジナの足元にも及ばない。
俺は、双剣の連撃を紙一重でかわすと、双剣使いの喉仏を柄の先で思い切り突いた。
嫌な感触が手に伝わる。
双剣使いが武器を取り落とし、喉を押さえる。
死にはすまい。
──五秒。
顔を上げると、二人目と三人目が駆け寄ってくるところだった。
その顔には、驚愕が浮かびかけている。
だが、遅い。
革鎧を着込んだ二人目のこめかみに向けて、柄を振り抜く。
無警戒の方角から矢が無数に飛んでくる戦争ならばともかく、たかだか十名程度の混戦で厚い鎧を着込むのは愚策である。
敵は、鎧で覆われていない場所を狙うだけだ。
守る場所を限定できるメリットはあるが、それ以上に動きが制限される。
手の痺れをゆっくりと感じながら、三人目の動向を確認する。
武器はフレイル。
軌道の読みにくい武器ゆえに、警戒は怠らない。
三人目が、フレイルを全力で振り下ろす。
殺意が高すぎる。
一撃で殺せば反撃はない、という考えなのだろう。
だが、大振りゆえに避けやすい。
体操術を使用しているが、それでも師範級上位程度だ。
少々動きが速くなったところで、どうということもない。
フレイルの一撃を避けて体勢を崩し、膝裏に蹴りを叩き込む。
三人目が、顔面から地面へ倒れ込む。
俺は、そのタイミングに合わせて跳躍すると、三人目の後頭部を両足で思いきり踏みつけた。
四人目は、まだ距離がある。
革鎧を着込んだ二人目がまだ立っていたので、同じところに一撃を打ち込み、今度こそ昏倒させた。
──十秒。
徒手空拳の四人目が来る。
速い。
体操術による身体強化のレベルが、三人目とは段違いだった。
恐らく、奇跡級下位。
以前の俺であれば、苦労する相手だ。
だが、相手は拳闘術士。
ジグと幾度も手合わせをしている以上、油断さえしなければ勝てない相手ではない。
「──?」
違う。
拳闘術士の動きではない。
流派が異なるとか、そういう次元の問題ではない。
剣術士の動きなのだ。
俺は、即座に理解する。
操術──恐らくは切断術だ。
食事や調理の際に使われる魔術を、攻撃手段へと昇華しているのだろう。
体操術と二術同時展開とは、魔術士としても一流だ。
目に見えぬ刃。
あまりに堂々とした暗器。
四人目が振りかぶった位置から、切断術の長さを推測する。
推測の倍の距離を後退し、その一撃をかわした。
初見殺しに余程自信があったのか、四人目の双眸が驚愕に見開かれる。
体勢を崩したところに一撃を叩き込もうとして、
──空気を裂く音が聞こえた。
左に視線を向ける。
投げナイフ。
それも、二本だ。
受け止めることも、避けることもできるが、四人目と同時に対処するのは難しい。
ならば、どうすべきか。
僅かに思案し、答えを導く。
俺は、四人目の襟首を引っ掴み、その肉体で以て投げナイフから身を隠した。
投げナイフが、四人目の背中に刺さる。
一石二鳥というわけだ。
──十五秒。
残りの五人が警戒を始める。
──二十秒。
来てくれたほうが手間がないのだが、仕方ない。
俺は、両手でメイスを握り締めた女へと距離を詰めた。
燕双閃は使わない。
ジグが見ていたら、対処法を考える時間を与えてしまう。
柄を振りかぶると、女がメイスで頭を防ごうとした。
顔が下を向いたので、そのまま膝蹴りを叩き込む。
鼻の折れる感触。
後ろへ倒れていく女の腹部に、内臓を破壊しない程度に突きを入れる。
徒弟級上位。
手加減したことを後悔する。
弱いふりをしているかもしれないからだ。
もっと、非情に徹するべきだった。
──二十五秒。
炎の神剣なしでこのペースならば、悪くはない。
──三十秒。
残り三人。
──三十五秒。
残り二人。
──四十秒。
最後の一人に近付いていく。
残ったのは、俺に絡んできた奴隷の男だった。
奴隷の男が両手を上げる。
降参の合図だろう。
神眼を解く。
「──ま、参った」
「──…………」
降参するのであれば、無理に戦闘不能にする必要はない。
兵士にその旨を伝えようと振り返ったとき、奴隷の男が動いた。
投げナイフ。
あのナイフは、この男のものだったのか。
即座に神眼を再発動し、投げナイフを指で受け止める。
俺にはジグのような剛指はないが、鍔があるので容易に止められる。
奴隷の男が、驚愕の表情を浮かべる。
再び両手を上げようとするが、遅い。
俺は、奴隷の男の頭部を、柄で思いきり振り抜いた。
──一分。
今度こそ、神眼を解く。
そして、全員が戦闘不能であることを確認し、
「ふー……」
と、息を吐いた。
観客席が、ざわめく。
俺は、プルたちのほうを向くと、笑顔で手を上げた。
皆が、大きく手を振り返してくれる。
それを確認し、兵士へと近付く。
「終わったけど」
「あ、ああ……」
「戻っていいのか?」
「……ああ、構わない」
控え室へ通じる階段を下りると、銅鑼が三度打ち鳴らされた。
「──勝者、カタナ=ウドウ! ネル=エル=ラライエの奴隷、カタナ=ウドウ!」
死者は出なかっただろうか。
治癒術が間に合えば死なない程度に攻撃を加えたつもりだが、打ちどころが悪ければわからない。
殺す覚悟はできているが、決して殺したいわけではない。
あとは、祈るばかりだった。
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