3/ペルフェン -1 訃報
「──ルルダン二等騎士は、ペルフェンの別荘に逗留している際に殺害された。遺体の発見者は、彼の召使いであるオゼロ=プリヤシュ。オゼロの証言によりゃ、ルルダンは、ある魔術具を売却するための商談の最中だったっつー話だ」
ウガルデが、中指で机を叩く。
「それが、"銀琴"。ヘレジナの嬢ちゃんの持ちもンだな」
「ああ」
ヘレジナが頷く。
「ッたく、まさかヘレジナの嬢ちゃんが、あのルインラインの弟子とはな。納得行ったよ。道理で奇跡級なわけだ」
「それで、"銀琴"はどこにある」
「わからねェ。現場からは発見されてないそうだ」
「……つまり、商談の相手がルルダンを殺し、"銀琴"を奪ったというわけか」
「その線が濃い。ペルフェンの憲兵隊も、血眼になって商談相手を捜してる。なにせ、パラキストリの貴族が自分たちの領土で殺されたんだ。国交悪化の原因になりかねねェ。せめて犯人を取っ捕まえて差し出そうって腹だろうな」
「──…………」
肩を落とすヘレジナの代わりに、尋ねる。
「ルルダンさんが殺されたのって、いつかわかる?」
「昨夜だ。ヤーエルヘルとユラの嬢ちゃんが銀の刃を連れて行ったときにゃ、とっくに死んでたことになるな」
財宝を手に勇んで迷宮を出てみれば、俺たちを待っていたのは、ルルダン二等騎士の訃報だった。
それも、最悪な形での、だ。
「俺に届いてる情報は、これですべてだ。悪いな。これ以上は、ちょっと力になれねェ」
「ありがとうございまし、ウガルデさん」
「いいって。それより風呂入ってけ。お前ら、すげェことになってんぞ」
「まあ、うん……」
帰ってくるとき、通行人の視線が痛かった。
「ヤーエルヘル、井戸で水汲んで沸かしてやれ」
「はい」
ヤーエルヘルが、カウンターの後ろへ消えていく。
「──あと、それな」
ウガルデが、俺たちの後ろへ視線を向ける。
「あいつらの目の毒だから、ヤーエルヘルの部屋にでも持ってけ」
それは、金貨がパンパンに詰まった一抱えほどもある大きな麻袋だった。
「──…………」
「──……」
「──………………」
酒場にいる冒険者たちの視線すべてが、その麻袋を焦点として交錯している。
道理で静まり返っているはずだ。
「まあ、刺激になっていいんだがな。一攫千金なんざとうの昔に諦めて、ギルド仕事でのらりくらりと生計立ててるやつらばっかだ。それが悪いとは言わねェが、昔はもっと目のギラギラした冒険者どもが夢を語ってたもんさ」
ウガルデが遠い目をする。
思うところがあるのだろう。
「じゃあ、しばらくヤーエルヘルの部屋を借りるよ」
麻袋から一枚の金貨を取り出す。
その瞬間、冒険者たちがざわめいた。
「これで、何か食事を頼めるかな。部屋に持ってきてくれるとありがたい」
ウガルデが、呆れたように口を開く。
「……カナトの兄ちゃんよう。これ一枚の価値わかってんのか?」
「あんまり……」
「いいって、仕舞っとけ。メシくらい奢ってやっから」
「いいのか?」
「ありがとう、ウガルデさん」
ユラが深々と頭を下がる。
「──お前ら、宝が欲しけりゃ潜ってこい! 乳臭いガキみてェに指くわえてんじゃねェ! なんのために遺物三都に来たのか、よーく思い出してみろ!」
ウガルデの発破を背中越しに聞きながら、俺たちは、ヤーエルヘルの部屋へと引き上げた。
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