小学生ユーチューバーが田舎でスイカの種飛ばしチャレンジしてみた!

詩月みれん

田舎でスイカの種飛ばしチャレンジ!

 おれは夏休みに、じいちゃんの家にやってきた。

 じいちゃんちは木で出来ためっちゃボロい家(日本家屋にほんかおくっていうらしい)で、母さんは来るのを嫌がるけど、おれは好きだ。

 木の枠に、紙が貼ってある戸(障子しょうじっていうらしい)を開けると、

廊下ろうかみたいな場所(縁側えんがわっていうらしい)が広がっていて、縁側の向こう側にはかべがない。そのまま外につながっている。そこが好きだ。

 おれが縁側に座って、足をぷらんぷらんさせていると、じいちゃんが来て言った。

「おう祐介ゆうすけ。そこにいたか。そっからな、タヌキが見えるかもしれんぞ」

「え、タヌキ?」

「ああ。庭が山と通じてるからな、タヌキだとかイタチだとか、ヌートリアちゅうやつとかよう来るぞ」

「へえー」

「たまには、オバケなんかも来るかもしれん」

「えーっ、オバケ? おれ、オバケ見つけたらユーチューブに投稿しよっかな!」

 おれの将来の夢は、有名ユーチューバーなのだ。

 小学生の今でも、配信してはいるんだけど、チャンネル登録してくれてるのは学校の友達くらい。

 それに、ぜーんぜん、再生回数が上がらない。おれが自分で見た回数しかない時もある(友達、見てくれよー)。

 でも、オバケを撮影さつえいすることが出来たら……。ホラーは人気が取れるぞ。

『田舎のボロやしきで心霊動画しんれいどうがってみた!』

 うーん。だけど、ちょーっと、怖いな。やめておこう。

 タヌキが出たらタヌキを撮って、『タヌキとふれあってみた!』にしてみようかな。

 うん、動物ほのぼのでも、人気は取れる。そっちにしよう、そっちに。


 ばあちゃんがスイカを切って持ってきてくれた。

 じいちゃんと一緒に、スイカを食べる。塩がきいていて、うまい。

「おい、祐介。見てな」

 一切れ食べ終わったじいちゃんが、口をすぼめて種をぷぷぷっと吐き出した。種はいきおいよく飛んで地面に落ちた。

「えっ、なになに、どうやったの?」

 おれはスマホをかまえた。『人間マシンガン現る!』もいい動画になるかもしれない。

 ところが、

「おじいちゃん、祐介にくだらないことを教えんといて。ほら、畑行くよ」

 ばあちゃんがじいちゃんを引っ張って、連れて行ってしまった。

 あああ、おれもやりたかったのに!

 仕方なく、一人で練習してみることにした。

 じいちゃんみたいにカッコよく吹き出そうとしても、種はうまく飛ばないよ! 口からヨダレと一緒につーっと落ちる。

「そんなんじゃだめだな」

 誰かの声がした。声のした方を見ると、顔の白くて目の下にクマがある、元気のなさそうな男の子が立っていた。

「うわ! オバケが出た!」

 思わずおれはさけんだ。

「違う! オレは絹太きぬただ!」

 絹太と名乗った男の子はつかつかと縁側まで歩いてきて、スイカを一切れつかんだ。

 見た目に反して、けっこー元気だ。

「まずはスイカをしっかり味わうんだ。種の周りについたぶんまで、しっかりな」

 そう言って、絹太はスイカにかぶりついた。口を開けてべろんべろん種を舐めるところを見せてくれたけど、汚いな!

 絹太は、じいちゃんみたいに口をすぼめて種を飛ばした。


 ズバババババババ!


「えっ、何、今の!」

 じいちゃんの種飛ばしよりすげえ。地面に穴が開いたぞ。

「へへん」

 絹太が得意げに言って、スイカをもう一切れ食べる。

「次は舌をこう畳んでな、そこを筒にするんだ。ほら、あー」

 絹太の舌の上に、一列に種が並んでいた。うん、マシンガンの銃身じゅうしんに装てんされた弾だ!

「あとは勢いだな。こうやって体を反らして……」

 絹太は、思いっきり反動をつけた。


 ズバババババババ!


「おれも、やってみる!」

 おれは、絹太の真似をして、何度も練習した。スマホで自分を撮って、フォームをチェックするのも欠かさない。

「なんだ、その道具は」

 絹太は、おれのスマホを見て不思議そうに言った。

 あれ、絹太はスマホ禁止されてて知らないのかな?


 おれは、スマホで撮った動画を見せた。

「魔法の鏡だな」

 絹太は感心して言った。


 おれは練習の結果、絹太ほどではないけど、じいちゃんと同じくらいは種を飛ばせるようになった!

「やったな!」

 おれは、絹太とハイタッチした。

 たくさんあったスイカは、あと二切れしかない。

「じゃ、最後に二人で一緒に飛ばしてその動画を撮ろう!」

「オレはいいよ!」

 恥ずかしがっているのか、絹太はなかなか映ろうとしなかった。

「駄目だよ、おれの師匠なんだから、一緒に撮りたい!」

「オレが師匠……?」

 絹太は照れ臭そうに指で鼻の下をこすった。

「よし! オレもその魔法の鏡に映ってやる!」


 スイカを手に持って、二人で庭先に並ぶ。

 自撮り棒を伸ばして、撮影開始!


 ズバババババババ!

 ぷぷぷぷぷぷぷぷ!


 スイカの種が、二つのアーチをえがいた。


 絹太は、その後「じゃ!」と、すぐに去っていった。

 張り切りすぎたのか、顔が茶色くなりかけていたのがちょっと心配だ。

 どこに住んでいるのかくらい、聞いておけばよかったかな。


 その夜、チャンネルにアップしようと今日の動画を見返したら、あれっと思った。

 おればっかりで、絹太が映っていない。フォームの練習に夢中で、絹太を撮りそこなったのかな?

 でも、最後だけはちゃんと一緒に撮ったはずだ。

 そう思って、最後の動画をもう一度再生してみた。

 すると、おれの隣に茶色い動物がいた。目の下が黒くふちどられているその動物は、

「タヌキか?」

 動画のタヌキは、おれと一緒のタイミングで種を口から吐き出した。

 よく飛ぶ種の軌道きどうが、絹太とまったく同じだった。

「ええーっ!」

 そこで、おれは気が付いた。絹太ってタヌキだったんだ?!

 びっくりした。そういえば、昔話でタヌキが人間に化ける話を読んだことがあるな。

 スマホの方には、絹太の本当の姿が映っていたんだ。

 おれは、動画を編集してアップすることにした。

『最強のタヌキ師匠とスイカ種飛ばしチャレンジ!』

 絹太、おれの動画見てくれたらいいなぁ、なんて思いながら。

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