花を一輪、あなたの横に。

やちみよ

第1話 野に咲く花の名前

 デートというにはゆるいし散歩というには意味がありすぎる、今日の昼下がり。

 お互いが仕事が休みだったので、買い物に行こうと茜が提案したのだ。


「どこにいこうか、服でも見に行く?」


 私は茜に問いかけてみた。


「優の行きたいところでいいよー」


 彼女は私に行き先を委ねたので、公園にきたのだ。

 買い物、と提案した彼女は公園に行きたいと私が言っても嫌な顔一つせずわかったと笑い、お気に入りのピアスをつけて私の隣を歩いている。


「これってデートなのかな」


「えっ、デートならもっといいピアスするもん!」


「じゃあ……なんなんだろ?」


「名前なんてなくてもいいんだよ、楽しいからさ」


「それもそうか」


 素敵な考え方だな、と思って心に軽くメモしておいた。

 いつか忘れてしまうフレーズかもしれないが、できれば覚えていたいなぁと思ったんだ。


「みて、この花」


 茜が足を止め、道端に咲いた一輪のタンポポを指差した。


「タンポポだね」


「そう! タンポポ!」


「なんかタンポポって花っていうより草の方がしっくりくるなぁ」


「んー、私にはその感覚わからない」


「ふーん」


「タンポポも立派な花なんだよ……多分」


「おっ、自信なくなってきてる」


「じゃあ花の大統領である私が今から君は花として生きるように命令だ!」


「花の大統領だったのか」


「そーだよ! 実はね」


「じゃああの花なにかわかる?」


 私が指差したのは、葡萄のような房が上向きに伸びている紫の花。

 ルピナス、っていう名前だったはずなんだけど。


「んーこの子は我が国の子じゃないねぇ」


 わかんなかったからって誤魔化す彼女はやはり可愛い。


「正解はなんですか大臣」


 いつの間にか花大臣にされてるのは置いといて、私は答えた。


「確か、ルピナス」


「おっ優も自信ないんじゃん」


「うーん、なんかで読んだ気はしたんだけど」


「じゃあスマホで調べよ、そして間違ってたら私と手を繋いでもらいますね」


「繋ぎたいなら繋げばいいのに」


 うずうずしている茜の右手に左手を絡める。

 いわゆる恋人繋ぎってやつをしてみるのだ。


 冬の間、外を歩くときは指が分かれてないタイプの手袋をしていたのでこうやって恋人繋ぎするのは何気に久しぶりだ。


 繊細で、少し力をいれたら折れてしまいそうな彼女の指。

 少しだけ赤らむ頬。


 全てが可愛くて、尊くて、いとおしいのだ。


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