孤独の種
鳥柄ささみ
孤独の種
孤独は寂しい。
だから彼は考えた。自分以外も増やそうと。
そして彼は、ぽん、と種を出すと風が導くままに種子達を飛ばしていった。
ぽん、ぽん、ぽん、ぽん。
寂しくなったら種を出し、悲しくなったら種を飛ばす。
苦しくなったら種を出し、挫折しそうになったら種を飛ばす。
……そうしてあれから、どれほど経っただろうか。
風に流されて飛ばされた彼の種。どこかで芽吹き、生を全うしているのかと段々と気になってくる。
「ここにいたってつまらないな」
ずっと1人ぼっちだった。周りには彼以外、誰もいなかった。
話す相手もいなければ、感情も体温も共有する相手がいない。
ずっと、彼は1人だった。
「寂しい、寂しい、寂しい」
自分は何のために種を飛ばしたのだろうか。種を飛ばして、自分はどうするつもりだったのか。
自分で自分に問いかける。
「1人は寂しい。誰かといたい」
そこで彼は思い出す。
孤独に耐えきれなかったから、仲間が欲しかったのだと。一緒に話し、笑い合い、支え合う仲間が欲しかったのだと。
「探しに行こう」
種がどうなったのか、今まで想像することしかできなかった。
彼らはちゃんと生きているのか。寂しがっていないだろうか。
「なら、実際に見に行けばいいじゃないか」
自分は創造主である。なら、見届ける責任があると言い訳して。
よいしょ、と彼は大地に根を張っていたのを剥がして動き出す。長年動いていなかったせいか、どことなく身体は重い。苦しい。息が上がる。
「やっぱり、やめようかな……」
ふと、そんな考えがよぎる。
やっぱり行くのはめんどくさい。歩くのはつらいし、そもそも会えるかどうかの保証だってない。
だったら苦労して行ったって、無駄足になるかもしれない。
「でも、……だからってそれでいいのだろうか?」
多分ここで動かなかったら、今後いつ動くかわからない。そうしたら、また孤独を味わなければならない。
「それは、嫌だ」
正直、行くのは恐い。
もし、種が1つも芽吹いてなかったら?
もし、種になぜ撒いたのかと恨まれていたら?
悪い考えが頭を支配する。
昔から意気地なしで、決断できない優柔不断な自分。
それは何事も恐がっていたからだ。
変化が恐い。孤独が恐い。自分が何もできないことが恐い。
「……でもそれって、何もしてないのだから当然じゃないのか?」
相反する答えが頭の中でせめぎ合う。
変化するのを恐がっていたら、ただ朽ちていくのを待つだけだ。
孤独を恐がるなら、自ら作り出した種子達に会えばいい。
自分が何もできないのが恐いなら、何かをなせばいい。
「そもそも、恐いって何だ」
彼はふと、気づく。
自分は何を恐がっているのだろうか。恐いとはなんだろう。何を恐がる必要があるのだろう。
「あぁ、そうか」
自分は、自らが知らないものに恐怖していたのだと気づいた。
「なら、知ればいいんじゃないか」
彼はゆっくりと一歩踏み出す。
先程まで恐かったはずの一歩は何気ないものだった。
彼は自分は何を恐がっていたのだろう、と驚くほどに、大したことないことだった。
一歩一歩と前に進む。
彼が自ら撒いた種を見るために。
彼の恐怖の先を知るために。
彼は孤独と決別し、知る勇気を身につけたのだった。
孤独の種 鳥柄ささみ @sasami8816
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