第36話

呂布の死骸が風に吹かれて消える・・・

周囲にあった多くの死人も透明になりながら消えた!

この世界が消え始めたのだ。


「ワンワン!」

そこへどこからかココアが現れて口に咥えた蒼い小石を山神の前に置くと元気に吠えた!

「ココア、やっと探し出してくれたか!」

山神はその小石を拾い上げながら

「よく探し出してくれた! 礼を言うぞ」

喜ぶ仕草をするココアの頭を撫でながら褒めた。


山神は未希のもとへ歩み寄ると

「お前さんが持っておる魔法の杖を貸してくれんか?」

そう言って未希が渡した杖の端に小石を載せる・・・

蒼い小石は杖の上で眩い光を放ちながら杖に貼りつく!

「これこそ未希が持つべき本当の魔力を持った杖じゃ」

蒼い小石と一体化した魔法の杖を未希に返しながら山神はそう説明した。


「この蒼い石はもしかして・・・」

山神から杖を受け取りながら未希が呟くと

「そうじゃ、お前さんが魔法使いの婆さんからもらった紅い宝石が悪人の手により遣われてしまったゆえ大きな災いが巨大隕石となり振り掛かった!」

抱いていたココアを下ろすと更に話しを続ける。


「暗黒の魔法を世に送り出した宝石は蒼い宝石に変わったのじゃがそれを遣って暗黒の魔法を打ち砕ける唯一の魔法使いが蒼き魔法使い! すなわちお主なのじゃ」

山神の説明を真剣な表情で聴いていた未希は

「その前にこの魔法により造られた世界を私の魔法でこのまま残す許可を神様である山神様に許してもらえないのかしら?」

未希の質問に難しい顔をした山神は

「わしにはそこまでの権限が無いのでのう・・・」

そう言いながら困った顔をする。


「上には黙ってればいいじゃない!?」

山神にそう言ったのは弓月ことシルヴィアだった!

「この世界は呂布と張角の死により消滅した! 私が貴方の証人となり、報告するわ」

提案したシルヴィアの顔を見た山神は嬉しそうに笑うと

「現実とこの世界を結ぶ道は無い! 悪人2人が消えて居なくなったこの世界に神々は関心も無いじゃろう?」

そう言って山神は周囲に集まった群衆に向かい

「この偉大なる蒼き魔法使いがこの世界を消滅から救ってくれるそうじゃ!」

「良かったのう・・・」

大きな声で伝えた。


それを聴いた群衆は大歓声を上げ未希を讃えた!

未希は新たに蒼い宝石がついた杖を頭上にかざすと意味のわからない呪文を唱える。


杖の先端から放たれた強烈な光は半ば消え始めていた空想の世界を元に戻して行く・・・

千代はクラリスと抱き合い飛び跳ねながら喜び合い群衆はその奇跡を目の当たりにして驚きの声を上げた!

悪意というモノが存在しなくなったこの世界に争いごとは二度と起こるまい。


多くの人々と千代が願った平和がこの世界にやっと訪れたのだった!

しかしそれは千代にとって重大な決意をしなければならない瞬間でもあった・・・

「これからわしらは現実の世界へと戻り消滅しかけておる地球を未希に救ってもらわねばならん!」

「千代、お前はどうするのじゃ?」

「ここに残るのならば現実の世界でのお前の痕跡は全て消して置こう、さすればお前のことは記憶から消えて心配させる必要もなかろう」

山神はそう言って千代の決断を促した。


「クラリス、悪意が無くなったこの世界に争いごとは二度と起こらないでしょうけど正しき道に人々を常に導いて行く指導者は必要です!」

「私がこの世界に残っても大好きな皆の死を見送りながら永遠に生き続けなければな

らないの・・・」

涙を浮かべながら言った千代はクラリスの右手を掴む。


「今までこんな私に命を懸けついて来てくれてどうもありがとう!」

「勝手で申し訳ないけれど私は私があるべき場所に王を辞して帰ります」

そこまで言った千代はクラリスの手を挙げ

「私の後任にはこのクラリスに任せます!」

「皆で力を合わせ、このクラリスを盛り立て争い無き平和な暮らしを永遠に続けて下さい」

そう言った千代は泣き出しそうな顔で並ぶ将軍たちに

「張飛、黄忠、趙雲、馬超、関羽、このクラリスを私の代わりだと思い助けてやって下さい!・・・これは王としての最後の命令です」

畏まって胸に手を当てながら頷いた彼らに涙を堪え切れなくなった千代は将軍たちの中に飛び込み大きな声を上げながら思いっ切り泣いた。


思えばそれはこの世界で見せる初めての姿だった!

彼女がこの世界を救う為にどれほど苦しみや悲しみを堪え続けて来たかを知っている者たちは号泣する。


別れはいくら時間を掛けても辛さは同じである・・・

「次は我らの世界を救わねばならん! 急ぐぞ」

山神はそう言って現実の世界より来た者を集めると

「もう会うことはあるまいが皆、達者で暮らすのじゃぞ」

そう言った瞬間、彼らの姿はこの世界から消えた!


「千代殿おぉぉ・・・!」

彼女たちが消えても尚、別れを惜しむ人々の声が途絶えることは無かった。



「蒼き魔法使い」 第32話に続く

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「紅い稲妻 とある彼女の奮戦記」 新豊鐵/貨物船 @shinhoutetu

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