第35話

「うぐっ!」

苦痛に歪む顔で思わず声を上げた呂布は山神を睨みつけたがそんなことは関係ないとばかりに山神の攻撃は続き左手1本で防ぎ続けるしかない!

周囲には千代軍の張飛、趙雲、黄忠、馬超、関羽と5人の猛将が集まり槍の矛先を向け、今にも飛び掛かりそうな感じで詰め寄っていた。


深い傷を負っているはずなのだが次第に傷は塞がって行くようにも見える・・・

山神に疲れた様子は微塵も無いがこのままでは延々と戦いが続くのではないかと諸将が思い始めた頃、千代とクラリスが孔明や弓月、琢磨、未希、拓海を伴い現れた。


とてつもない大歓声が巻き起こる!

「クラリスか!?」

呂布はクラリスに目を止めると気安く声を掛けたが彼女は何も応えず張飛の蔭に隠れるように寄り添った。


「何だ、そう言うことか?」

苦々しく笑った呂布は

「お前は俺がこの世界に造ってやった女だ!」

「この俺がここで死ねばお前らも全てこの世界と共に消滅する」

山神の攻撃を避けながら尚も

「誰に寄り添おうが消えてしまうよりは俺に味方して自由を楽しく謳歌するってのはどうだ!?」

自分で彼らの自由を奪って置きながら自分のことしか考えない呂布にクラリスの怒りが爆発した。


「張飛! 今すぐこいつの身体を切り刻んで殺して頂戴」

あの忌まわしき屈辱を思い出してしまったのか?

クラリスのその声は絶叫に近いものであった!

「うおぉー!」

咆哮に近い雄叫びをあげながら張飛はクラリスの訴えに応えるように山神と呂布の間に割って入ると呂布に対し攻撃を加え始めた。


超人ではないが千代軍に於いては猛将中の猛将だ!

歴戦の強者である張飛の槍は重く鋭く繰り出されるのだが傷ついているにも関わらず呂布には守るのが容易いらしく不敵な笑いを浮かべながら躱している。


千代はその様子を静かに見ているが何も言わない・・・

手こずる張飛に加勢するように趙雲が入り、馬超と関羽も呂布に対する怒りを露わに物凄い表情で攻撃を加え始たのだが、それでも呂布を倒すことはおろか傷一つ負わせることが出来ないのだ!

「ヒュン!」

空を切り裂くように渾身の力をもって引き絞った黄忠の弓矢が攻撃を加えた張飛の首筋を掠めながら呂布の右目に深々と突き刺さった。


「この野郎っ!」

死角を突いて飛んで来た矢を避け切れなかった呂布は大きな罵声をあげながら右目を押さえる・・・

そこに張飛の槍が右手を深く抉り、趙雲の槍は左腿に突き刺さり馬超の槍が背中を切り裂き、関羽の槍は脇腹に突き刺さった。


さすがの呂布も持っていた槍を落とすと両膝から崩れるように両手を地面について跪く格好になった。


千代はその時を待っていたかのように腰から神剣を引き抜きながら呂布に近づいて行く!

右脇には琢磨、左脇には山神・・・

そして周囲には5人の将軍たちと千代を信じて共に戦い命を捧げ続けた大軍勢。


全ての思いと願いを含むかのように眩く輝く神剣は呂布の前に立つ千代を照らしている!

「お前は何者だ?」

クラリスが大将だとばかり思っていた呂布は見えない右目を押さえたまま、左目を眩しさに細めながら尋ねた。


ここに至ってはもう覚悟を決めたのであろう・・・

静かに落ち着いた口調である。


「私の名は千代、この世界であなたを倒すことのみを考え戦い続けて来た者です!」

「あなたがこの世界に来る前に犯して来た罪と、この世界で犯して来た残虐で冷酷極まりない罪の数々は絶対に許せません・・・」

そんな千代に呂布は

「力ある者が弱者を殺すのは道理だ・・・早く殺れよ」

そう言ったが千代は更に重ねて言う。


「正しき心に力は宿り、悪しき心に力は無い!」

「お前は自らの邪悪な魂により我が身を滅ぼしたのだ」

そう言った千代は神剣を頭上に構えた・・・

「塵と消え、二度とこの世に現れることは許しません!」

千代はそう言うと続けて静かな口調で告げた

「覚悟を決めなさい・・・」

呂布は動きを止めたまま、裁きを待っているかのように目を閉じ静かな呼吸を繰り返す。


呂布の巨体を切り裂く為に飛び上がった千代は呂布の頭上に振り下ろす!

切れ味鋭い剣は音も無く呂布の身体を真っ二つに切り裂くと大量の血液を放出させた。


これで千代の役目は終わったのだ!

重過ぎる重圧から解放された千代はそのまま意識を失うとその場に崩れ落ちた・・・


「千代殿!?」

全員が慌てて千代に駆け寄り、クラリスと弓月がそれとなく孔明に抱き起すように合図する

孔明は全員から催促されるような眼差しで見据えられ緊張したのだろう?

実にぎこちない仕草で千代を抱き起し

「大丈夫ですか!? 千代殿・・・千代殿!」

大きな声で呼び掛けた。


その声に意識を回復した千代は涙をいっぱいに溜めた目で孔明をみつめると大きな声で泣きながら抱きついた!

そんな千代を孔明は愛しさを込めて抱き締める・・・


「やっと普通の女子高生に戻れたようじゃな?」

落ちた剣を拾い上げながら山神が高笑いした。

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