悪の種子はバラ撒かれた
タカナシ
「第二、第三の魔王現る?」
「く、うぅ、まさか、勇者の力がこれほどとは……」
体中傷だらけの魔王は、苦々しげに呟いた。
「しかし、勇者よ、我を倒そうと、いずれ、第二、第三の我が現れるだろうっ!! ふふふっ、はーはっはっは!!」
最後の捨て台詞を吐き捨てると、魔王の矜持とばかりに瀕死の肉体にも関わらず高笑いをあげた。
「いや、それ困るんだけど」
勇者は、眉根を寄せ、迷惑な様子を隠しもしなかった。
「ふっ、最後に貴様のその顔を見れただけで、十分意味のある生だったわ!」
魔王の体がボロボロと崩壊しかけたその時、勇者は手をかざすと回復魔法を唱えた。
「な、なに故、我を助ける」
「魔王、お前さっき何て言った? 確か、第二第三のお前が現れるとか」
「そうだ。すでに我の悪の種は拡散されておる。貴様とて止めることはできん」
「やはり、聞き間違いじゃないのか。マジで困るな。またお前クラス程度の魔王がくる訳だろ? お前でさえ、俺圧勝なのにさ。次の魔王もお前と同じだと、うちの王様ケチだから、絶対、褒賞値切られるわけよ。次できっとそうだから、第三のお前なんて、ほぼボランティアになるぜ。なにが悲しくてボランティアで魔王と戦わなくちゃならんのだ」
「え、ええーー。いや、我も強かったでしょ?」
「勇者一人に傷1つ付けられない魔王が強いわけあるかっ!」
「そ、それは、その勇者装備が優秀だったということは?」
最後の願いを込めて、魔王は恐る恐る聞く。
「これ、始めの村で買った鎧だな。剣は途中で拾ったやつだし」
「くっ! もういっそ殺せ。体だけでなく、心まで弄んで楽しいかっ!!」
「まぁ、もうちょいしたら殺してやるが、その前に、お前がバラ撒いた悪の種だっけ、それはどこのどいつだ? 第二、第三ってくらいだから、最低2人はいるんだろ」
その言葉を受け、魔王は、ハッとした表情を浮かべた。
「き、貴様、まさか、先に始末する気か。奴らはまだ子供なんだ。見逃してくれ!」
「いや、そいつらは立派な歴代最強魔王になるまで、殺さねーし。むしろ、俺がそうなるよう育ててやる!!」
「そ、そう言って我を騙し、始末する気だろ! これだから人間は醜いっ!!」
勇者は、ものすごく不機嫌な表情を見せると、魔王へアイアンクローをお見舞いする。
「ぐおぉぉぉ!! だが、言わんぞ、言わん! 殺すなら、さっさと殺せぇぇぇ」
「
「ハッ! 貴様、我の思考を読み取ったのか、おのれ、卑怯な!」
「うるさいな。ほら、4人集めに行くぞ」
勇者は魔王を掴んだまま、瞬間移動の魔法を唱え、悪の種を持つ4人の元へ向かった。
※
「良し、これで4人全員揃ったな。今から、俺が師匠だ。お前らを立派な魔王に育ててやる」
赤髪の朱雀、緑髪の玄武、青髪の青龍、白髪の白虎。その子供たちが一列に人間の姿で並ぶ。
「ふざけんな。誰がお前の言うことなんかっ!」
4人の中、一番活発そうな赤髪の朱雀が叫ぶ。
勇者はニコッと笑みを浮かべると、一陣の風が吹いた。
「あ、あ……あ……」
朱雀の後ろにあった壁に勇者の拳が突き刺さっており、一瞬で力関係と死の恐怖を理解させられた。
「強い魂は強い肉体に宿る。俺の言う事には、『はい』か『いいえ』で答えろ。いいな!」
「ちゃんと『いいえ』も言っていいのか。意外に優しいぞ?」
魔王は変なところに関心する。
「もちろんだ。自分の信念に反することに対しては、ときに『NO』と答えることも重要だ。俺も前に、金をやるから部下になれと魔王軍参謀に言われたが、断固として断ったからな」
「ちゃんと勇者しているのだな」
「当たり前だ。本来全滅させる相手の金だぞ。ここで貰わなくても、いずれ俺のものになるのに、はした金で部下になんかなるかっ!」
「勇者の方が、よほど魔王だと思うのだが……」
魔王は冷や汗をダラダラと流し、聞こえないように呟いた。
「さて、それじゃあ、俺の強さもわかってもらえたようだし、訓練を始めようか?」
4人の子供はガクガクと頷き、従うしか生きる道がなかった。
※
一年後。
「隙あり!!」
赤髪の少年の拳が魔王の顔面を捉えた。
「グボッアアア!!」
魔王は、地面を無様にごろごろと転がり倒れた。
「良し! いいぞ。これで全員、現魔王に勝てるようになったな」
勇者は強さだけでなく、勉学にも力を入れて育て、地力ではまだ現魔王に劣るものの、4人は作戦によって戦力差を覆し、勝てるようになっていた。
「もう少し、自分らで訓練を積めば、俺ともいい勝負になるかもしれないな。未来の歴代最強魔王になることを願っているぞ!」
勇者はサムズアップをして、別れを済ます。
「待ってください師匠! 自分たちは、魔王にはなりません!」
朱雀が代表し、意を伝えた。
「なん……だと……?」
「むしろ、人間との懸け橋になりたいと思っています。手始めに師匠を親善大使として迎え、お給金も出そうと思っています。今の魔王軍では、これくらい捻出できるはずです」
緑髪の玄武が、そろばんを片手に勇者に詰め寄る。
「さらに使者とするよう人間の国にも圧力をかけ、師匠にお金が出るようにしたいと思っています」
青髪の青龍が、玄武の持つそろばんの玉を動かす。
「これは一時的なお金ではなく、恒久的に師匠にお金が支払われる仕組みです」
白髪の白虎が最後の一押しを告げる。
「お前らにメリットがない提案のようだが?」
勇者は、にやけながらも裏がないか探っていく。
「こちらは、人間との物流ができますので、利益はあがりますし、なにより師匠という最強の人類と敵対しないことは大きいです。あっ、もしこの案が人間側に受け入れられないようなら、そのケチな国王の首をすげ替えるくらいはこちらでやりますよ」
4人の総意を聞いた勇者はゆっくりと口を開いた。
「ふっ、お主らも悪よのぉ」
ガシッと硬い握手が交わされた。
「ええー。我が全然予想しない形で悪の種が芽吹いてるんだけどっ!」
悪どい計画ではあるものの、この計画のおかげで、魔王軍にも人間にも平和な時代が訪れ、第二、第三の魔王が現れることもなかったのであった。
悪の種子はバラ撒かれた タカナシ @takanashi30
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