にごった こころ

常陸乃ひかる

にごった こころ

 たばこの はいが ひらひらと まいおちるように、まんぜんとした

はいいろの てんじょうから、きたならしくも、はなびらの せんかいを

おもわせる、びれいさに にた 『それ』が、みおとされました。


 それ、という だいめいしを さけて、ここは かしょう 『ココロ』

と よびましょう。ココロは ごみが すてられた みちばたの よこがわ、 

とかいの かたすみに、びちゃりと おとを てて ちゃくち しました。

ココロは うきよに おりて まもなく ナリをかえました。


 みちゆくひとは ココロを きみわるがりました。それこそ、さけくさい

よっぱらいを へいげいする で。

 また、さけくさい よっぱらいが おうとした おぶつを さけるような

おももちで ココロを いみきらいました。


 ほどなく ココロは、いどうを はじめました。のそのそ、あるときは

すいすい いっていの ペースを たもたず、かってきままに うきよを

はいかいしています。とても たのしそうに。

 しだいに ココロは、プラナリアよろしく かずを ふやして ゆきました。

ようするに ぶんれつを はじめたのです。


 なんにちか たちました。

 あんたんたる うきよで、ココロは にわかに 人びとへ しんとうして

ゆきました。人びとは ココロを ひつようと していたのです。

「ココロって、すげえ おもしろいぜ」

「ココロって、げいのうじんと つきあってるみたい。しんじてたのに サイテー」

「ココロって やつを あがめると、おかねが てに はいるぞ。マジで」

「そんな やつ このよに そんざいしない。ココロなんて いないんだ」

 いちど、うきよで ひつようと されると、ココロの かくさんは、スピードを

あげました。そのかんも ココロは、すがたを かえつづけます。


 ココロは じぶんの そんざいによって、うきよが うごいている ことに

うれしく なりました。みんなが ちゅうもく してくれている、と。

 もっと、みんなの やくに たちたい。ココロの おもいに きょうめいし、

ココロの ぶんれつは ふえてゆきます。


 しばらくすると、

「テレビで 『ただしい』って しょうかいしてた。だって あのココロだよ」

「あんなの ただしくない。ココロの こと ネットに かいてあったぞ」

「ネットの ほうが アテに ならないよ」

「いや テレビが うそばっかだ」

 もう あちらも、こちらも、ココロの わだいで もちきりです。

 でも どうやら わるい ほうこうで もちきりみたいです。

 こんどは みんな、ココロを いいように とらえて、その結果、人びとの

ふあんに なっていました。どうして こんなことに なったのでしょう?

 ココロは みちゆく 人に りゆうを ききました。

「みんな、おまえに おどらされて いたんだ」

 こころない ことばに ココロは きずつき、そして きづきました。

 もしかすると じぶんのせいで にんげんが とまどい、きょうふし、

ぼうそうして しまったのでは ないだろうか、と。


 なんということでしょう。

 かくさんした ココロが、どこかとおくで にんげんに えいきょうをあたえ、

いきにくい うきよを つくりあげて しまったのです。

 けっか、ココロは じぶんの くびを しめることに なっていました。


 ココロは ふたたび むげに あつかわれ、みちばたで しらない 人に

ふみつぶされて しまいました。

 そこから また ぶんれつし、ココロの はへんは どこかへ って

しまいました。

 けれど、このココロは いまの ダメージが おおきく うごけなくなって

しまったようです。


 つちうえに へばりつき、ココロは さいごに、『たね』に すがたを かえ、

みずから じめんへ うまって ゆきました。


 すがたを かえるのは かんたん。だけれど、こうして たねに なって、

みずを すって、わずかに おひさまを あびて、いつか つぎに すがたを

せるときは、あるべき すがたに なっていたいと おもったのです。


 つぎは もしかすると ココロは 人のために なれるかも しれません。

 人の やくに 立てるかも しれません。

 かくさんした ココロの たねたち。

 どうか わるい ココロに ならないで。


                                   了

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