第8話 電話
短縮の日から数日が過ぎ、体調を完全に回復させた私は居間の机でパソコンと向き合い仕事をしていた。
もともとは通勤する会社員だったのだが、数年前に在宅でできる仕事に変更した。とはいっても前職とほぼ同じような内容なため仕事場が変わっただけに過ぎない。通勤時間が省けたので今のほうが仕事により精を出せている気もする。
時間は昼に差し掛かり、昼食を作ろうと立ち上がったときに電話が鳴った。会社からかと思い画面を見るとその電話は中学校からのものだった。
「お忙しいところ失礼します。祐輔くんの担任の大西です」
「いつもお世話になっております」
学校から電話がかかってくるなんて。まして担任の先生が昼間の休憩時間にかけてくるなんて何かあったに違いない。
「学校で何かありましたか?」
「実は祐輔くんが志望校を変えると言っていたのですが、理由は教えてくれないので親御さんなら何か聞いているかと思い連絡した次第です」
「え……」
思わず声が出る。
祐輔くんが志望校を変える? あれだけ頑張ってたのに? どうして?
頭の中で複数の疑問が目まぐるしく動き回っている。
なによりも驚いたことは私は何一つ知らなかったことだ。大西先生がこうして電話してこなければ受験ぎりぎりまで知ることがなかったかもしれない。
「ご存じなかったんですね」
「はい、何も聞かされていません。まさかそんなことになっていたなんて。家では普段通りだったので気がつきませんでした」
そう。本当に普段通りだった。
志望校で悩む様子もなかったし、家では受験勉強を続けている。
「夏からここまで志望校合格に向けて頑張っていたのを知っていたし、部活の顧問としてもやはり彼にはレベルの高い高校で切磋琢磨したその雄姿を見せてほしかったので残念というか……。最近は勉強のために練習への参加は極力控えさせていましたが、夏まではそれはもう真剣に参加していて彼がいることで後輩たちもやる気十分って感じで」
大西先生は祐輔くんの部活の顧問もしているため、受験に関しての入れ込み具合が凄まじい。夏休み明けの面談のときもこんな感じだった。
「すみません、話がずれてしまいましたね。私では志望校を変更した理由を聞けなかったので、親御さんにご協力をお願いしたいと思っています」
「わかりました。帰ってきたら聞いてみます。私も何も知らないままなのは嫌なので。わざわざお電話までしていただいて本当にありがとうございました」
電話を終えた私は仕事のために机に向かうも、先生から聞いた祐輔くんの受験のことが過って身が入らなかった。
生きた手紙と残された親子 りさとりり @risato_riri
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