#拡散希望の鉢植え

雷炎

#拡散希望


【この鉢植えに同封の紙に何か書いて植えると書かれたことが瞬く間に世界中に拡散されます】


物凄く胡散臭い鉢植えを貰った。


きっかけは昨晩の事だ。愛すべき我が家へと続く帰路を歩んでいると。道端に妙に胡散臭い妖気のようなものを放出する占い師が居た。

昨晩の私はひどく酔っており、好奇心アルコールが理性を押しのけてその占い師の前にふらりと立ち寄ってしまったのだ。

なんでもその占い師はその場にある道具を使う範囲なら大体の占いは出来るという。勿論それは私の持ち物でもいいと言うのだ。


ならば試しと私は手持ちのスマホを突き出してこれで占ってみろとほざいたのだ。


するとフードを深くかぶっており性別すら定かではない占い師はコクリと頷き「では画面の傷で占いましょう」と言った。


この時点でようやく相手が女性だと気付いた私はその美声もあってVtuberでも見ている気分で占ってもらった。

しきりにペンライトを当てて画面の傷を見分する姿は見た目とのギャップから非常にシュールで胡散臭かったが、アルコールに支配された私にとってはそれすら謎の上機嫌を齎すスパイスに過ぎなかった。


「貴方、とても素晴らしい物をお持ちの様ですね」


素晴らしい物って何だよ素晴らしい物って、もっと具体的に言えよ。


「貴方の持つそれは世間に知れ渡れば大きな波紋を呼び、大成功するでしょう」


この時点で私は思った。「あ、これ詐欺だ」と


「ですがそれは今はだれの目にも止まらない。…そこで貴方にはこれ、【拡散する種と鉢植え】お値段たったの三万円」


「それではこれにて失礼、占い代五百円置いときますね」


「待って」


すたこらさっさと我が家に逃げ帰ってみれば玄関に鉢植えと紙束の入った封筒が置かれていた。薄気味悪いがさっさと寝たかったので寝床に着き、朝起きてみればこれがあったというわけだ。


【この鉢植えに同封の紙に何か書いて植えると書かれたことが瞬く間に世界中に拡散されます】

何度見ても恐ろしく胡散臭いこんな文言であるが、悲しいかな。こんな物でも好奇心は掻き立てられてしまう。

封筒に入った拡散の種は計五枚。もしこれが本当なら所謂お試しセットなのだろう。


確かめるためにどうしようかと悩んだ挙句、我が家のお猫様にお願いすることにした。

名を、ヨモギ入りわらび餅大福2世と言う。黄身がかった体毛に薄緑のぶち猫という世にも奇妙なお猫様だが、そのわらび餅の如くだらけきった姿は大変愛らしく可愛らしい。このお猫様を世に知らしめぬのは正しく世界にとって損失だろう。

嘘でも本当でも構わぬと、私は拡散の種に【ヨモギ入りわらび餅大福2世】と書いて鉢に植える。必要か分からないが軽く水をやって様子を見るとしよう。


~翌日~


「まじか」


私の使用しているSNSでヨモギ入りわらび餅大福2世が大いにバズっていた。


「いやこれマジで本物なのかい」


みればどこぞのお菓子作りを生業とする輩がヨモギ入りわらび餅大福2世をモチーフにしたヨモギ入りわらび餅大福を作成して画像をアップしている。なんだこれ美味しそう。しかもかわいい。


本物だ。あの余りに胡散臭い鉢植えセットは本物だった。


こうなると俄然残りの四枚を如何に使うかが肝になる。あんな胡散臭い占い師とは二度と巡り合う気は無く、次に合ったら何を吹っ掛けられるか分かった物じゃない。故に、私はこの四枚をフル活用すると誓った。


とはいったものの、有効的な使い方が微塵も思いつかない。言ってしまえばこれは流行を作れる道具だ。使いようによっては悪用し放題だ。

兎も角、使い道はよく考えて使おう。


~~~


───その場のノリで三枚使った…


「馬鹿なのか!? 馬鹿だろ私!!」


二枚目は一押しのクレープ屋の宣伝に。

三枚目は大好きな漫画の続編希望に。

四枚目は偶々見つけた無名の絵師の布教に。


不思議と後悔は無かった。序にその絵師は次のコミケで壁サークルになったとのこと。私の目に狂いは無かった。


残った最後の一枚。これをどうしようかと酷く悩んだ。刹那的な使い方をするのに最後の一枚は惜しすぎた。

悩み悩んでそれか一週間後の事、悩み疲れてアルコールn力を借りて泥酔する最中、私は天啓を得てソレを拡散の種に書いて鉢に植えた。












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#拡散希望

【書いた物を鉢に植えると拡散する種】

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