一時の過ち
アリエッティ
名も無き種
「おめでとう御座います、元気な男の子ですよ?」
「あ..あ...!」
打ちひしがれる程嬉しかった。
やっと出来た子は男の子で、涙を流しながら何故だか笑っていた。
しかしそれも束の間の悦び。
「..どういう事ですか?」
「ですから言葉の通りです。泣かずに笑って生まれてきたでしょ?
それが〝ソレ〟の特徴なんですよ」
衝撃を受けた、まさかこの子が..。
「名前はこちらで付けさせて頂きますそうですね〝
「そんな...うそ..。」
「残念ですが、受け入れて下さい」
TKNB《トリッキーネームバリュー》
キラキラネームを付けなければ呼吸が出来ない特異体質を持って産まれてきた赤ん坊の総称だ。
「心の痛む言い方ですが、貴方だけの問題では無いんですよ。」
厄介なのはこれが伝染する事、病院内で一人が発症すれば、同時に大きな範囲で胎児に感染する。
「今日はキラキラネームが沢山誕生しました。
「……。」
事実は事実、揺るぎない本当だ。
受け入れて頷くしか他に方法は無い。
あれから刻は立ち俺は高校生になった
母さんは今だに謝罪を繰り返し偶に泣いているが、正直違和感は薄れてしまってきている。
そりゃ苦労はあった、初めは随分馬鹿にされたよ。帝と書いて〝カイザー〟だからな、大問題だ。
しかし種が拡散された事でそれも目立たなくなった。何しろ俺の同級生は皆キラキラしている。
円城寺
清水川
大丘
打出
圧乃間
吠鳴無
血溜
真紅
混沌
田中
掘進
羽馬滝
昇利
風見
噛真瀬
穿角
眼ヶ石
佐藤
平和守
大地
奏
斎藤
宮下
野崎
駒井
荒川
池味
端谷
光
髙木
壁井
水戸
孔座
能登
尾白
後似
黒見
そして皇野
「まったく参るよなぁ..」
俺という種が周囲をこうしちまった。
イジメやちょっかいを出されるのは決まって名前が普通の奴、目立つから腹が立つらしい。
「てめぇ生意気なんだよ!」
ほら、いってる側から田中一郎が目を付けられてる。
「お前何でそんな変わった名前なんだよ、恥ずかしくねぇのかぁ!?」
「ふ、普通だよ..。」
「ああ⁉︎」
その通り、普通の名前だがわからんだろうな。しかし俺は知っている。
「別のクラスもブチギレてんのよ、なぁトーフにヒキニク。」
「当たり前よ」「変な名前だぜ!」
「誰が言ってんだ。」
麻婆豆腐でも作るのか?
「まったく..」
このように、世界の常識までも変えてしまった。キラキラしていたものが普通に、普通がキラキラするように。
「嫌な世界になったもんだぜ。」
親に代わって今度は俺が頭を下げて謝罪して回る事になるのか?
「本来親が付けた名前じゃねぇ、なら取り戻すべきだ。本当の名を」
彼は決意した、親が本来付ける筈の名を取り返す事を。
たとえ呼吸が止まり、苦しむことになったとしても。
一時の過ち アリエッティ @56513
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