夢の種畑のはなし

林きつね

夢の種畑のはなし

 種を植えています。

 これは、夢の種です。ここには幾千、幾万、幾億もの種が地面に埋まっています。

 飼育方法ですか? 何もしなくていいですよ。ただ、待てばいいんです。

 肥料も水もいりません。言ったでしょう? これは、夢の種だと。

 つまりここには、人の夢の数だけの種が埋まっているんです。

 例えば、あそこにある雲の上まで貫いている、茎。肉眼では到底見えませんが、暇な時にヘリコプターでも使って上まで言ってみといいでしょう。

 見たこともないような、立派な花が咲いています。ええ、夢の花です。

 夢が大きければ大きいほど、アレのように見事な花が咲くんですよ。

 ああ、あの花はどんな夢の花ですかって?

『世界制服』です。

 ははは、そんな顔をしないで。僕にだってそれが無理なことぐらいわかっていますよ。けれど、そうは思ってない人がいる。本気でそんなことを考えている人がいる。だから、あの花は咲いているんです。

 誰かが夢を持った時、夢の種は芽吹くんです。そして、夢が叶うと、その花は枯れて散る。そして、周りに新しい種をばらまくんです。

 いいですよね、夢。夢は拡散する。誰かが誰かに影響を受けて、また誰に広まっていく――。その素晴らしさを僕は心から敬っている。だから、私はこの畑の管理人という仕事についているんですよ。


 ――話が逸れました。

 大きい夢の花は大きい。つまり、小さい夢の花は小さいんです。

 ほら、足元を見てください。その可愛らしい黄色の花は、『スイカを食べたい』という夢の花です。

 今は冬なので、あと数ヶ月は咲き続けているでしょう。

 夢によっては、咲いた瞬間枯れてしまう物もあります。ああ、せっかくだから、花が枯れる所を見ていきますか? 中々に幻想的ですよ。

 もうすぐ枯れそうな花はこっちの方です。――え、どうしてわかるのか、ですか?

 そうですねえ、勘、ですかね。経験で、わかるようになるんですよ。ああ、これです。


 これは、『楽しいことがしたい』という夢の花ですね。学生さんでしょうか。ただでさえ刺激を最も求める時期に、勉強という縛りのおかげでで、漠然としていてもこうして花を咲かせる夢にまでなるんですよ。

 さて、瞬きはしないでくださいね。さん、にい、いち――――。


 どうです? 綺麗でしょう。

 まるで色つきの雨が逆さまに降っているみたいで。

 ええ、あの光の玉が、新しい夢の種です。この夢を叶えた人が撒いた、夢のきっかけ。この畑のどこかに埋まって、そしていつか芽吹く――芽吹かないかもしれませんが。

 それもまた、人生なのかもしれませんね。――ええ、言ってみたかっただけです。


 ああ、そうそう。面白い花があるんですよ。

 この僕の膝下ぐらいあるの赤い花、これは、『家族に愛されたい』という夢の花です。

 この花はね、枯れてはまた生えてきてを繰り返しているんですよ。

 愛された。けれど、愛されなくなってしまった、あるいはまた愛されているかどうか不安になってしまった。そしてずっと繰り返し繰り返し咲いて枯れてを繰り返しているんです。

 きっと、家族のことを放ったらかしにしてる父親の夢でしょうね。けれど、どこか憎めない人物でもあって、家族の方も愛想が尽きたり、やっぱり好きだったり、面白いでしょう?

 そしてそれよりも少し背が高いこの紫色の花。これはね、『家族に愛されたい』夢の花が枯れると、少し時間を置いて同じように枯れるんです。

 そして、『家族に愛されたい』花が生えてくると、またしばらくして生えてくるんです。

 この花の夢を持つ人はきっと、この隣の方の夢が叶うことが、夢なんでしょうね。

 ただひたむきに、『好きな人の幸せを願う』夢の花です。

 花の大きさは、夢そのものの大きさではなく、想いの強さでも変わります。

 ええ、きっと、この父親は、幸せものなのでしょうね。


 ――おっと、そうでした。そろそろあなたの要件を果たさなくては。

 あなたは、ご自分の夢を叶えるためにここにいらした。

 ええ、ええ。覚えていますとも。

『人の夢を潰したい』

 それが、あなたの夢でしたね。

 驚きません。時々いるんですよ、そういう人も。

 人の夢が与えるのは、輝かしい夢ではない。妬み、嫉み――そういった黒い感情も、おなじように撒いてしまう。


 やり方は簡単です。この辺りに生えている花どれでも、プチッと折ってしまえばいい。すると、まるで泥みたいに消えて、その夢はもう絶対に叶わなくなりますから。

 ええ、どれでもいいですよ。なんならあの『世界征服』の夢の花なんてどうです? あなたの夢が叶うと同時に、一応は世界を救ったことになります。ただまあ、一ヶ月はかかるでしょうが。

 ははは、それはこまりますか。この辺りの花にしておきましょう。

 さっき私が紹介した花は、できれば勘弁して欲しいですね。さすがに少し嫌な気分になってしまう。

 ――おお、それですか。では思う存分どうぞ。


 おめでとうございます。あなたの夢は、これで叶いました。

 あっちの方で一本、種を撒いて枯れた花が見えましたよ。

 ああ、とても大きくて綺麗な花で、気に入ってたんですがね。

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夢の種畑のはなし 林きつね @kitanaimtona

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