種の拡散

もえすとろ

拡散する種

自然界に於いて、弱肉強食は当たり前だった


適応できない弱者は淘汰され


強い個体のみが生き残る


それこそが自然の摂理だ






そんな話は……既に過去の物となっていた


あらゆる生物は、自身の望んだ通りの進化を遂げる


が発生した


ある弱者は、その体の小ささから捕食されるのが当たり前だった

ならば、大きな体を手に入れれば捕食される側からする側へと


またある弱者は、飛ぶ事のできないせいで獲物とされてきた

ならば、翼を持って空を駆けることで獲物にならないように




そして……そんな自然界の弱者に牙を剥けられ、進化した新たな弱者がいた



その種は、かつて全ての種の頂点にあり

智慧を駆使し難題を解決し

理性と手に入れ、本能以外の感性で動く


ニンゲンだ


ニンゲンは、世界の変化に適応せず怠惰に傲慢に武器と智慧で頂点であり続けようとした


そんな事ができるはずもないのに……




ニンゲンにとって、足で踏み潰せば殺せるはずの蟻が巨大化し


空を飛ぶ見たことも無い生物に襲われる危険性に怯える




ここに来て、やっとニンゲンは気付いたのだ


『自分達は、弱者だ』と


かつて、武器を手にあらゆる生物の頂点に君臨していたニンゲンは

その武器が通じない、新たな種によってその地位から落とされた


金属製だろと、蟻の持つ酸は溶かし

コンクリートは顎で破砕され

銃火器で対抗しようにも、その硬質な体は弾丸を弾く


その結果、地上の住処を追われ上空へ脱出しようとしたニンゲンは


そこには既に覇者がいたのを、知らなかった



空の覇者は、高高度だろうと自由に飛べてしまう

それは、ニンゲンが頼ってきた兵器をも凌駕していた

機械には真似できないしなやかな動きや

あらゆる攻撃を察知し、本能的に回避する生存本能


その全てがニンゲンの上をゆく


ならばと最後の希望、海上へ向かったが



そこは、地上や上空以上に危険地帯だった



ある魚は巨大化し海中生物最大だったクジラを超え

ある魚は、食べられない様に全身を刃物のように進化した


蟹は高速で移動し、海老はその体をより強固にした




しかし……

そんな世界の変化に、ニンゲンは適応しようとしなかった

智慧が、理性が、邪魔をする


自分はニンゲンである


その意識が、進化を邪魔し衰退の一途をたどっていると知りながら





ニンゲンの数は日に日に減っていった



そして、一定数以下になった時

ニンゲンの中にも、進化する者が現れ始めた


巨大蟻に怯えた人間は、酸も牙も聞かない皮膚を手にした


上空の覇者から空を取り戻したいニンゲンは、翼を手にした


そんな一部の元ニンゲンという種は、次第に世界各地へ広がっていった


進化を拒み、淘汰されたニンゲンはいつしか旧種と呼ばれ


進化を受け入れ、より適応能力の高いニンゲンは新種と自称した


ニンゲンはまた世界の種の頂点を奪還しようと決意した


そして、それを可能にする能力もニンゲンには備わっていた


ニンゲンの進化は、他の生物とは違ったのだ



他の生物は、自身の弱点を補うの進化だった

それに対して、ニンゲンは自身の住む環境にいる他の生物に対して強く進化した


そう、ニンゲンの進化は決して一通りではなく


その生育環境や状況に応じて、あらゆる進化を手にしたのだ



全ては、ニンゲンという種の存続の為に




新種のニンゲンは、次第にその勢力を伸ばし


姿の違う新種同士の子孫が産まれ、その子どもはまた新たな姿を手に入れた



そして、新種のニンゲンは世界の頂点を奪還するのだった


手した新しい武器・を駆使し、旧種とは違う姿をして



そして、進化期が終わりを告げ適応できた種のみが生き残った世界


そこには旧種の姿は無くなっていた


適応できた新種のニンゲンによる国家と、危険な進化を遂げた外敵


外敵から身を守る為、適した進化をした者が防衛担当することで


ニンゲンにとって平和な時代がやっと訪れようとしていた




進化の仕方が拡散したニンゲンという種は、また一つになろうと奮起する


そんな危機を乗り越えた彼ら新種の元へ、新たな脅威が近づいていた



空の上の宙から


遥か過去に宙へと避難した旧種のニンゲンたちが、戻ってくる


果たして旧種と新種、分かり合う事はできるのか……





それは、まだ誰にも分からない

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

種の拡散 もえすとろ @moestro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ