「むぅー! なんなのアイツぅ!」
とざきとおる
く……また私を馬鹿にしてぇ!
17歳の誕生日は今までとちょっと違う。
これまでも私は結構恵まれている方で、孤児院で暮らしていた頃の仲間と一緒に仕事をすることができたから、誕生日も祝ってもらえたし、それはとても嬉しかった。
しかし、今回は、それに加えて、今まで分け合って離れ離れになっていた彼が一緒に祝ってくれるのだ。
それがとても楽しみだった。
「ふぎゅ」
「どうした? 誕生日だから徹底的にかまってやるって昨日言っただろう」
確かに昨日それを望んだのは私だ。
でも、だからって朝から、ふかふかのあったかいお布団で得た体温を冷水でリセットするという所業はひどくない?
「ていうか、かまってほしいってそういうことじゃない!」
「なんだ。じゃあ、やめる」
「なによぉ、もっとあるでしょ。一日私の話し相手になってくれるとか」
「忙しいからやだ」
「私にプレゼント買いたいから一緒に買いに行こうとか」
「お金がもったいない」
……もう、なんなのこいつぅ!
彼は私の恋人。向こうもそれを認めている。しかし彼は私を恋人とは思っていないようで、いつも意地悪ばかりしてくる。
少しは私の願いを聞いてくれたっていいじゃない。
「ほら起きろ。今日は俺がご飯作ってやるからな」
「ほんと!」
「……ああ」
うわあ、とても悪い顔をしてる。
嫌な予感を持ったまま、彼について行くことに。
ほっぺをつねられて、『おお、もちもちしてるな、太ったか?』という大変ひどい言葉をもらって向かった先は。
農場?
そう思ったら、彼は1つの袋を私に渡した。
「これ何?」
「野菜の種。お前俺の作るスープが好きだろ?」
「うん」
「育てるど」
――はぁ?
「ちょっと待って、ちょっと待って。私今日誕生日だよ?」
「うん。だからスープを作ってやる」
「それは嬉しいけど……種から」
「投げるだけで後は勝手に生えてくる。でも綺麗に、種が広がるように投げろよ?」
まさか、野菜を1から育てようというのか。そんなの誕生日も何も関係なくない?
まさか。
私の誕生日ってそんなに価値のないものなの?
「奨」
「ん?」
「ひどい。私せっかく奨が祝ってくれると思ったのに」
頬を一杯膨らませて、怒った顔を彼に見せる。
でも彼は、
「かわいいなお前。小動物みたいに」
と私を小馬鹿にして、空気を入れて風船となっている私の頬をぷちゅっと潰して私に堂々と語り掛ける。
「だってつまらんだろう。物を送るだけじゃ」
「でも、これじゃ、誕生日にスープできるの一年後じゃない」
「それでいいんじゃないか?」
「はぁ?」
彼は清々しい笑顔で答える。
「恋人からの誕生日プレゼントは特別じゃないくちゃな。だったらただ作るんじゃもったいない。2人で共同作業で、共同作業で作った野菜で作ればおいしさはもっと大きくなるとは思わないか?」
常人では考え付かないよそんなこと。
「それは……」
「それにこうしとけば……少なくとも来年までは、一緒に居られる。ってことだ。これを毎年やっていけば、俺達はずっと一緒にいられる。まあ、そんなことも少し考えたりしてた」
……恥ずかしがらずによくもまあそんなことを言えるわね。
しかし、実は私も人のことは言えない。
こんなことで、内心、ちょっと嬉しかった。
乙女心が欠片も分からないこの男でも、少なくとも嘘や見栄を張る嘘つきよりは全然いいと思うし、私はそこが好きになってしまったのだ。
「よし、種まくか」
「うん」
私は渡された種を拡散させる。均等に着地するように投げまいた。
「お前ぇ……何してんだ?」
「え?」
「投げてまく種なんかあるか。ほら拾ってこい。もったいないだろ」
「はぁ?」
もう、なんなのこいつぅ!
でも、そんな飽きないところも好きだったりする。
「むぅー! なんなのアイツぅ!」 とざきとおる @femania
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