世界の終わりから始める物語
佐倉シエスタ
始まり0. 始まりと終わりの狭間で
この音はなんだろう、この臭いは何だろう?嗅いだことのない音と不快な音。
混乱の声と大きな泣き声、これは映画の中の物語?それとも夢か現実か?
誰に聞いても誰も答えられないだろう
皆が知っていて、みんなが知らない
ゾンビ物の映画。
本当にそんな感じ
だって食べているんだもの、人が人を…
違うのは食べられた人みんなが動くんじゃないって事、ゾンビの中ですら弱肉強食
そのまま食べられて動かなくなる人もいれば、噛まれてすぐに奇声をあげて奇行に出る者
普通にしゃべってる人もいる、あの人はもうゾンビなの?それともまだ人間?
誰も答えられない誰も知らない
何が始まりか、どこから来たのか、なんなのか、誰にもわかりはしない
私は彼氏とショッピングモールにデートに来ていた
どこからともなく叫び声が聞こえて、館内放送で…それから血の海で
彼とつないでた手にはいつの間にか知らない肉片。
怖くて気持ち悪くて振り払った、お揃いの指輪がついた”アノ手”
この建物から出たいけど、出たところでもう世界は壊れちゃっているのかもね
「ママーーイタイ!!ママ!!痛いよ!!マ!!!……い」
子供の声、嫌な音、嫌な臭い、怖い色
君のママはもうダメになってるよ、だってそんな色の人間なんて見たことない
「愛してるって言ったのに!愛してるって!いったのに!!!愛してるって!!あい」
ああ、あの人はおかしくなってる人、もうソレだけど何かに怒っているみたい
変なの、その手に抱いてるのはもうなんだかわからない
嫌な色の嫌な臭い、気持ち悪い
映画のゾンビを思い出してみるけどあまり映画を見てない私には知識がない
無条件で襲ってくるイメージがあったけど、意外に平気みたい
普通に歩けてる、時々”普通”にも話しかけられるけどもう私はいいや
最初は必死に話しかけてくるけど、無視してるとそのまま静かになってどこかにいく
私は周囲を見渡しつつ出口に向かう
(なんか爆発とかしてたりするイメージだったけど…)
気持ち悪い音とキツイ臭いはするものの特に普段のショッピングモールと変わらない
むしろ、土日のセールの日とか夏休みだとかのがもっとうるさいし、もっと人もいる気がする…なんて少し笑えて来る
エスカレーターやエレベーターなどは”破片”で止まってしまってる
どかしたらもしかしたら動くかもだけど、手にこれ以上”赤”がつくのはいやだなって階段を使うことにした
なにかを唱えながら歩いてる人や、ずっと壁に向かって歩いてる人
写真をずっと同じ場所で動かないそれを撮ってる人
散らばった”破片”を食べてる人、ソファーで寝てる人などその人その人色々違うのね
生きてるものに両手を前にして「うーーー」とか「あーーーー」とか言いながらって光景では一切ない。
そんな風に周囲を見渡しながら、”破片”をよけたりしながらやっとで外に出ることができた
やはり出入り口には人が多くて困ったけど、やっとって感じ…。
外に出ると目に入ったのは車からの黒煙、サイレンの音、空を無数に飛ぶヘリ…なんだ、結構映画と同じじゃんなんて思った
なんて思ったその刹那、車がこちらに突っ込んできた
身体は宙を舞い、その瞬間がスローモーションに見えた
(本当に、ゆっくりに感じるモノなんだ)
これは驚き、そして発見、なんて思いながら私の身体は嫌な音を立ててアスファルトに着地した
身体がしびれる様な感覚と目の前がチカチカと色々な色が見えた
私を轢いた車は何の店かわからない建物に突っ込んでみるからに”終わって”いた
しびれる身体を地面からはがすように起き上がった
私の左手は私の身体についてきてはくれずにその場に残っていた
彼と同じの指輪を付けた大切な左手なのに…
思ったより頭がぼやけるのでその場に一度座り込んだ。
こんなに普通の日なのに、なんでこんなになってしまったのだろう
私は彼に前から行きたかったカフェに連れて行ってとおねだりして
彼と一緒に本屋や服とか見て、そういえば映画のチケットも買ったままだった
勿体ないな、払い戻しなんて…もうできないよね
私は自分の中に残る彼のぬくもりを抱きしめる様に身体を縮めた
これからどうしよう…
お腹減ったな、さっき”食べた”ばかりなのにね
左手があった場所からは”赤”が止まらない
でも、少し気持ちいいかも
お腹をさすりながら空を見上げた
「これが世界の終わりかぁ」
あまりにあっけない、あまりにむなしい
もしかしたらあのゾンビの映画の様にこの世界を救ってくれる主人公が来るのかもしれない?
それともこの世界には爆弾が落とされて皆生きてる人もゾンビになった人も焼かれちゃうのかな?
「あまりにあっけない」
私は笑う。私は彼の名前を呟く。私は笑う。私は彼の名前を呟く
私は笑う。私は彼の名前を呟く。私はわわう。私は彼の名前をぶぶやく
わでひはわだう、彼の名前をずふだく。わかじがわがう、わがしはがれのだまえをづぶわく
私は…私は…………私は…誰?
世界の終わりから始める物語 佐倉シエスタ @096kuro
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。世界の終わりから始める物語の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます