なんでもかんでもシェアリングSNS

ちびまるフォイ

自分だけのもの

「お代はいりません」


「……え?」


レジでお財布を出したところまで行って耳を疑った。


「あなたもシェアリングSNSに加入されているんですよね」


「え、ええ」


「でしたら、これも天下の周りものです。

 大事なのはみんなで必要なぶんを必要だけシェアできるんです」


「はあ……」


そのときは意味がわからなかったが、

このことを友だちに話してからやっと自分の中で消化できた。


「え、あんたシェアリングSNSがなにかわからずに入ったの?」


「なんか勧められたから……」

「悪徳商法に騙される客の言い分じゃん」


友達は呆れていた。


「シェアリングSNSに入っていればすべて共有財産。

 みんなでシェアできるようになるのよ。物もお金も」


「ああ、それでバカ高い入会料がかかったのね」

「バカ高い入会料をよくわからず払ったんだ……」


意味がわかると使い方もだんだん理解できるようになった。

あれほど入手困難だと思っていたコンサートのチケットも簡単に手に入る。

品切れだと思っていたマスクも手に入るので生活には不便しなくなった。


「シェアするってこんなに素晴らしいことなんだ!」


誰かが買ったものを、誰かが使う。

まるで家族共通の冷蔵庫でも使っているような感覚。


誰かが補充してくれるものを私が使い。

誰かが使うかもと思って私が補充する。


見えない助け合いの手がつながっている気がした。


「最近、あんたなんかキラキラしはじめたね」


「あ、そう? わかる? 今までプチプラだったけど

 シェアできるようになってたくさんいい物も使えるようになったの」


「それにその宝石どうしたの?」

「シェアしちゃった♪ 借りてるだけね」


私の変化は周りにもいい影響を与えていた。

これまで必死にモーションかけていた憧れの先輩に呼び出された。


「……なんか、最近お前のことばっかり考えちまって……好きなのかなって」


「私も好きです!!」


食い気味のYESで私は女友達を大きく離して彼氏をゲット。

これから「私のカレピッピが」などと歯の浮くようなのろけ話を聞かせることができる。


と、ニヨニヨしていた翌日にはカレピッピの浮気が発覚した。


「ちょっと! なんで私の知らない女と歩いてるのよ!!」


「そんなに怒るなよ……いったい何が問題だってんだ」


「問題もなにも! 彼女になった翌日に浮気するってどういう神経?!」


「いや、俺もシェアされてるから」

「はあ!?」


彼氏と腕を組んでいた知らない女は悪びれる顔もせずに答えた。


「あなたもシェアリングSNSに入っているんでしょ?

 なら、あなたの所有物はすべてシェアされるに決まってるじゃない」


「そんな……!」


「シェアリングSNSの加入者に彼氏持ちがいなかったけど

 あなたが彼氏を連れてきてくれたから本当に助かったわ」


「ちょっと! 私の彼氏に近寄らないで!」

「あんたこそ! 今はこっちがシェアしてるのよ!」


「女の子同士で喧嘩するなよ……」


「どっちの味方なのよ?!」


最短交際期間1日という新レコードを叩き出して破局した。

絵になる落ち込み方をしようと夜の海でたそがれることにした。


「男なんて……男なんて……」


さめざめと泣いていると、それを慰めるように男がやってきた。

ふうふうと肩で息をしながらアニメキャラがプリントされたパッツパツのTシャツを着ている。


「あ、あの。あなた、彼女になったんですよね。

 ってことは、あれですよね。僕にもシェア権利があるってことですよね。

 だれかの彼女ってことは、僕の女でもあるってことですから」


「も、もう彼女じゃないです!!!」


私は海に飛び込むと沖を超えて海峡を泳いで渡り対岸の島へと逃げ延びた。

誰かのものになるということがこんなにも怖いとは思わなかった。

関係ないけど「俺の女」という表現が嫌い。


「私は誰のものでもない! 私は私よ!」


私はやっぱりバカ高い解約料金を払い複雑怪奇な手順を経て、

ついにシェアリングSNSからの脱却に成功した。


「これからは誰かに依存することなく、私が私らしく生きていこう!」


そして、私は自分の道を歩み始めた。

この体験は自分の中でも大きな転換期となり、就職面接でアピールするエピソードのひとつとなった。


「……という経験から、私は自分の選択に自信を責任を持つようになったんです!」


「それは素晴らしい!!」


面接官はひとしきりのエピソードを聞き、万来の拍手を送った。

私は誇らしかった。


「君は採用です。これからうちの会社で頑張ってください」


「ありがとうございます!!」


私は深々と頭を下げた。

面接官はにこりと笑って付け加えた。




「それじゃ社員になったので、社内用シェアリングSNSに入ってください。

 あなたの経験や持ち物やあらゆる知識はすべて会社でシェアしますね。

 そしてあなたは会社からシェアされたものだけで生きていってください」

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