1話 3年ぶりの学校
起床し徐(おもむろ)にスマホを開く。現在の時刻と4月6日という日付が画面に表示される。
「はぁ……。寮生活になるし今日でしばらくこの家ともお別れか」
流川涼人(るかわすずと)はため息をこぼしながら朝の支度を開始した。
がっちりとした体格に生気の宿っていないような目。この少年は小学6年生のころに人を殺め、中学校に通うはずだった3年間を、少年院の中で過ごした。少年は進学を考えていたが、もちろんそんな人間を普通の高校が受け入れてくれるはずもなく進学をあきらめようとしていたが、姉の紹介で軍事学校に推薦入学することができた。
「いざ学校に行くとなるとなんか……やだなぁ」
重い体に鞭を打ち、何とか朝の支度を終了させて登校を開始した。
学校に到着すると周りには同じ制服をきた人たちがたくさんいる。みんなおんなじ服装……なんだけど。
「制服とかカバンから見えまくってんなー。ナイフやら拳銃やら。やっぱり普通の学校とは違うな」
まぁ俺も腰に学校から支給されたサーベルナイフをぶら下げているわけだが。
校門の前に貼ってあったクラス分けの表で指定された教室に入る。周りを見渡すと、みんな自己紹介をしている様子だった。
「俺に人付き合いは無理だな……寝るか」
学校の机の寝心地の良さを堪能していると、先生らしき人が入ってきた。
「皆さん初めまして。これから1年間みなさんの担任になる小桜芽生(こざくらめい)です。よろしくおねがいしますね。早速ですが入学式があるので体育館まで移動をお願いします」
体育館まで移動して入学式が始まった。校長の長い話を聞いた後生徒代表として、俺の見慣れた人物が舞台に上がった。
「新入生のみなさん、入学おめでとうございます。私は生徒会長の流川涼音(るかわすずね)です。皆さんにもそうですがこの学校内にいる人には絶対右の腕の部分に星のマークがついていて身分によって分かれています。生徒は青、先生は赤、それ以外の方は白です。この学校の敷地内にいる方は必ずこのマークがついている服を着用しているので、わからないことがあったらその人たちに何でも聞いてくださいね」
その後無事入学式は終了し教室に戻された。
「今日は授業がないのでこれで終了です。最後に明日からはペアで行動することが多くなっていくので男女で2人1組のペアを組んだ人から下校してください」
――ペアを組む。それは俺のようなコミュニケーションが苦手ないわゆる『コミュ障』と呼ばれる者たちにとってはほぼ不可能と言われる行為だ。
「これ……やばくね?」
そう焦っているうちにいつの間にか教室には俺を含め2人しか残っていなかった。
「どうやって話しかけよう……」
俺が悩んでいると向こうから話しかけてきてくれた。
「ペアってことで。じゃあよろしく」
「あ、ああよろしく」
軽い挨拶を済ませると彼女はそそくさと教室を出て行ってしまった。
「とりあえず、学校の敷地内でも探検しに行ってみるかな」
俺はとりあえず寮に行き部屋を確認した後学校の中を探検してみることにした。この学校は寮の他にも商業施設や娯楽施設などもあり、一つの街として成り立っているようだった。敷地も広く、全部を回り終えたころにはすっかりあたりは暗くなり、人気もなくなっていた。
「すっかり暗くなっちゃったな。そろそろ寮に戻るか」
帰ろうと一歩踏み出したときその一歩は壁に阻まれた。何にぶつかったか確認するために前を見るとそこには、到底日本人とは思えないほど体格のいい男がいた。
「す、すみません。前を見ていなくて」
とっさに謝ったもののその男から返答はなかった。
「あの、大丈夫ですか?」
とりあえず相手の身分を確認しようと右腕を確認する。だが、そこに星のマークは無くその手のひらには小型のナイフが握られ、ポケットには小型の銃らしきものが入っていた。
俺は身の危険を感じ、後ろに下がり距離を取ろうとした。だが、前にいる男と全く同じ服装、体格、装備の人に行く手を阻まれる。それどころか左右にも同様の人物がおり、いつの間にか俺は囲まれていた。
「やるしかないか……」
俺は腰にぶら下げていたサーベルナイフに手をかけ、開戦の狼煙を上げるといわんばかりに目の前の男の首をはねた。振りぬいたナイフの遠心力を使い90度方向転換をした俺は右から詰めてくる男の心臓付近に思いっきりナイフを突き刺し、逆手に持ち替え思いっきり引き抜きその反動で左からくる男の首をはねた
「お前ら、見た目のわりに弱いな」
やはり相手は言葉を返す気がない。それどころか体を刺されても痛いとも言わないし仲間が死んでも悲しいとも思わない。
「お前ら本当に人間か?」
そう残った最後の一人に質問を投げかけてるとき脇腹に鋭い痛みが走った。後ろを振り返ってみると、さっき首をはねたはずの男がナイフを俺に突き刺していた。
「クッソ……痛ってぇなぁ!」
そう叫びながら蹴り飛ばすと、男が後ろに飛ぶとともにナイフも抜け大量の出血が始まる。生まれて初めて感じる強烈な痛みに俺は思わず膝をつく。
――これは本当にまずいかもしれない。
静寂に包まれる空間。眼前に広がるのは血の海。
先ほどまで深くナイフが刺さっていた場所からは強烈な痛みと共に絶えず命が噴き出ている。
全身を強い脱力感が襲い呼吸をすることすらままならない。
俺は残った力を使い周囲の状況を確認する。
男が4人。1人はこちらにむけて銃を構え、さっき殺したはずの3人もなぜか普通に動いている。
――これは詰んだな。
力を使い果たした俺はあきらめるかのように地面に倒れこむ。
それとほぼ同時に発砲音が、静寂を打ち破る。
銃弾は軌道を変えることもなくこちらの眉間を目掛けて一直線に飛んでくる。
耐え難い現実に直面した時、人間の脳はその状況を自分に都合がいいように解釈する。
――いっそのことこのゴミみたいな人生を終わらせて『普通の人』に生まれたほうがいい。
などという考えがよぎり本格的に死を覚悟したその刹那。
大きい金属音と共に俺にあたるはずだった銃弾は明後日の方向に軌道を変え曲線状に飛んで行った。
そして2人の間に割って入るように一人の少女がこっちに背を向けこうつぶやく――
「安心して。あなたは私が守るから」
俺は微かに残った意識の中その言葉を聞くと、意識をつなぎとめていた糸が、プツリと切れた。
殺人鬼少年と転移少女 しぐれ @shigure1_1
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