2-2 今、賽は投げられた

 2限の講義を受け、その退屈さに嫌気がさして抜け出した。

 相対論の担当であるあのハゲ教授の言っていることは、相変わらず意味不明だ。

 もっとわかりやすく話せよ。あんなん他の奴らは理解してるのか?

 いや、絶対分かってない。断言できる。間違いない。

 ……というよりも、俺が分からないのに、女子とウェイウェイ言って楽しんでるような奴が理解してるなんて認めたくない。

 つまり、誰も理解してないんだから受けなくてもOK。

 我ながら穴のない完璧な理論だ。自身の才能に惚れ惚れする。

 むしろ穴だらけなのではないかという反論は、勿論受け付けない。

 そんな下らないことを考えながら、昼食をとるため学食へ向かう。


「……はぁ」


 このキャンパスで唯一まともな食事ができる学食は、新設された学生会館の1階にある。

 まだできてから数年しか経っていないこの施設は、最近のおしゃれなデザインとやらがふんだんに使われており、個人的には落ち着かない場所だ。他の学生たちは大喜びらしいが。

 そんな学食は、まだ2限の講義が終わっていないにも関わらずほぼ満席の状態だった。今日はいつもより人が多い。

 朝に最底記録を更新したテンションは、再び新記録をたたき出す。

 火曜の日替わり定食である焼肉定食が好物のため毎週火曜は学食に来るとはいえ、朝コンビニで昼食を買わなかった数時間前の自分を殴りたい。

 人の多さに辟易しながら、比較的人の少ない場所を選んで席を取る。

 焼肉定食を買いに行くため、財布を取り出そうとカーディガンのポケットに手を入れる。

 すると、何か紙のようなものが手に当たった。

 取り出してみると、それは昨日の喫茶店のレシートと近くのカラオケの割引券。

 期間限定のサービスよ、とか言われてマスターからもらったものだ。

 3日前に行った時には配っていなかったものだ。遂に客の少なさを改善すべく、近くのカラオケとコラボでもしたのだろう。


「あー、また入れっぱなしにしてたか……」


 いつもやってしまう悪い癖である。もらったものはとりあえず上着のポケットに入れ放置してしまう。

 口うるさい貴理にも、何度か注意されていた。

 またポケットに戻すと忘れてしまうかもしれないので、上着とともに席に置いてくことにする。

 席を離れて厨房の方へ赴くと、そこには長蛇の列が出来ていた。

 それも、団体で来ている奴ばかりなのか、前に並んでいる奴も後ろに並んだ奴も結構な声量で話し出す。

 朝から嫌な気分なのに、その火に油をぶっかけるような真似はやめて欲しい。

 しかし集団というのは周りのことなどお構いなしなのか、延々と大きめな声で話し続けている。

 今からでも列を抜けてどこか違うところで食べようかという考えが頭をよぎるが、それで注目されるのも嫌だ。一番近い店でも結構歩くし、焼肉定食も食べたい。

 仕方ないので、会話を脳内で鳥の鳴き声に変えてやった。


チュンチュン次の講義、お前発表だろ? 自信はどうよ?

ピーヒョロヒョロヒョロまぁぼちぼちかな……あー、発表だるい


 うるさい鳥だと思うと、少しは溜飲が下がる。

 これで、うるさい鳥は俺の短い人生の中で通算469羽目だ。

 最初は雀や雉なんかの誰でも知っている種類への脳内変換だったが、該当者が多すぎていつしかキヅタアメリカムシクイやホントウアカヒゲ等のマイナーな種類ばかりになってしまった。

 別に鳥に興味があるわけでもないのに、これほどの種類を知っている人間はそうはいないに違いない。

 因みに、もっと俺のヘイトを集めると、次はうるさい豚になる。

 こっちも、既に137匹認定者がいる。

 しばらくそうやって遊んでいたが、飽きてきたなと思ったところで丁度自分の番が来た。

 店員さんに焼肉定食を一人前頼みしばらく待っていると、香ばしいにおいを漂わせたお盆が目の前に置かれる。

 シンプルに牛肉を焼いたものに醤油ベースのたれをかけただけだが、その真髄はコスパにあるのだ。

 300gはあろうかという肉の量に、大盛りのご飯と味噌汁付きでなんと500円。食べるしかない。

 1週間ぶりの味に舌鼓を打ちながら、会計を済ませて自身の席へ向かう。


「ん?」


 席に戻ってくると、置いた覚えのないものがテーブルに置かれていた。


「これは……記事のコピーと、カード?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る