Ⅵ
保護施設
ここは懐かしい場所「保護施設ジャックブレイカー」
シマに腕を引っ張られて、魔法陣から出ると、もう見ることはないと思っていた施設長室の中だった。忘れもしないこの部屋は、施設の一番上にあって、外から見ると尖った塔のようになっている。
お仕置きをされるときに、毎度毎度呼び出されたこの部屋。屋根は三角錐のように突き出ていて、一番上に少しだけ光が入る小さな窓がある。
日の光が苦手な吸血鬼の血を引く施設長が過ごしやすいように、部屋の下の方には窓がなくて、明るさが足りないときは、部屋のあちこちにあるキャンドルに火を灯していた。
部屋には誰もいない。中央にある豪華な応接ソファーやテーブルもそのままで、まるで時が止まっているみたい。
張り詰めた空気は一層緊張感が高まり、僕は声を発することもできなくてただただシマとギンガさんの挙動を目で追っていた。二人は部屋の一角にある本棚から何かを探しては手に取り、中をパラパラとめくっている。
話しかけるな
魔法ではない、そういうオーラを発しながら二人は何かを探していた。
「ありました」
そう声を発したのはギンガさんだった。アルバムのような写真がたくさん貼られた本をシマに見せると、シマが小さな声で「残っていましたね」と言った。
「どの記憶が正しいのか曖昧となっていましたが、これで、存在していたという証拠になります。よく口を出さずに待っていましたね、アランくん」
褒められたのか貶しているのか、よくわからない言葉をかけられたけど、いったんここから出ますと言われ、僕はすぐにシマに腕をつかまれた。
「もうここは昔の施設ではありません。父がいなくなった今、ここにはもう味方はいないのです」
ギンガさんが無言で魔法陣を出し、その中に消えていく。息をつく間もなく、僕もシマに腕を引かれて魔法陣の中に入った。
◆
「一体何なんです?」
ぐったりとした二人を前に、僕は言った。ここは中央区にあるカフェ。
第3の世界ヘブンにも、栄えた市街地がある。学校や飲食店、魔法使いに必要なものが売られている小さな店や道具屋や銀行など、このヘブンの中心となる地域だ。ここでは今外で争いが起きていることなど何も感じられない。みんなが普通に暮らしている暖かい場所。
魔法陣から出たシマが初めに言った一言が「コーヒーを飲みましょう」で僕は拍子抜けした。ヘブンではコーヒーは普段からよく飲まれていて、種族が独自でブレンドしたものや各地で育った珍しい豆を使ったものなんかもある。中にはアルコールの成分が含まれるコーヒーもあった。
アルコール入りは誰でも飲めるんだけど、本当にマズいからある程度歳のいった人の嗜好品として取引されていて、値段も高価だ。
ここのカフェは、裏に会員しか入れないVIPルームのある少し格式が高い店。シマが何かを店員に見せると、僕たちはカウンターの中に通され、従業員の出入りする厨房の奥にある扉の中に通された。
「ここは、センチュリーのメンバーのみ入れる独自の結界が張られています」
さっきまでの張り詰めた空気はもうない。シマがコーヒーをテーブルに置き、話し始めた。
「なるべく順を追って話をしたいと思いますが、よく聞いてくださいね」
「はい」
「まず、僕の父、セバスチャン・ジャックブレイカーの父親、名前をナナハ・ジャックブレイカーといいます。父のオーラは金色ですが、先ほどギンガくんから銀色のオーラをした父の姿を見たと言われて、急に思い出したのです。祖父のナナハは銀色のオーラをしていたと」
「あの学園の理事長の事なんて今まで気にもとめていませんでしたど。でもなにが悪いんです?本当によくわからないんですけど」
シマは話し始めた。ジャックブレイカー家がなぜ保護施設となったのかを。
非日常の物語。第3の世界の終わりと始まり サトウアイ @iaadonust
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