金と銀

「でも、こうしてスイリュウさんがここを守っているのに空は晴れていますよね。4大ジュエルと言われる水のジュエルは今は発動していないんですか?」


 聞いてみましょう


 と、シマが小さくつぶやき、細い目でこちらを見ているスイリュウのほうに向きなおった。


 周りは相変わらずざあざあと水が滝壺へ落ちる音がして、スイリュウは優雅に宙で体をくねらせる。青い鱗がとにかく美しい。


「やはり、そうでしたか」


 シマが言った。


「どうやら、4大ジュエルはやはり伝説の物。この鳥居の先にある茶色い祠に祭られているという事は確かなようですが、これまで生き物は立ち入ったことがない聖域ですからね。本当にその祠の中にジュエルがあるのかはわからないそうで」


「ここに立ち入ろうとしていたものはすべてこのスイリュウが排除してきたってことですもんね。そしてスイリュウさんもその姿なので中は見たことがないと」


 そのようですね…と、シマが言いかけたが、またスイリュウと対話をし始めたようで無言になる。


「僕たちが見に行くしかないんじゃないですか」


 僕がそういうと、ギンガさんもだよなぁと首を振った。誰も足を踏み入れたことがないところほど怖いものはない。どんな呪いがそこにかかってるのかわからない。


「許可が下りましたので、私たちで祠の中を見させていただきましょう。ただ、これはとても危険です。祠を開けた途端、もしジュエルがそこにあってむき出しになったら何が起こるかわかりません。これはデータにもない事、未知の事ですから」


 シマは僕にそう言った。僕はここから来るなとでも言いたそうに。ここから鳥居のような白い木までは10メートルくらいで意外とすぐだ。そこから祠までも数メートルだろう。


 くぎを刺された僕は、大人しくここで待っていることにした。念のため、シマが結界を貼ってくれたのでその魔法陣の上に立ち、二人の後姿を眺めていた時だった。



『お前は古よりの使者なのか』


 太くてとても低い声が脳内に響いた。


 まさかと思って上を見上げると、スイリュウがこちらを見ている。切れ長の細い目がゆっくりと瞬きをしてもう一度。


『お前はあの時の、使者なのか?それとも初めの人間か?私が分かるか』


 危機迫る想いが言葉に乗っている。一体昔、何があったんだ?


「すみません、僕は確かに最初の人間の子孫と言われましたが、その古の使者さんとどんな関係なのかはよくわからないんですよね。どうやってこの地に生まれたのかとかも、身寄りがないので定かではないんです」


 スイリュウはもう一度、瞬きをして語りかけてきた


『それでなければ我の言葉もわからぬはず。今は何が起こっている?なぜ、この地が晴れる?神からここを守れと言われ、これまで生き続けてきたが、昨日からおかしい。体が思うように動かん。わが体はあの人柱の石と共鳴しているはずだが、その力が感じられない』


「ねぇ、それ、さっきの人にも言った?そしたらもう、もしかして石はここにないかもしれないってこと?」



「驚きましたねぇ」


 その声に僕は肩を震わせた。意外とビビりなんだよね。いつの間にかシマとギンガさんが戻ってきていた。手には何も持っていないし無傷。やっぱりなかったのかな、ジュエル。


「伝説のリュウの言葉が分かるんですか」


「神様からここを守ってって言われてずっと守ってきたけど、昨日からおかしいって言ってますけど。このスイリュウさんの体は水のジュエルと共鳴してるらしいんですけど、全然力を感じない、なんで晴れているのって聞かれてますけど」


「なんと、やはりそうでしたか。晴れているのはジュエルがないからでしょう。あの祠の中にはジュエルが乗りそうな、石でできた台がありました。焼き切られた封印の焦げた破片がありましたのできっとあそこにジュエルはあったと思われます」


 どうやら祠までの道中は何も怪しいトラップもなく普通の道だったようで、祠の扉もすんなり開いたみたいだった。後ろに浮かない顔のギンガさんが立っている。



「ギンガさん、何か見たんですね?」


「あぁ…。施設長が見えた」


「施設長?」


「銀色に輝く父の姿が見えたそうですよ。厄介なことになりましたねぇ」


 どういう事だろう?施設長が何かするときは、どちらかというと金色っぽい感じに包まれるんだけど。しかも銀色って…


「あぁ、きみはたぶんまだ知らなかったですね、僕の祖父の事なのですがね」


「祖父?」


「お前、保護施設の理事長の名前知ってるか?」


 ギンガがため息交じりに言った。


「えーっと…誰でしたっけ?」


「ナナハ・ジャックブレイカー。セバスチャンの父なので、僕の祖父です」


 誰それ?僕はこの時ただそう思ったけど、もうここにいる二人の間では答えが出ているようで。二人はなんだかすべてが分かったような感じなんだけど、とんでもないものを相手にしなくてはいけないのか、この世の終わりのような顔をしていた。


 一体どういう事ですかと問いただすが、疑問に答えてもらえないまま、僕たちはまた魔法陣で別の地域に移動した。


 去り際に、スイリュウから

「すべてが終わったらまた遊びに来い」

 そう囁かれた。

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